終章 エピローグ

第30話 そばにいてくれなくても そばにいさせてほしい(前編)

 〝愛情〟って言葉があるけれど 愛は情なんだろうか


 俺はそうは思わない


 〝愛の力は何物にも勝る〟って でも愛は力なんだろうか


 俺はそうは思わない


 誰かさんは〝真実の愛〟を求めてるって


 でも真実って一つしかないものなんだろうか


 俺が求めている愛ってなんだろう


 〝真実の愛〟だって? 俺にはまだわからない


 愛は俺 愛はお前 愛はすべて




 〝誰よりも愛してる〟だって? でも愛に量なんてあるのだろうか


 俺はそうは思わない


 〝何よりも愛してる〟だって? どうやって愛を量ろうって言うんだ


 俺はそう思ってた


 みんなは〝愛とは信じること〟だって言うよ


 お前に言わせりゃ〝愛ってただの信頼なの?〟


 〝愛は信じること〟?


 俺に言わせりゃ それはむしろ〝信じることも愛〟だってさ


 愛はお前 愛は誰か 愛は何か




 お前はどう思う? Tra la la... Cha la la




 〝愛〟だって 愛って何だろう 俺にはまだわからない


 〝恋〟だって 恋ってどんなもの 俺にはわかるつもりさ


 お前は知ってるかい?


 〝愛〟だって 自分なりの愛 俺はどうやって表わそう


 お前はわかってくれるかい?


 愛はどこ 愛はいつ 愛は永遠




 〝死ぬまで君を離さない〟だって 死ねばおしまい


 だったら俺は 死んでも君を離さないって


 そう言いたいところだが それじゃただの束縛


 死んだとしても永遠に 言うならむしろ


 ずっと俺について来い……?


 ああ やめた やめた 俺が言いたいのは


 ずっとお前について行く


 そうでも言わなきゃ 自由なお前はわかってはくれない


 どんな奴からもお前も守ってやろう


 そう言ったって 独りよがりなお前は……


 気が変わったよ 言おう 〝二人で協力し合いながら〟




 いい加減に少しぐらい振り向いてくれ


 そんなにそいつが好きなのか


 俺は愛なんてわからないけど


 俺だってお前が好きなのに


 そいつが愛を知っているとでも言うのか……


 悪かったよ じゃあ また明日


 聞かせてやるよ 馬鹿げた愛の詩




「と、今日はこれで終わりだ。ボーカルとベースはジェリー・フィッツ、ギターはオリーブ・ディーン、ピアノはジニー・レオンでした。じゃあ、またヨロシク!」


 酒場中から拍手を浴びたこのグループ、バンド名を『Heimdall』という。デビューしてまだ3ヵ月ほどだが、ヘル~ニーベルンゲン辺りではナンバー1の実力。


「……以上、『ヘイムダル』で曲は『ひねくれ者』でした~っ!!」


 拍手喝采を浴びながら、三人は楽屋へもどった。

 楽屋にはヒゲの男と、娘が一人。


「いや~、悪いねトールさんよ」


「悪いよ! ……ったく、今日もロック&ロールやらなかったんですか、ジェロムさん? これじゃ俺様のドラムの腕もなまっちまうってもんでしょう?」


「わかってる。明日……は休みだから、あさってはロックで決めるとしよう! いいよねえ、マネージャーさん?」


「カレンでええて言うたやろ! あさってはパンデモニウムでの最終公演や。今まで作った17曲全部、頼むで」


「私はかまいませんわ。でもリディアさん、ギター大丈夫ですか?」


「ま、ジナイダさんはピアノでずっと座ってるからいいでしょうけどね。な~んて、ごめんなさい。大丈夫、私やります!」


「じゃ、決まり!」


「じゃあ、プロデューサーのハックルに最後の曲にアレ・・使うって言っておいてくれよ」


アレ・・言うと……アレ・・かいな?」


「そうだよ。作詞ヘイムダル・ラスプーチン、作曲トーマス・ガウェインの『インナーライト』」


「インナーライトかぁ……」


 ジェロム、リディア、カレンも、トールもジナイダも、その言葉を耳にして、あの時を思い出した。

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