第30話 そばにいてくれなくても そばにいさせてほしい(後編)

 ……ローエングリンの手がグラールを持ち上げた。


「北に行くんですね」


「はい。北で……寺院を建て直しますよ。そして私も父のような聖騎士パラディンになります」


「何だ、あんたパラディンじゃなかったのか~」


「そうだったらとっくに正体を知られて消えてますよ。……では行きましょう、教皇」


「本当に感謝していますよ、勇者ジェロム……」


 騎士ローエングリンは……教皇ギネビアを連れ……北へ去った……


「じゃ……俺様も行くとするか」


「トールさん……ん……!? その船はどっから持って来たんだ!?」


「は!? ……え!? 何で!!??」


 何気なくトールが乗ろうとした船……でもトールはジェロムたちとスレイプニルに乗って来たはずなのだ。


 その船に立てられた旗に描かれていたS・Wシャドーワルキュリエの文字……そして甲板に立っていたフェイと、トム・ディック・ハリー他数名……トールは号泣した。


「な……なに泣いてんですかねぇ、姐さん」


「さ~ね、大方あたしらが死んだとでも思ったんじゃないの~? 海龍に船ごと沈められたからさ~。お~い、ジェロム君!」


「何だ、生きてたのかよ、みんな……よかったよな……。でもその船は?」


 ジェロムが聞いてのを見て、フェイが軽く笑う。

 その後間もなく船から降りたのは意外にもホビットの……


「グラント!?」


「おっと、これはジェロムのだんな。本当に勇者になっちゃったみて~だね。この船はこの前麻雀で大敗した時の代金さ。知り合いのドギっていうドワーフに作ってもらったんだよ」


「そ……それ……それじゃ……また……姐さんと……暴れられるんスね!?」


 トールが急に顔を上げて言う。


「当ったり前、そういうことさ。来るかい? トール、それとジェロム君たちも。王子様と王女様をお送りしなきゃならないんだろ?」


 ジェロムたちはトールを先頭に全員、船へ乗り込んだ。




 ハリーが舵をとっている間、トム、ディック、トール、フェイは船室で麻雀をやっている。


 グラント、フレイ、フレイアとジナイダ、カレンはそれぞれ分かれて別の話をしている。


 そしてリディアは一人、マストの上で遠くの海を見ている。気になるジェロムはマストをよじ登り、リディアに話しかけた。


「あの……何かあった……の?」


「……なにもしないで死んじゃってさ……先生……」


「あ、ゴメン……でも……なにもしなかったか? オーディンさん、あの人がおめーに槍を教えてくれたおかげで、俺も何度か助けられたしよ……俺自身もなんつーか……その……あれ、何かを教わったような気もするしな。勇気とか……。俺って……偉そーかな……?」


「……ううん……ありがと……」


「……よかった……。それはそうと、言いたい事が……あるんだよ。……こっち向いてくれよ……」


「……はい。……何……?」


「せっかく二人になれたから言うけどよ……」


「?」


 ジェロムはリディアを抱き寄せて、言った。


 カレンも……見ていた。




  *




「うわああっ!!」


「な、なんや! ジェロム、急に騒ぎよってからに……」


「はっ……な……なんでもねー……ちょっと……思い出して……な……」


 ジェロム、顔をおさえて下を向く。リディア、なぜか汗をかいている。

 が、その時。


 ちょうどハックルが入ってきてくれたおかげで時が動き出した(は~?)。


「あ……れ? みんな何してるんですか? そう、これ新聞です」




5月29日付 ビフロスト新聞


……アスガルド国王子フレイ、ヨトゥンヘイム国王女ガートルードと結婚

  同じく王女フレイア、ヘル帝国第二皇子オードと婚約発表……




「ほ~。カレンとハックルもそろそろ……だしね。……いろいろあるね~……」




『理屈』


  詞/ジェロム・フォン・フィッツジェラルド

  曲/ジナイダ・レオンチェフ&リディア・オリビア・ディーン


 勇者には勇気が必要だって


 みんな言うし 僕も賛成だけど


 勇気って何か 考えたことあるかな


 勇気  自分を見失わないこと


     自分の恐怖心に立ち向かって行くこと


     敗北を恐れないこと


     恥を恐れないこと


     欲望に負けないこと


     希望を捨てないこと


     正義を信じること


     悪に屈しないこと


     死を終わりと考えないこと


     苦しみから逃げないこと


     信念を疑わないこと


     悪を悪とわかること


     誰かを信じること


 そう 信じなきゃ 仕方ないさ


 誰かを 誰かのために


 誰かのための勇気


 自分のためじゃなくて


 誰かのための


 それが大事


 それが僕の言いたかったこと


 いいや 言いたいこと




「みんな ありがとう」

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