第23話 当てが外れる ※フェリベール王子視点

「は? レティシアが王都から旅立った、だと!?」


 その報告を聞いた俺は、信じられなかった。婚約を破棄すると伝えたレティシアが辺境へ向かったという。冗談だったのに。謝ったら許してやったのに。本気で辺境へ行くなんて、どうしてそんなことを。


 本当に、醜男で有名なスタンレイ辺境伯との婚約を受け入れたのか。そんなはずがない。俺と婚約していたのに、それを破棄すると言われただけで他の男を受け入れるような女じゃないはず。


「な、何かの間違いじゃないのか?」

「いえ、確かにそう聞いています」

「ルブルトン家の当主は、娘のことについて何と言っているんだ?」

「殿下に紹介してもらった相手と婚約を承知したので、すぐに辺境へ送ったと」

「……そんな」


 こんな事になるなんて、思わなかった。俺の言葉のせいで、レティシアが辺境まで行ってしまうなんて。


「お前のせいだ」

「は?」


 あんな馬鹿なことを提案したのはロザリーだ。この女が、あんな提案をしなければレティシアとスタンレイ辺境伯を婚約なんてさせなかった。そう言うと、ロザリーは唖然とした表情で俺を見た。何を、関係ないようなふりをして。


「私のせいじゃないわよ。そうするって決めたのは、貴方でしょう!」

「この女を部屋から追い出せ」

「ちょっと、痛いじゃないッ!」


 部屋に居た侍女たちに命令する。ロザリーを連れて行けと。もう二度と、この部屋には入らせるな。この女との関係は、ここで終わりだ。


「もう、離しなさいよ! だから、私のせいじゃ、ないわよッ!」


 喚いているロザリーを、部屋から追い出した。ようやく静かになった。あんな女のことなんて、どうでもいい。それよりも今は、レティシアのことだ。


 急いで呼び戻すか。いや、ダメだ。こうなってしまうと、彼女から謝ってくるのを待つしかない。王族としてのプライドがある。レティシアから謝るべきなんだ。


 おそらく辺境に行っても、すぐ帰ってくるはずだから。王都での生活を知っているレティシアなら、辺境での生活なんて耐えられないと思う。


 それに、婚約するように指名したスタンレイ辺境伯は醜男だという噂。そんな男と結婚なんてしたくないはずだから、そのうち帰ってくるだろう。


 そう考えると、少しだけ落ち着いた。そうだ、焦る必要はないんだ。レティシアが王都に戻ってきて、俺に謝ったら、その時は優しく許してやろう。そうなれば良い。


 それまで俺は、我慢しなければならない。イライラするけど、今は耐えるときだ。きっとまた、レティシアと婚約関係に戻れるはずだから。彼女と結婚するのは、俺に決まっている。


「早く戻ってこい、レティシア!」


 願望を口にする。俺は一人になり、レティシアが帰ってくるのを我慢して待つことにした。今度こそ、君を離さないことを誓う。


 だけど、いつまで待ってもレティシアは王都に帰ってこなかった。

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