第9話 観覧車



 今日は待ちに待った遊園地。雨音との約束はこれで何回目になるだろうか?それほど頻繁に会っている。


 ただ、僕たちは未だに友達という枠組みに収まっている。それは何故か?


 僕に勇気がないからである。


 きっと雨音も僕の事を気になってくれているはず?と思っては居るのだけど、いかんせん告白など生まれてこの方一度もした事がないものだからタイミングを測っていたら、ずるずると時間ばかりが経ってしまっていた。


 そして気付く。タイミングは測るものじゃない、作るものなのだと。


 という事で今日は意を決して伝えようと思う。思いの丈を。


 

 「お待たせ颯斗くん!!!」


 膝がかくんと折り曲がる。まさかの膝カックンと共に現れた雨音。毎度の事ながら元気がよろしいようで。


 「ビックリし……た」


 「どんだけビックリしてんの颯斗くん」


 ビックリしたのは膝カックンを受けたからというのもあるが、それ以上に見惚れてしまった為に雨音にはそう見えたのだろう。


 今日の雨音はいつもより少し大人びて見える。気のせいだろうか?


 ふんわりした淡い白のブラウスにふんわりした黒のロングスカートのモノトーンコーデ。ブラウスはウエストにインし、肩にはトートバックを下げ、カジュアル過ぎずそれでいてお洒落な雰囲気だ。


 対して僕はといえば、白のフードパーカーに黒のスキニージーンズ。肩から腰に掛かるのは黒いナイロンのボディバック。カジュアル過ぎたかもしれないと雨音と自分を見比べた。



 「遊園地楽しみ!早く行こう」


 雨音はスキップして駅の券売機に向かった。その後を急いで追う。

 お互いにICカードをチャージし最寄りの駅から約四十分。電車に揺られみなとみらいを目指した。


 ✳︎ ✳︎ ✳︎



 「わー、大きな観覧車」


 晴天に映る観覧車を背に、雨音は大きな声ではしゃいでいた。

 

 「ちょっと雨音、周りに人いるから」


 僕は恥ずかしくなり背を丸め雨音に近づく。


 土曜日という事もあり人でごった返している遊園地内。家族連れやカップルなどで大盛況の様だ。


 「早く〜颯斗くん」


 「ちょ、待ってえ」


 目を離せばすぐにでもはぐれてしまいそうな程、人の頭頭頭が視界に入る。


 「あ……れ?」


 着いて早々、十分もしない内に彼女は僕の目の前から姿を消した。こうなる予感はしてたとはいえ、まさかの着いてすぐとは。

 

 ポケットからスマホを取り出し雨音に電話をかける。


 『プルルル……おかけになった番号は現在電源が入っていないか、電波が届かない場所にあるためかかりません……』


 まさかの電源が入っていない?こんな都心の野外で電波が通じないてのはあり得ないだろうし。そこで電車内での雨音の行動を振り返った──


 「私ゲームアプリにハマっててさ、この洋キャラ達を同じ種類のをくっつけて消してくってゲーム、知ってる?」


 「いあ、初めて見るアプリかも」


 「流行ってるんだよ〜颯斗くんもやってみなよ?面白いよ」


 「そうなの?試しに少しやらせて?」


 気付いたら二人で熱中してゲームアプリをみなとみらいに着くまでプレイしていた。


 「あ、10%しか充電無くなっちゃった」


 ──そういえば充電が無いって言ってたような……

 

 まずい、すぐにでも見つけないと、時間が経てば経つほど見つけづらくなる。そんな気がして僕は走り出した。


 人混みを掻き分けてフードコートやトイレ付近なども隈無く探すが、雨音の姿は見つからなかった。


 探し続ける事、二十分。


 一体どこへ行ってしまったのだろうか。途方に暮れ自販機近くのベンチに肩を落とす。



 ピンポンパンポーン。



 『ご来園中のお客様に迷子のお知らせをいたします。白色のブラウスに黒色のロングスカートをお召しになられた十六歳の女性がサービスカウンターでお連れ様をお待ちです。お心辺りのある方は一階サービスカウンターまでお越しくださいませ』


 聞き間違いじゃないよね?迷子のお知らせでブラウスにロングスカートを着た十六歳ってアナウンスが……


 ああ、雨音ならしかねない。

自分自身を「迷子なのでアナウンスして下さい」と頼むだろう。いや、雨音以外に考えられない。


 ベンチから腰を上げ急いで一階のサービスカウンターまで向かった。


 そこには頭に手をやりヘコヘコとする雨音の姿があった。


 「ど〜もすみません」


 「探したよ雨音、良かった見つけられて」


 「充電器は持ってたんだけど、いつの間にかスマホの電池が切れてまして」

  

 舌をぺろっとおどけながら出す雨音はサービスカウンターの方にお礼をし僕の目の前に戻って来た。


 この混みようの中またはぐれるといけないと思い、僕の左手が彼女の右手を握りしめた。


 「これで迷わずにすむでしょ」


 「うん」


 今鏡を見たらきっと自分の顔が赤らんでいるだろう。照れくさくて雨音の顔を直視する事が出来なかった。




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