第29話 敵

「安心したか?」


 その一声でジェロムは目を覚ました。

 聞き覚えのある、それもイヤな声。イミルだった。


「驚いたろうな。わしが生きているとは思ってもみなかったろうに。でも気付くべきだったな。向こうにいるリヴァイアサンを召喚したのはアエギルではなく、このわしだったのだよ」


「でも……お前はアヴェンジャーで……」


「ふん! あれぐらいで……一撃ぐらいで死ぬとでも思ったのか? わしは窓から飛び降りた後、地面に向けて突風の魔法を放ち、わし自身が落ちたように音でカモフラージュをした。お前らはおそらくその音にだまされたのだろう? 死体をたしかめもせずに。


わしはその後すぐ瞬間移動の魔法で逃げ、さらにフレイの奴から受けた傷を回復させ、スルトたちにお前らの居場所を教えた……。頭を使えば魔法も引き立つというもの。やたら魔法ばかり使うベルゲルミールやガルムとは違うわ!」


「こ……今度こそ、てめーをぶちのめして……」


「その状態では無理だな。インナーライトの秘密は分かったぞ。さっきのあのメロディで心の中にある何か・・を光の力に変え、さらにそのメロディはブリーシンガメンの力も引き出すとな。


しかし残念だった。ブリーシンガメンの力があんなつまらんものだったとはな。復元してもまた壊せば同じことではないか」


 イミルはグラールを拾い上げようとした。しかし手を触れたとたん、グラールから出た白い光がイミルを拒んだ。


「……少し聖なる力とやらが増したか……上等だな!!」


「へっ……どうやったってあんたには壊せねーよ。バカ」


「バカか……それはどっちの方か、よく考えてから言うことだな」


「命乞いなんかするよりは……最後まで闘って死んだ方が……でも俺は死なねーぞ……こんなことで死んだりしねー……俺には……」


「黙っ……!」


 何かがジェロムの目の前の地面に落ちた。何と、イミルの両腕だった。

 驚いて顔を上げてみれば、すでに首ももげていた。


「どっうあああっ!! 何じゃこりゃあ!?」


 間もなく、イミルの後ろにいたカレンとリディアの口ゲンカが始まる……


「大丈夫やった? ジェロム……助かってよかったわぁ。うちの攻撃がもう少し遅かったら……」


「でも私の方が早く、速く攻撃できたわ。先に首をとったのは私よ」


「何言うとんねん! うちのが先や! うちの愛がジェロムを救ったんや!」


「も……もしそうでも……そうだわ、ジェロム! どっちの方が先だった!?」


「俺が先に見たのは……腕が落ちてきて……」


「ほれ見い! うちがやっぱり……」


「でもその時にはすでに……ってよお、こんな不気味な話やめようぜ、カレン」


「まー……ジェロムがそう言うんなら……」


 戦いは本当に終わった……(?)。11月11日のことだった……。

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