第5話 おっさん、JKと手を繋ぐ

「さあ、入るぞ……」

「うん! ケイお兄ちゃん、がんばろー!」


 まるでピクニックでも行くみたいに、明るい声で返事をした。

 危ないから、ちゃんと注意をしておくか。

 涼子おばさんがいない今、俺がひまりの保護者だから。


「おいおい……ひまりちゃん。ダンジョンでは命を落とすかもしれないんだ。ふざけちゃダメだぞ」

「はーい! ケイ先生!」

「あのなあ……」


 元気になってくれたのはよかったけど、今度は逆に元気になりすぎてしまって心配だ。


「ほら、ヘルメットをかぶって」

「えー! 重いしイヤだよ」

「ダメだ。ちゃんとつけなさい」

「はーい……」


 ひまりは不満げな顔で、防災用のヘルメットをかぶった。

 俺は家から防災グッズを持ってきた。懐中電灯に、水に、ラジオに、乾パンだ。ダンジョンで役に立つかはわからないけど、とにかく万全を期したい。


「……ケイお兄ちゃん、手、つないで……」


 暗いダンジョンの入口の前で、ひまりが俺の左手をつかんだ。

 昔、夜、ひまりの手をつないでトイレに連れて行ったな。

 そうだった。本当のひまりは、すごく怖がりの女の子だ。

 さっきから妙にテンションが高いのは、恐怖をごまかすためだったのかも。


「怖いなら、無理して入らなくてもいいんだぞ?」

「ヤダ! スライムちゃんとお別れしたいし、ケイお兄ちゃんだけだと心配だから」

「俺、そんなに頼りなく見える?」

「だってケイお兄ちゃん、しっかり者に見えて意外と抜けてるところあるから」


 むう……13も年下の女の子に心配されている。


「あたしがいなきゃダメだよ。ケイお兄ちゃんも、ダンジョン入るの初めてなんでしょ? 仲間は多いほうがいいよ」

「そうだな……」


 ひまりの言うことには一理ある。ダンジョンでは何が起こるかわからないから、仲間は多いに越したことはない。


「こういうの、パーティーって言うんでしょ。あたしとケイお兄ちゃんは、同じパーティーメンバー。あたしのことも信用して」


 ダンジョン探索者たちは、パーティーと呼ばれるチームを組んで、危険なダンジョンに挑んでいる。普通は4人でパーティーを組むことが多い。

 それぞれに役割があって、剣士や武闘家で、前衛でモンスターを攻撃する役や、ヒーラーや魔術師で、後衛で回復や支援を行う役もある。

 普通、ダンジョンに入るには、ダンジョン調査庁で探索者登録をし、スキルと呼ばれる異能を授かる必要があった。

 今から俺たちがやることは、ダンジョン調査庁の許可を得ないでダンジョンに入るから、探索者法違反になる。

 しかも俺たちはスキルがないから、モンスターと出会えば逃げるしかない。

 武器と言えば、家にあったモップだけだ。

 ただ……このダンジョンはまだ俺たちと田中さんだけしか知らないから、すぐに戻ってくればバレはしないだろう。


「絶対に手を離すなよ」

「うん! 絶対離さない!」


 俺とひまりは、しっかりと手をつないだ。

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