第9話 おっさん、バズる

「はあはあ……」


 やっとブラックウルフとスライムから開放された俺。

 顔は舐め回されすぎて、少しヒリヒリする。


「ケイお兄ちゃん、見て見て! コメントがすごいの」


 倒れている俺に、ひまりが俺にスマホの画面を見せた。


《もふもふすげえかわいい》

《スライムぷにぷにでいいなあ》

《すげえ癒される》


 コメントは肯定的な内容ばかりだ。


「……ひまりちゃん、配信なんてやってたの?」

「あ……うん。えーと、ほんのちょっとね……」


 ひまりは言いよどんだ。配信者をやっていることを、知られてたくないのか?


「へえ、ひまりちゃんはどんな配信やってるの? 俺にも見せてほしいなあ」

「ケイお兄ちゃん、なーんかオジサン臭い!」

 うっ……「オジサン臭い」は一番グサっとくる言葉だ。

 特に俺みたいに、心のどこかでまだ自分が「オジサン」だと認めていない男には、ダメージが大きい。


 落ち込んいる俺を見て、ひまりは、


「ごめんね。あたし、チャンネルだけ作っていたの。だってどうせ、あたしの配信なんて誰も見ないし……」


 ひまりは、悲しげな顔でうつむいた。

 どうやら、俺は地雷を踏み抜いてしまったらしい。


《ひまり神……》


 シャオは身体を伸ばして、ひまりの頭を撫でた。

「あたし……ずっとここにいたい。帰りたく、ない」

 ひまりはその場に座り込んだ。


「ここで、シャオと、ウルフちゃんと、ケイお兄ちゃんとずっと一緒にいたい……」


 泣いている。

 ひまりが、泣いている。

 突然のことに、俺は戸惑ってしまう。

 こういう時、何か気の利いたことでも言って、泣いている年下の女の子を慰めることできれば……オッサンのくせに何もできない自分が、情けなかった。


《ご主人様、泣かないで》


 ブラックウルフが、ひまりの涙を優しく舐めた。


「ウルフちゃん……ありがとう」


 ひまりが少し笑った。

 昔、ひまりが泣いている時、三毛猫のシャオが、ひまりの涙を舐めていたっけな。

 俺はその時も、じっとひまりを見ていることしかできなかった。

 ただ、俺も歳を重ねたんだ。何かできることがあるはずだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る