第36話 ソアの決断!





 ユノは主演ドラマに並々ならぬ意欲を見せている。


 年齢的にも、もう直ぐ35歳で確かに紳士風で優しさと精悍さが売りの一般人受けする逸材ではあるのだが、どちらかと言うと顔が良いからと言うより、優しさの滲み出た、どこにでもいそうな庶民的な所が受け、今尚一線で活躍している俳優なのだ。


 また身長も180㎝と公言しているが、シ-クレットブーツを履いて何とか一人前の175㎝程で、実際は66㎝と韓流スターとしては致命的な低さ。


 その為、弟役がスホだと分った時は大騒動だった。


 あの頃スホは若者から圧倒的な人気を誇っていた。


身長185㎝で均整の取れた小顔の爽やかな、当代きっての美男子。




(ああああ……嗚呼~!アア~!悔しいが、俺がどんなに逆立ちしても、あの美形には叶わない。全くもうちょっとキャスティングも考えて欲しいものだ。これじゃ完全に主役の俺が引き立て役じゃないか……)


 それは監督やプロデュ―サーにしても意図するところなのだ。


 どういう事かというと、確かにユノは癖の無い一般受けする俳優なのだが、何というか?只の善人という印象だけで魅力に欠ける、華が無い。


 また余りにもイケメン過ぎても……これまた妬みの対象。極一部のオタク風情の、世間から取り残された世間一般的にキモイと揶揄される極一部の人達からは、美しすぎるのも罪な事な事。開きが有り過ぎる。


「何だい!チョットぐらいカッコいいからって気取ってんじゃね~よ!」


「俺達って一体何~?只のゴミじゃないか~?」


「生きてる価値が無くなるじゃないか?不愉快!」と、まあ~?受け入れてもらえない。


 その為に、中和させる。世間の極一部ファンの嫉妬を和らげる為に、主役をユノにしたと言っても過言ではない。



 また韓国きっての財閥最大手家電メ-カ-『テソンゴン』の社長夫人ソア夫人のゴリ押しで、極々平民を主人公にしたユノ有りきのドラマになっている。


 それでもユノだけではあまりにも味気ない、大味なドラマになり兼ねない。


 今までもそうなのだが、ユノ主演のドラマはソア夫人のゴリ押しで製作されているのだが、華が無いと引き立たないから、必ずと言って良いほど、超イケメンか、絶世の美女を起用している。


 そんなスタッフ一同の苦労も顧みず「俺が主演するから視聴率が取れているんだ!」


 何処からこの自信が沸いて来るのか分からないが?うぬぼれ切っているのだ。出演者達の前では、そのイケメン達に散々演技のダメ出しをしている。


「役柄になり切っていない。こんなんじゃドラマが只の幼稚園の学芸会になる。止めてしまえ!大根!」


 何も監督がちゃんと付いているのに、でしゃばる必要はないのだが、監督や他のドラマスタッフが居ない時に限って、共演者の前で相手が完全に自信喪失するまで追い込むのだ。


 他の共演者達もユノの演技力には屈服しているから、異を唱える者など誰一人としていない。


(長く俳優をやっていれば誰でも演技は磨かれますから……)


 それから、主役に逆らう事は役を失う事なので怖くて逆らえない。


 このようなユノのような先輩も少なからずいるのが現状。その為……将来を嘱望された幾多の新人俳優たちが、芸能界から去って行った事か。


 ユノはこのドラマでスホばかりが脚光を浴びる事に我慢が出来ない。

 とうとう堪え切れずに、鉄の結束とまで呼ばれているソアに相談した。


「あんな大根では視聴率がいつ下降するかもしれない、視聴率の為にもスホの為にも準主役の座から引きずり落として欲しい。やはりスホも今のままでは人気だけで薄っぺらだ。もっと演技の勉強をして貰わないと?だから頼む!」


「じゃ~?一度スホという俳優と会いたいわ?そこでまた考えましょう」


 ユノは(ソアは俺無しでは生きていけない身体だから、まかり間違ってもスホに気持ちが傾く訳が無い。まさか25歳も年の離れた坊やに気持ちが傾くなんて有り得ない!)


 そしてスホは先輩ユノの付き合いでソアと待ち合わせの、ホテルのラウンジに出掛けた。


 ソアは高級ホテルのラウンジで待っていた。

 スホは上品な、いかにも上流階級の貴婦人風のソアに釘付けになった。


(45歳の財閥最大手家電メ-カ-『テソンゴン』の社長夫人だけあって、洗練された美しい人だな~!)


 一方のソアも、今まで心底愛して来たユノの横を何とも美しい白馬の王子様のような爽やかな、まだ少年に毛が生えた様な一番綺麗な盛りのスホに、釘付けになった。


 一方のユノの貧相な事?あまりの違いに(今まであんなチンチクリンの冴えない男に夢中になっていたのかしら?)ユノに対する気持ちが一気に冷めて行った。


 そしてホテルのラウンジで自己紹介の傍ら他愛無い雑談をして、その日は別れた。


(何とも言えない感じの良い子。あんな子をドラマから引きずり下ろすなんて出来ない!)


 ドラマを見直して本当にそれ程演技が下手か再確認している。


 そこで分った事は、このドラマはユノで持っているのではなく、スホ有きのドラマだという事が分かって来た。


 演技力も決して下手ではなく、悲劇の弟役を見事に演じ切っている。弟役はこのスホおいて他には見当たらないとの結論に達した。


(それでもユノが役から降板させたいのには何か理由があるに違いない?)


 ソアは新聞や雑誌などありとあらゆる雑誌に目を通して、スホの現在の立ち位置、国民の声をつぶさに調べている。更にはユノの現状も調べ上げた。


 そこで分かった事が有る。


 それはとっくの昔に人気に陰りが見えていたにも拘らず、自分可愛さに若い才能を潰し、今の地位を維持しているのだと……。

 そしてこの100年に一人の逸材と歌われているスホまでも、自分可愛さに潰そうとしている事も分かって来た。

 ユノの最後の悪あがきだったのだという事を……。


(あんな、さしてイケメンでもないくせに、周りの才ある若者たちを潰して自分だけが、いつまでも生き延びようなど、到底許されぬ事)

ソアは決断した。


 それは……?







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