第35話 ユノの策略





 あのベランダ伝いに消えた20代後半~30代前半青年は誰だったのか……?


 手掛かりも掴めぬまま月日は過ぎて行った。



 ******

 

 スホは20歳でドラマデビュ―を果したが、最初の処女作は主演俳優キム・ユノの弟役でデビューを果たしていた。


 その時は、余りの爽やかさで主演俳優ユノよりもスホが話題になり、一躍スタ―ダムに伸し上がったスホだったのだが、陰では壮絶ないじめが繰り広げられていた。


 ユノはキャスティングの段階からスホに難色を示していた。

 それはどういう事かというと、スホは養成所通いの傍ら雑誌のモデルも兼用している。それは……余りのイケメンぶりに雑誌社からのオファーが、跡を絶たないからなのだ。


 その頃からスホは若者から圧倒的な人気を誇っていた。それはそうだろう。身長185㎝で均整の取れた小顔の爽やかな、当代きっての美男子。


 それに引き換えユノは年齢的にも、もう直ぐ35歳で確かに紳士風で優しさと精悍さが売りの一般人受けする逸材ではあるのだが、どちらかと言うと顔が良いからと言うより、優しさの滲み出たどこにでもいそうな庶民的な所が受け、今尚一線で活躍している俳優なのだ。


 また身長も180㎝と公言しているが、シ-クレットブーツを履いて何とか175㎝。実際は166㎝と韓流スターとしては致命的な低さ。その為、弟役がスホだと分った時は大騒動だった。


「監督あんなまだ19歳の若造で演技も、てんで話にならないスホとか言うモデルは絶対ダメですよ。あんな男を弟役に起用するんだったら僕は主役を降ります」


「まあ~?そんな事を言わずに仲良くやって行こうじゃないか……」


 監督も主役のユノがゴネるので四苦八苦している。


 大体主演俳優の弟や妹は、まだこれから将来が期待される新進気鋭の若者が起用される事が多く、スホが弟役になっても何の不思議も無いのだ。


 ユノの心情は(こんなイケメンでは自分が食われてしまう。只の引き立て役になってどうする?このドラマでまた一つも二つもステップアップして……もっともっと高みを目指したい……その為には自分がいかに魅力的でファンの心を掴むかなのだ。その為には何としても、自分よりも影の薄い若手俳優を起用して欲しい)そればかりなのだ。


 そんな事も有り、スホが目障りで仕方がない。


 芸能界で確たる地位を築くには、男はスカウトされて特待生待遇で養成所に送り込まれるか?親に財力が有るか?はたまた大口のお金持ちを捕まえるか?まあ~?要はハイクラスのパトロンを掴んでいるかどうかなのだ。


 ユノは一般家庭出身の、さしてイケメンでもなく唯一誇れるのは、子供の頃から人間関係を築くのが非常に上手い、人たらしと言う特技を持っている。


 上手く相手に取り入り、気分良くさせて(こいつが居ないとつまらない。必要だ!)


 そんな性格が功を奏して、今までどんな時も実力以上のポジションに就けていたユノは、この芸能界でも上手く人を喜ばせ、転がして今の地位を築いて来た。


 まあ~?主役を張る人物にすると二度美味しいとはこの事だ。


 自分よりも見劣りのする、自分を思い切り持ち上げて楽しませてくれる、この男なら準主役に打って付け、第一自分が引き立つので……。


 やはり夢を売る世界は、見てくれが肝心……さしてイケメンでも無い小柄な男を横につけておけば自分がぐっと引き立つ。


(いつも人たらしな性格が、功を奏して自分の実力以上の高見にも思いの外簡単に、上って来れた気がする)


 何を血迷ったのか、こんな自分とは似ても似つかない世界に飛び込んでしまった。

 俳優養成時代にも、とてもじゃないが特待生になれる器量ではなかった。


 お金は湯水のごとく出て行く。その為短期間で稼げる高級ホストバ―でのアルバイトを始めた。そこでソアと出会った。



 また…そんな財閥最大手家電メ-カ-『テソンゴン』の社長夫人ソア夫人が何故?ホストバ―なんかに???



 それは財閥最大手家電メ-カ-『テソンゴン』のウヌ社長に問題が有る。金に物言わせて若い愛人をあちこちに囲っている。


 それでも優秀な後継者を産んでくれた大切な妻は、捨てる事は出来ない。


 妻のソアにしても(せっかくここまで辛抱したからには、何としても優秀な息子を『テソンゴン』の跡継ぎに!あんな薄っぺらな愛人達に会社を奪われて堪るか!)

 その一念で辛抱している。


 社長ウヌと妻ソアの間にはもう愛と呼べるものは何もない。お互い妥協で結婚生活を送っている。社長が好き勝手して妻を顧みないのだから、妻も好き勝手にしているのだ。


 また子供達もママに肩入れして「ママが可哀想すぎる!」と父に……やいのやいのと、うるさく食って掛かるので妻が何をしようが頭が上がらない。

 

 それを良い事に、まだあの時は45歳の女盛り、会員制のデ-トクラブもあるのだが、ソアはこのホストバ―に通い出した。


 完全個室で、かなりの競争率を勝ち抜いて選ばれたイケメン達が、ズラリといる。


 個室にイケメンが番号を付けてズラリと入って来て、好きな相手の番号を記入する。


 その時に決してイケメンではなかったのだが、やはり人たらしの人の心を鷲掴みにする優しそうで、こんなに若いのに全てを見透かしたような、この子になら今の苦しみを分かち合える。共有して貰えると思ったのだった。


 それからは時間が空くと、このホストバ―『ヘンボカダ』に、入り浸りになって行った。苦しい胸の内を理解して包み込んでくれるユノ、更には今までに会った事の無い抜群のテクニシャン。


 ソアはユノに身も心も奪われ湯水のごとくお金を使っている。


(ユノ無しでは生きて行けない。ユノが居ない人生など死んだも同然!どんな事をしても離したくない!)溺れ切っている。ユノはこんな太い上客を掴んだのだった。


 要はパトロン。


 2人の結束は堅く極近親者からは鉄の結束と呼ばれている。


 そこでスホが目障りで仕方ないユノはソアに相談した。


「あのスホを準主役の座から引きずり落として欲しい。頼む!」


「じゃ~?一度スホという俳優と会いたいわ?そこで……また考えましょう」


 ユノは(ソアは俺無しでは生きて行けない身体だから、まかり間違ってもスホに気持ちが傾く訳が無い。まさか25歳も年の離れた坊やに気持ちが傾くなんて有り得ない!御好きにどうぞ……}


 そしてスホは先輩ユノの付き合いでソアと待ち合わせの、ホテルのラウンジに出掛けた。


 一体どんな罠が仕掛けられているのか……?





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