第31話 何故木村が久美子2号を殺したのか?





 木村は以前ドユン氏の下で働いていた経緯が有る。勿論、久美子2号がドユン氏の愛人である事も知っていた。賢いドユン氏は、反逆の目論見は微塵も見せなかった。


 星日亡き後、側室達の処遇を考えないといけない。


 品階が上がる際などに、星日から側室に不動産や奴婢(下女)をたまわっていた者達や現金をたまわっていた者達を、一般市民に戻すなどの手配が山積している。


 その時に、極々一般家庭出身の北朝鮮美女軍団の一人で、数ある側室の中においても、さして目立つ存在では無かったリアと言う女性とドユン氏がやけに頻繫に面談をしている事に、木村は疑念を抱いた。


(何故あの側室だけ特別扱いをするのか?)木村は秘密裏に動向を探らせている。


 するとそのリアという女性には、星日との間に誕生したジフという王子が居た事が判明した。


 まだ満正より5つも若い、そのジフ王子には光が当たらなかったが、非常に成績優秀な逸材なのだ。


(あれだけ忠誠心の塊のドユン氏がまさか?)とは思ったが、用心には用心をに越した事はない。色々探ってみるとやはり着々と準備を進めていた事が、分かって来た。


 それはどういう事かというと、ドユン氏は星日の側近中の側近。


 星日が早い段階で肝癌を患っていた事は知っており、その悪化により肝硬変もかなり悪化していて、いつ亡くなっても可笑しくない状態な事は百も承知だった。


 肝癌は症状も出にくく、分った時点でもうかなり進行している事が多い怖い病気。だ。それがゆえに、沈黙の臓器とも呼ばれている。


 実は肝癌と分った時点からドユン氏は、ジフ王子に目を付けて着々と準備をしていた。そして……このジフ王子を王様にと狙いを定めている事も分かって来た。



 木村は(これでは満正も、いつ命を狙われるかもしれぬ?ましてや愛する久美子だっていつ命を落とすやもしれぬ。何とかしないと?)


 その為、丁度幹部達が出払ったこの機会に、何とも運の悪い事。こんな警備も手薄な日に久美子が嫁ジウと、旅行に行くというではないか?その為にも影武者久美子2号を邸宅に居座らせた。それは用心には用心をに越した事はないからだ。


 家にいる事を確認出来たなら、例え嫁ジウと旅行に出掛けても誰かに付け狙われる危険性は極めて少なくなると言うもの。そして…遂に嫁ジウが本性を露わにした。久美子2号を殺害したのだ。


 


 それは久美子の影武者を提案したのが、木村だったからなのだ。イヤ?真っ先にその提案に乗ったのがドユン氏。


『ニワトリが先か、卵が先か』(どちらが先なのか分からないという意味)木村とドユンどっちが先に、影武者の提案をしたのか分からないが?


 久美子の影武者は3人いるが、パット目には全く分からない。勿論、木村はもう長い間ドユン氏と久美子2号は愛人関係にあるので、久美子2号の事は直ぐに分かっていた。


 ドユン氏側も、「満正暗殺の為には、まず…女帝久美子一派の動向を探らなければいけない……」


 ドユン氏は女帝久美子と木村の関係は知らない。それは、こんな噂話には疎い仕事人間のドユン氏でさえ、ハユン妃と木村が長きに渡りS島で共に暮らしていた事は知っている。

 まさか…あれだけプライドの高い女帝久美子が、ハユン妃のおさがり男と関係が有ろう等努々思っていない。そんな情けない。有り得ない事だと思っている。


 こうして…木村からの連絡でドユン氏の愛人久美子2号を、刺客として送り込んだのだった。


 


 危機一髪難を逃れた本物の久美子は、北朝鮮ウォンサン北西側にある、もう何年も放置されている忘れ去られた特閣(別荘)に身を隠している。



 久美子2号が殺害された事で幕を閉じたこの事件は、益々警備の重要性が重視される事件となった。

 

 歳月が流れ……

 木村はもう護衛の仕事はとっくに卒業して、今は大幹部に上り詰めている。

 

 ◆▽◆

 星日亡き後、星日の側近朝鮮労働党統一戦線部長リ・ウジンが、廃妃同然で辺境の地に追いやられていた正妻ハユン妃を、政治経済の発信拠点、平壌に戻した第一功労者だった。


 だが…このような野心家リ・ウジンの行状が祟り、星日亡き後、反逆罪で粛清された10有余人の中にリ・ウジンが居た。


 満生の妻ジウの父親で大学教授リ・ジホにすれば、一心同体同然の弟リ・ウジンの死は到底受け入れられるものではない。それは当然娘で満生の妻ジウも同じ思い。こうして復讐の連鎖が広がって行った。



 更には、弱冠28歳の若さで最高指導者となった満生が、有る日御付きの者達と鹿狩りに出掛け忽然と姿を消した。

 またしてもハユン妃一派の仕業。それは久美子にすれば許しがたい真実。可愛い満生を誘拐した不届き者の味方をするなど到底許されぬ事。ハユン妃の娘スアの婿最高幹部キム・ハジュン一派にさらわれたのであった。


 こうして久美子の逆鱗に触れたハユン妃の娘婿キム・ハジュンは粛清という名の下に殺害された。


 

 ◆▽


 星日の姉の夫パク・ドユンは、北朝鮮高官のトップで、この国の人脈、実力№1と目されている人物だが…星日の忘れ形見で優秀なジフ王子を最高指導者にと目論む男そして…久美子2号は愛人。


 更にはハユン妃一派にはハユン妃の娘と娘婿更には…最高指導者満生の妻ジウが加勢している。


そして…女帝久美子には計り知れない苦労の歴史に裏打ちされた経験と知性、それには誰も太刀打ちできない。だから…満生は母を一にも二にも信頼しきっている。その結束は揺るぎのない物。

『権力の座を巡って壮絶な戦いが繰り広げられる』


ハユン妃一派は、久美子の影武者の存在など全く知らない。本丸御殿敷地内の別宅に住んでいるのが、久美子だと思って疑う余地など微塵も無かった。

 

 まさか…久美子の影武者がいようとは……それは最高指導者満生と妻ジウも全く聞かされていなかった。


 こうして…久美子2号は満生の妻ジウによって殺害された。



 ◆▽

 ハユン妃と久美子の2人は木村を奪い合って、木村は久美子に寝返った?

 

 ハユン妃が朝鮮労働党統一戦線部長リ・ウジンによって辺境の地から戻れたのは事実だが、実は…中国と北朝鮮の鉄鉱石輸出に携わっていたウジンは、不正にその利益の一部を着服していた。


 それを木村から聞き出していたハユン妃が、ウジン氏を脅したので仕方なく平壌に強引に返さざるを得なくなった。こんな事をしていては粛清されても致し方ない


 そして…星日亡きあと、木村も優秀な右腕として女帝久美子の元に戻った。

 当然満生が政権を握っているので、久美子も本丸に居を構える事となった。


 だが…子供の手間木村との生活を大切にしたかった久美子は、本丸御殿敷地内の別宅に木村との居を構えた。

「フフフ嗚呼……💕。*・゚゚愛している💋ああぁ……」


「僕もだよ:*:・'°☆やっと💕やっと*・゚゚💘プチュ愛している」


 一方のハユン妃は木村が久美子邸に常時滞在していると聞き付け、穏やかな精神状態ではない。いつ久美子に寝返るやもしれない。精神的に追い詰められ電話抗戦に出ている。

「木村……会いたい!あれだけ愛し合った仲ではないか嗚呼……戻っ

 て来て……お願い」


 この愛憎劇の果てには……




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る