第13話
気配のほうに振り替えると、フードを被った少女が立っていた。この宿屋に初め泊った日に見た少女だった。
「くそっ、見つかっちまった」
きょろきょろと辺りを見回して打開策を探しているようだ。
「何の用だ」
「答えると思うか?」
乾いた笑いの混ざった声だった。攻撃的で少し怯えも混ざってる。
「答えろよ、さもないと...」
ぐ~と、間抜けな音が聞こえ、殺気立っていた感情がひいていった。
「お腹すいてるのか?」
「...ちょっと金欠でさ」
「...なんか食うか?」
「いいのか!?」
フードがそう言ってこちらに身を乗り出してくる。めちゃくちゃ無防備だ。こんな奴が敵には思えない。とりあえず、警戒レベルは少し下げても大丈夫そうだ。
「ああ...でもその前にトイレ行かせてくれ」
「うっま!?うまいよこれ!?」
焼き鳥らしき何かをほおばりながらフードが言った。こんな夜中に営業している店があってよかった。
「あんたは食べないのか?」
「そのつもりだったんだが、その食べっぷりを見てると俺も欲しくなってきた。おっちゃん、同じの一本」
そうしてしばらく二人で食べることに集中した。本当にこの町の食事はおいしい。しばらくしたらこの町を出るつもりだったが、ずっとここに居たいくらいだ。
「で、結局、君の目的は...というかまず名前を教えてくれ」
一応鑑定持ちであることは隠しておく。敵か味方かもわからないからな。
「うちはシャーロット。目的はちょっと言えないな」
「ただ飯食っといて?」
「うっ。確かにご飯おごってもらって何もなしじゃひどいすぎるな。どうしたもんか...」
「どうしたもんか、じゃなくて目的を教えてほしいんだが」
「そうだ!」
俺の言葉を無視して、シャーロットが立ち上がる。
「こっちに来てくれ」
そう言って俺の手を引っ張ってずんずん歩いていく。
歩いた先にあるのはさっきまで寝ていた宿屋だった。
「何するつもりだ?」
「この前読んだ本で書いてあったんだ。女が男にするお礼について」
「それって...おい!待てって」
「うちも初めてだからうまくできないかもだけどゆるせよー」
「いやだからそんなお礼受け取れな」
急に違和感がして立ち止まる。
「どうした?」
探知をして気づいた。
いない。部屋には誰もいなかった。
「くそっ」
俺は階段を駆け上がって自分の部屋の扉を押し開いた。開かれた窓から入った風が、カーテンを大きくたなびかせている。やられた。だとしたらシャーロットは陽動?でも見つかった時、本気で焦っていたように感じたが...
「どうかしたかー?」
呑気にシャーロットが尋ねてくる。
「俺の...彼女がいなくなってる」
「かのじょ.......」
「くそ、なんでだ」
リタはかなり強くなっていた。そう簡単に連れ去られるとは思えない。それに部屋には戦闘の痕跡がない。どういうことだ?
とりあえず、探知を使って辺りの移動している気配をさぐる。レベル50になって探知の範囲は半径800mほど。その範囲で、動いているのは11組、二人で集まっているのが8組、リタが気絶していると仮定するなら、片方の気配はもう片方の気配の動きとほぼ一致しているはず。そのような動きをしているのは...いない?
―――いや、おかしい。この気配、一人だが変な動き方をしている。まるで、スーパーマンが低空飛行しているような...あ、そういうことか。
「よし、行くぞ」
「え、うちも?ってはや!?」
シャーロットに一応声をかけ「ウインド」で体を押し出して窓から外へと飛び出した。家の屋根を駆けていく。景色がどんどん後ろに下がっていく。一応シャーロットが後ろを付けてきている気配はあるが、追いそうにはない。おそらく普通に走っているのだろう。
しばらく走っていると、犯人が見えてきた。白いローブをまとっている。小脇に何かを抱えているが、ローブに隠れて見えない。おそらくリタだろう。
「待て!」
俺の声に反応してローブがこちらを向いた。驚いて目を見開いている。
「なぜ俺の位置が!?隠密を使っているはずだぞ!?」
だからリタしか見えなかったのだろう。前にリタと隠密を共有したことがあったが、あれは手をつながなければだめなのかもしれない。そして気配がスーパーマンみたいな挙動をしていたのは気絶したリタが小脇に抱えられていたからだ。
「アイスウォール」
ローブの走っていた街道をふさぐように氷の壁が立ちはだかった。
ローブは「くそっ」と悪態をついて方向転換しようとするが、反対側にも氷の壁が立ちはだかっていた。
「これでもう逃げられないだろ?」
俺は屋根から降りてローブの前に立つ。
ローブはフードを取ってこちらに顔を見せた。
「ばかめ。「マインドハック」」
ローブの目が赤く光ったのを認識した瞬間、脳に何かが流れ込んでくる。気持ち悪いい。頭の中に暗いもやがかかる。最悪の気分だ。気力がどんどん失われていく。暗く、深いところへ沈んでいくような、心が底についてしまって、もう浮き上がれないような、そんな最低な気分に支配される。思考するのさえ億劫で...もう...何も...したくない......
「あーあ、やっぱまだレベル足りないか」
「だれだ!?」
下を向いた視界の外でローブと誰かが話している。この声はシャーロット?さっきまでずいぶん後ろにいたはずなのにどうして?
「あきとがやられたら本末転倒なんだよな。そういうわけなんで、あんたはこっち来い」
「はっ、そんな言葉にしたがうっ」
うめくような声が聞こえた途端、ばたりと音がして、顔を上げるとリタが倒れていた。ほかの二人はどこにもいない。あぁ、また、わけもわからずに助けられたらしい。俺って弱いのかな...
「ひっ!?な、なんだお前、ぐはっ」
ローブを着た男が口から血を吐いた。ここはあきとたちのいたところから2キロほど離れた路地裏。ここならあきとの探知にも引っかからないだろ。
「さて、どうしたもんかな」
「お、お前は何なんだ。とんでもないスピードでここまで連れてきやがって」
「ほんとはリタを連れてってくれてもよかったんだけど、あきとが殺されちゃったら意味ないしな。よし、プランBでいこう」
「何の話だ。おい、やめろ、おいっ!その手を近づけるな!」
「ちょっとだまれよ」
そう言って私は手のひらからローブに向かって稲妻を放つ。ローブは「あ、あ」とうわごとのように呟きながら体を痙攣させている。
にしてもリタともう付き合ってるとはな。前回より手が早えじゃねえかふざけやがって。
「はぁ」
まぁいい。最終的に私のもとに来てくれればそれでいいんだ。というわけでとっととやってしまおう。公国側の駒は必要だ。
ゆっくりとローブの頭に触れる。
「エレクトロアナライズ」
体内の電荷の動きを把握。
「エレクトロコントロール」
掌握...完了。
よし。
じゃあ、ローブくん、君は使える人形になれるかな?
「エレクトロマリオネット」
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