第2話 成行きの覚悟

「クソッ!どうなってんだよ!」


と西堂新は叫びながら渋谷の街を逃げ回っていた。生まれて初めてGHOSTと出くわした俺は、ただ東城と一緒に逃げることしかできなかった。


「燈、大丈夫か⁈」

「大丈夫な訳ないじゃん!私たち...殺されかけてんのよ⁈」

「...ああ、そりゃそうだな」

「ねえ!てかアイツずっと私たちのこと追いかけてきてる気がするんだけど!これ気のせいよね!‽」


そう聞かれて振り返って後ろの化け物を確認する。いや...まさかな...


(あ...目が合った)


「いや、ばっちりこっち見てんな」

「なんで!!」

「さ、さあ...声かけたから...とか?」

「何してんのよ!‽」

「いやしょうがないじゃん!こんなことになるなんて思わねえよ普通!いやぁ...マジで後悔してる!まじで後悔してる ~!」

「とにかくどうする?私たちのことを追ってるなら、このまま逃げててもキリないよ!」

「立ち止まって勝てるわけでもねえだろ!今はとりあえず逃げて、AGEFの人が来るまで耐えるしかねえよ!」


そう、この蜘蛛に似た姿をしたGHOST(仮に名を蜘蛛GHOSTとする)はここまで西堂と東城だけを付け狙って猛追してきていた。西堂も東城は必死に逃げる、必死に走っていた。しかし彼らはマラソン選手でもないし、そもそもGHOSTに比べれば速度なんて比にならないわけで...この逃走劇はそう長くも続かなかった。


「キャァァア!」

「遥ッ!」


ついに東城に蜘蛛GHOSTが追い付き、脚の一本で東城を思い切り弾き飛ばした。東城の体が勢いよく壁に叩きつけられ、ガクッと倒れる。


「遥!クソッ、しっかりしろ、遥!」


まだ脈はあるようだったが、確実に骨の数本は確実に逝っているであろう衝撃だった。ただ、このままだと死ぬ、というのははっきりとわかる。


しかし蜘蛛ゴーストはそんな東城をチラリとだけ見て、すぐ西堂の方をじっと見つめる。すぐに襲うのではなく、まるで観察するかのように、ただ眺められていた。


「どうした、俺を食いたくて追ってきたんじゃないのか...」

「...ええ、そうね」

「喋った⁉」

「自分で質問しといて驚いてどうすんのよ。ンンンでもそうね、そろそろ...おなかが減って...ハナス気もウセちゃうかもォ」

「ッ!なぜお前ら人を食うんだ!」

「..ン~、.ホンノウ?わかんないワァ。てかキョウミないわよソンナノ」


と、蜘蛛GHOSTは吐き捨てた。会話は通じる、しかしこの先に和解などあり得ないことを西堂は会話と直感で理解することとなった。


「俺を狙って、ここまで追ってきたのか?」

「ダカラそうダって言ってんじゃんかァ」

「そりゃどうして...」

「......なァんか気になったンダけドね...イヤ、やっぱり気のセイだったかしら...」

「何のことかわかんねぇけど、気のせいなら見逃してくれねぇかな」

「ソレとコレとはベツ。どっちニしろアタシはハラがヘッってんの、アンタらをクわないセンタクシなんて、ないのよ」


正直、純粋に絶望した。無理だ...時間稼ぎなんてできる相手ではない。逃げることも出来ないだろう。死んだ...と。素直にそう思った。


「だ...誰か!助けて!」

「目みえないの?もう...ここら一帯ダレもいないわよ」

「そ...そんな...」

「ア、そうだ。じゃ最期に名前聞いたげる。イッシュウカンくらいは覚えてるカモヨォ?」

「…西堂、新です…」


(はは...何素直に答えてんだよ...俺...)


「それじゃ西堂くん、来世はイイ人生になるといいわね...」


GHOSTが脚を振り上げ、今にも西堂の胴体を八つ裂きにしようとしたその時...


「AGEFだ!今すぐ破壊活動をやめて投降しろ!」

「……え?」


黒いスーツに身を包んだ男が蜘蛛GHOSTに銃を突き付けていた。


「アラ、ジャマが入ったみたい...運がイイのね」

「繰り返す、直ちに投降しろ。命令に従わない場合、投稿する意思はないと判断し、直ちに駆除させてもらう」

「どォォせトウコウ?したってコロしちゃうくせに、アイわらずヤクニンさんって遠回しなのね。でもカンゲイよ、知ってる?そのブレスレットつけたヤツはねェ...カクベツにオイシいの!」

「ッ!!...いいだろう」


「本部に連絡 こちらA班緑山。0412/1340 渋谷ハチ公前広場にて出現した未確認GHOSTを目視。身体的な特徴から対象を個体名[蜘蛛GH]として設定。投降の意思は見られない。したがって対象を駆除対象に指定、直ちに駆除行動を開始する」


そう外部に伝達すると、緑山は右手に持った注射器のようなものを左腕に突き刺した。


「CNRブレスレット、起動!」


『CNR SYSTEM、起動。

生体チェック、活動に支障なし

肉体変化プログラム、正常に稼働可能


システム、オールグリーン


CNR 稼働 開始』


「アームド オン!」


左手首のブレスレットから機械音声が流れ、緑山がそう唱えると、緑山の体が青白い光に包まれはじめた。そして数秒後、光が収まるとそこには軍服のようなものに身を包んだ緑山が立っていた。


「…いくぞ!ウォォォォラァァ!」


ガキィィィン!と緑山の警棒と蜘蛛GHOSTの脚が激しくぶつかり合い、激しい音を立てる。まるで金属で金属を思い切りぶん殴っているかの様な、重い音が響く。それだけで、この戦闘の異次元差が分かった。


「君!今のうちに早く逃げるんだ!俺も一般人が近くにいると動きづらい!」

「は、はい!」


九死に一生を得る、とはまさにこの事だろう。


「そうだ早く…遥を連れて早く逃げないと!逃げるぞ、遥!」

「ウッ……ウ、ン…」

「クソッ、意識がない!担いで逃げるしかねぇ!」

「何してんだ、早く逃げろ!」

「は、はいすいません!今...逃げますんで!」


そう言いながら西堂は、なんとか遥を担いで全速力で逃げる。


「アラよそ見?ズイブン余裕なの、ね!!」

「グッ!効かんわァ!!」

「チッ!思ったよりタフなガキね!」


蜘蛛GHOSTの、複数の脚を用いた攻撃を、緑山は自身の警棒と腕ではじき返し、

そのまま追撃をしようと跳び上がった。その時...


「何ッ⁉これは...糸か!!」


蜘蛛GHOSTは口から素早く糸を吐き出し、攻撃をしようと飛び上がった緑山の胴体に巻きつけて拘束すると、そのまま緑山を壁に叩きつけた。


「グハァァッ!...クソッ!見た目から...予想してなかったわけではなかった...しかしまさか...ここまで...素早いとは!」

「ザンネン賞ってトコね。それじゃ、これで...オワリよ!」


蜘蛛GHOSTは脚を振り上げ...


緑山の胴体に、突き刺した。


「スキだらけのキュウショくらいなら、ツラヌくのだってクロウしないのよ」

「グッ...すまない...」


ダラりと、緑山の腕が垂れる。


(た、倒されちまったのか...今の、一瞬で⁉まずい...俺らはまだ、逃げれきれてねえぞ!)


「ンンん~?...まさか逃げ切れるとかホンキで思ってたわけ?可哀そ、ムリに決まってんじゃん。コイツがアタシを殺す以外に、アンタがアタシから、逃げるスベなんて、あるワケないでしょ!アハハハハハハ!!!!」


甲高い嘲笑を上げる蜘蛛GHOST。


「返す言葉もねえな...」

「じゃ改めて、あの世へ行くカクゴはいいかしら?」


つかの間の希望は、あっという間に吹き飛ばされてしまった。今、まだ気を失っていない人間さえ、この場では俺しかいないようだ。

しかし、西堂の中の精神は先ほど追い詰められた時とは明らかに違う心境があった。殺されかけて絶望し、一度は手放してしまった希望。緑川が助けに来たことで、仮初でも再び手にすることができた希望。再び希望を捨て、諦めてしまうことを、西堂自身が許せなかったのだ。


(何かないか⁉この状況をひっくり返せる何か!目の前にいるバケモンをブッ倒せる何かが!)


その時、ふとひらめく。今自分の近くにあって、何よりも自分を強くできるもの。




『コレ』なら...




「それじゃ、さようなら」

「うをォォぁぁ!」


西堂は必死に体を捻って蜘蛛GHOSTの攻撃を避け、背後に回る。


「あら、大事な人から離れちゃったわよ。見限って逃げるって作戦かしら?」

「いいや、その逆だ…」


「守るんだよ」


彼は左腕を前に突き出す。その手首には...CNRブレスレット。


「...!?それは、ブレスレット!あのガキから盗んだか!」


蜘蛛GHOSTは驚き緑山の方を振り返る。彼の腕からはCNRブレスレットが消えていた。


「これを使えば、お前と戦える力が手に入るらしいな!」

「待って、やめなさい西堂新!ソレはタダのニンゲンが使えるモノではない!」

「ハッ、てめえの静止なんか聞くかよ!こっちは今からテメェをぶっ倒すんだぜ!」


(どんなリスクがあろうと関係ない!今、遥を助ける手段はコレしかない!これでしか...救えないんだよッ!!!)


「思い直して、一生コウカイする事になる。手術なしにソレを使うと!アンタまでアタシと…」

「ウォォォォ!」


蜘蛛GHOSTが何かを言い終える前に西堂は、注射器を左掌に打ち込んで、叫んだ。


「アームド オン!」


to be continued…

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