第2話 凍結した想い

 恭輔は自宅から電車で1時間程の私立高校に通っていた。入るつもりもなかった中高6年一貫教育の男子校である。


「近所のコンビニに、小学校の頃、同じクラスだった子がバイトしててさ…」


 昼休み、恭輔はよく行動を共にしていたクラスメートの岩村広志に漏らした。


「いいじゃん、声かけてみた?」

 

 広志は、恭輔がまだ何も行動を起こしていないのを見透かしているようだった。


「向こうは気づいてないから。こっちは名札で分かったけど」


「なら、お前も名札つけて行けば? にった、って(笑)でも、よく覚えてたよな、そんな変わってなかったのか?」


「あ、…そうでもないかな…」


「ん?…よく行ってるんだ?」


「割とな、自転車で直ぐだから」


「自転車?近くないじゃん」


「なんか、レジの時、いつも手が濡れてるんだよな」


「は?」


 恭輔は広志のジョークに当時の自分が新田でなかったことに気づいたのだった。…


 高1の時は休部していた運動部を高2で再開した恭輔は、練習がある日は帰宅時間が遅い。それでも、コンビニに通う回数は減っていなかった。


 いつの間にか右側のレジに進むことが増えていた。


 結子は再会した頃と雰囲気が変わっていた。髪のウェーブが消え、化粧っ気もなくなっていたのである。

 伏し目がちな恭輔はこの変化に気づいていなかった。レジ袋を渡す手が相変わらず濡れていることは意識していた。


 しかし何より、そんな彼女がいつも伏し目がちだったことは信じて疑わなかった。

 これが8年前、恭輔の胸にしまい込まれた結子だったからである。

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