学祭

 朝だ…。

 今日は学祭1日目。各クラス毎にイベントを行う日。僕のいるクラスは、カフェだ。


『僕がいるからって、カフェじゃなくていいよ。』

『いやいやいや!今年はね、カフェじゃないんだよ、翔吾君!』

『タダの…って。今までもお金貰ってたよね?』

『ボケてんの?そーゆー意味じゃない!今年はなんと!メ・イ・ド・カフェなんだよ、翔吾君。わかるかね?』

『あー…ハハハ…』

『だから、君もメイドとして頑張ってくれ!ちゃんと言うんだぞ?【美味しくなぁれ!マジカルニャンニャンパワー!】ってな。』

『は?いや…それはちょっと…』


 裕太との会話を思い出すたび、ため息が出る。マジでやるのか心配だ。


 今日はいつもより1時間早く家を出る。家の中はシン…としていた。土曜日だし母さんも絢也しゅんやも、まだ寝ているだろう。

 僕は学校へ行く支度をし、そっと玄関のドアを閉めた。


 学校に着くと、いつも遅刻寸前にしか来ない裕太がいた。最終準備でクラスを仕切っている。僕は目立たないように、そっと後ろのコーナーに行く。

「おい、翔吾。お前、今日はこれを着ろ。」

 いつの間にか裕太が後ろにいて、衣装を渡される。服を広げると…

「メイド服…?」

 裕太がニヤリと笑った。

「勘弁してくれ。」

「いいじゃん、着て見せてよ。」

「お前が着ろ。」

 僕はメイド服を裕太に突き返した。

「ちょーっと、裕太!藤川ふじかわをいじめたら可哀想だよ。ごめんね、藤川。君の衣装はこっち。」

 衣装担当してた女子が渡してくれたのは、ベストと蝶ネクタイだった。

「なんだ、つまんね。可愛い〜翔吾のメイド姿を見たかったのにぃ。」

 僕も周りにいたクラスメイト達も、大笑いした。楽しい学祭の始まりだ。


 カフェは今年も好評で、僕のラテの他にもクレープやケーキ、プリンが並んだ。

 僕は大忙しで、ラテの作業三昧だった。


「ラテくださる?」

「はい!」

 ふいに声をかけられ、振り向くとそこには誰もいなかった。

「え…」空耳か。

 また作業を始めると

「ラテくださる⁉︎」

 振り向くと誰もいな…

「それ、ワザとですの?下ですわ、下!」

 目線を下に落とすと、小さな女の子…いや、以前、店に来てくれた少女が頬を膨らませにらんでいた。

「ああ!君は、確か…」

 もちろん名前は聞いてないので知らない。

綾小路鈴華あやのこうじすずかですわ。」

「あ、綾小路さん。いらっしゃいませ。今日は制服姿なんですね。」

「私服で来たら、小学生と間違われますもの、当然ですわ。」

 それに気がついた裕太が、こっちに来た。

「へぇ、翔吾の知り合い?」

「綾小路鈴華と申します。以後お見知りおきを。」

「ど、どうぞよろしく〜鈴華ちゃん。俺は久野裕太。ラテだったよね?どうぞ!」

「それと!コーヒーもくださる?テイクアウトしますわ。」

「じゃ、少々お待ち下さい。」

 そう言って後ろに下がると、裕太が小声で

「ね、ね。どうゆう関係⁉︎小学生が他校の制服着てる訳じゃないよな⁉︎」

「前にウチの店に来てくれたお客さん。僕はそれしか知らない。」

「ちょっと…聞こえてますわよ?」

 綾小路鈴華は地獄耳じごくみみだった。

「ひぃ!ごめんなさい!」

 そう言って裕太は逃げた。

 

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