第21話 どっちがいい

「こんな男より、俺の方が良いに決まっている。そうだろう?」


 フィリベール王子は、私に向かって聞いてきた。確信したような言葉。どうして、そんな自信満々な態度で居られるのかが不思議だ。


 貴方を選ぶなんて、あり得ない話だわ。


 そもそも、そんな事を聞いてくる時点で気持ちは一気に冷めてしまう。


 婚約していた頃にも、そんなに関係が良かったわけでもないけど。今現在は、彼に対して嫌悪感しかないぐらい、気持ちは離れている。そんな事にも気付かないのか。


 気付いていないのでしょうね。どうやらフィリベール王子は、あの頃の記憶を忘れてしまっているようだから。ハッキリ言わないと、分からないらしい。今までは気を遣って、態度や言葉も慎重に選んでいた。けれど彼に付き合うのも、そろそろ限界。早く、解放してほしかった。


「もちろん、彼を選ぶに決まっています」

「なっ!?」


 私は一緒に居てくれたブレイク様の腕に抱きついて、ニッコリ笑いながら答えた。それを聞いたフィリベール王子は、驚いた表情を浮かべている。今日だけで、何度も繰り返し見てきた表情。信じられないという様子。


 そしてまた、怒り出す。先程から、同じようなパターンを繰り返しているわね。


「そんな男の、どこが良いんだ!? 周りから、酷い目で見られているのを感じないのか。お前まで、同じように見られるんだぞ!」


 彼は、必死になって訴えてくる。周囲からの視線の事なら、分かっている。だけど関係ない。私がブレイク様を愛しているから、一緒に居るだけ。


 それに、彼を慕ってくれる人も居る。親しくしている友人も居る。そういう人達が居るのを知っているから、不安はない。


「私の事を心配してくださるんですか? ありがとうございます。ですが、心配無用ですわ。どんな視線を向けられても、私にはブレイク様がいらっしゃいますもの」

「……っ! 本当に、その男が好きなのか?」


 フィリベール王子は、悲しそうな表情を浮かべながら私に問い掛ける。そんな彼に理解してもらえるよう、本心の言葉を伝えた。


「ええ、私はブレイク様を愛しています」


 その言葉を聞いた瞬間、フィリベール王子は苦しそうな表情を浮かべる。


「お前が……、そこまで言うのなら……」


 そう呟いた後、フラフラとした足取りで私達から離れていった。その様子を見て、ようやく終わったのだと安堵した。やっと、解放されたのだ。


「ふぅ」


 長かった。長かったけれど、何事もなく終わってくれて良かった。我慢した甲斐があったというもの。大きな問題には発展しなかったので、これで一安心ね。


 でも、こんな事に付き合わせてしまったブレイク様には申し訳ないという気持ちがあった。途中で助けてくれたし、最後まで見守ってくれた。感謝の気持もある。彼が居てくれたことが、どれだけ心強かった事か。


「申し訳ありません、面倒事に巻き込んでしまって」

「問題ないよ。それよりもレティシア、大丈夫かい? 疲れていないか?」

「はい、大丈夫ですよ」


 心配そうにしているブレイク様に、抱きついたままの私は笑顔で答える。ここでも気遣ってくれて、嬉しい気持ちになる。優しくて、頼りになる人。私の選択は間違いなかった。


 そして彼も、安心したように微笑んでくれた。幸せを感じる。


 挨拶も終わったので、これからブレイク様と一緒に楽しい時間を過ごせるだろう。休んでいる暇はない。

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