第20話 認めないと言われても

「結婚したなんて……、嘘だ……」

「本当です。つい先日、彼と夫婦になりました」


 何故か、嘘だと言って信じようとしないフィリベール王子に、私は事実を告げる。


「そんな話、俺は聞いていない!」

「聞いていないも何も、彼との婚約を勧めたのは貴方ですよ」


 急に怒って、聞いていないと叫びだす彼。まるで駄々っ子のようだ。私は冷静に、諭すように話した。


「ち、ちがう……。君との婚約を破棄したのは、理由があって……」

「理由?」

「……」


 何か理由があったらしい。だけど、どういう理由なのかは教えてくれないらしい。まあ、無理に聞き出す必要もないだろう。興味もないから。とにかく、ブレイク様と私が夫婦だということが事実なのよ。それを理解してほしい。


 まだ納得しないフィリベール王子は、こんな事を言いだした。


「すぐに離婚するんだ。そんな男と夫婦だなんて、認めないッ!」

「……はぁ!?」


 何を言い出すかと思えば、とんでもない事を言い出す彼に、私は思わず呆れた声が出てしまった。離婚だなんて、そんな事するわけないじゃない。本当に、私の人生をなんだと思っているのかしら。


 ブレイク様やスタンレイ辺境伯領にも大きな迷惑がかかるし、離婚するなんてこと絶対にありえない。王子の命令だとしても、拒否する。


「絶対に嫌だからな! お前が俺の婚約者じゃなくなるなんて、認めない!」

「……」


 婚約を破棄すると告げた時のことを、彼は忘れてしまったようだ。そんな人が今になって、認めないと喚き散らす。まったくもって、身勝手な人。


「フィリベール殿下。私の妻を惑わすのは、止めていただきたい」


 私とフィリベール王子の間に入ってきたのは、ブレイク様だった。今まで黙って、私達の会話を見守ってくれていた彼。しかし、介入しなければマズイと感じ取ったのだろう。


 ブレイク様に迷惑をかけたくないと思っていた。それなのに、出ないといけないと彼に思わせてしまった。本当に申し訳ない。


 だけど、彼が庇ってくれることが嬉しかった。嬉しさで胸が熱くなる。婚約破棄を告げられた、あの時とは違う。今は、彼が助けてくれる。とても心強い。


「邪魔だ、スタンレイ辺境伯。俺は今、レティシアと2人で話しているんだ。君は、引っ込んでろ」


 そう言って、ブレイク様を睨みつけるフィリベール王子。私は、話したいなんて思っていないんだけど。そんな王子に対し、ブレイク様は堂々とした態度で答えた。


「レティシアは、私の妻だ。そして今後、彼女と離婚するつもりはない」

「なんだと!? 貴様のような醜男に、レティシアを渡すわけがないだろう!!」


 渡すとか渡さないとか、フィリベール王子が決めることじゃないのに。そもそも、もう既に私はブレイク様のものだから。


 そして私も、ブレイク様と同じ考えだった。彼と離婚するつもりなんて一切ない。だから、フィリベール王子の思う通りにはならないだろう。絶対に。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る