第3話 ストローハット

 日差しの強い日曜日だった。


 恭輔は隣駅に近い書店からの帰り道、最寄駅の横断歩道に向かっていた。


 休日で、しかも天候に恵まれたせいか、人通が多い。自転車の恭輔は、普段なら勢いよく走り抜けるところ、スピードを落とした。


 すると、横断歩道の右側に身長差のあるカップルのはしゃぐ姿が目に入った。


 腕を組み、スキップをする男女は、自らの二人三脚のような挙動が可笑しかったのか、周りに人がいるのも気にせず、底抜けの笑顔を見せていた。

 ふたりの頭には、赤いリボンのあしらわれた、揃いのストローハットが載っていた。


 近づいて来るふたりに恭輔の視線は釘付けとなった。こんな恭輔は珍しい。自転車が止まっていた。振り返らないのが精一杯だった。


 ふたりは地下鉄の駅に消えて行った。…


 恭輔は、はっとして自転車を漕ぎ始めた。かなりのスピードで自宅を通り過ぎた。

 行きつけのコンビニに自転車を停めて中に入った。


 やっぱり…


 レジに並ぶふたりは、知らない店員だった。


 駅前で見送ったふたり。−−恭輔側には、左腕を絡ませる結子がいた。見たことのない笑顔だった。

 大きく開いた唇の紅が、ストローハットに巻かれたリボンの赤と重なった。大きな瞳も、白い歯も、きらきらと眩しかった。到底近づくことのできない、遠い存在に思えた。


 自分の胸にしまい込んだ結子とはまるで別人に見えた。だからコンビニへ、確認を急いだのである。


 結果を悟った恭輔は外に出ると、スタンドを蹴り上げ、自転車をバックさせようとした。

 背後に人がいないか、振り返った。


「緋浦くんでしょ?」


 奈美だった。


  (了)

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幻の34人目 one minute life @enorofaet

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