第14話
次の日、リタに昨夜のことを聞いたが、覚えていないらしい。おそらく寝ている間に「マインドハック」をされたのだろう。少なくとも俺のレベルだと「精神操作」で可能なのは任意の感情を引き起こすぐらいで、気絶させたり記憶を消したりはできないから、もっと高いレベルが必要なのかもしれない。そういえば研究所の時、精神操作に抗えたが、あれは、このスキルが相手を直接見ないとかなり弱体化することが原因っぽい。というか今更だがほかの人にもレベルって存在するのか?今んところそんな話は聞いたことないが。
それより問題なのは彼らの目的が全く分からなかったということだ。あのローブもシャーロットも結局何がしたかったのか。ローブの目的はリタだろう。例えば研究所の情報が洩れていてリタの不老不死を求めていたとか。そういえば転移してすぐに隠密と精神操作のスキルを得られたがそれはローブの持っていたスキルと同じだ。ということはかなり可能性が高い。となるとローブの所属は帝国の別の研究所か、あるいは兵士の言っていた公国やラビッツの線もあるか。あぁ鑑定しておけばよかったな。レベルも上がったし何か有用な情報が得られたかもしれないのに。
そしてシャーロットは何がしたかったのか。たぶん、あの時助けてくれたのはシャーロットなのだろう。どうやったのかは知らないが。じゃあ目的はあのローブ?だとしたら見つかったのはわざとかもしれない。あの焦った様子は演技で、わざと見つかって俺を部屋から引き離し、ローブが誘拐を実行する隙を作った。そして俺にローブを追わせることで、ローブの位置を特定し捕獲。辻褄は合うな。でもそれだけだ。結局何もわからずじまいだ。
宿屋を出てギルドへ向かう。この道も歩きなれて、目を閉じてもギルドに辿り着ける気がする。けれどいつもと違って、街道沿いの店や屋台に見慣れない張り紙が張られている。なになに、『12/25はノエル開催のため馬車通行禁止』、ノエルってなんだろ。
「なんかさっきからノエルっていう文字をよく見かけるな」
「そうだね。もうそんな時期なんだ」
「ノエルってのは何だ?」
「お祭りだよ。毎年12月25日にするんだ。確か、悪魔討伐を記念して始まったんだと思う」
「悪魔か...」
確かリタにはその悪魔の心臓が埋め込まれているんだよな。そう考えると、あの時見た黒い羽根を持ったリタは悪魔のほうだったのかもしれない。
ギルドに着いたので、クエストを探す。そろそろ遠征系のクエストとか受けてみたいな。いいものはないかと目を凝らしていると近くに立っていた男たちの会話が耳に入ってきた。
「そういえば聞いたか」
「なにを」
「『ヘブン』だよ。前にクエストにあったろ。それが解決してもないのに取り下げられたらしい」
「それってどういう」
「噂だと上から圧力がかかったんだと」
「まじ?そういや最近、頭おかしい連中増えた気がするよな。この町にも広がってるんじゃないか?」
「だとしたら笑えねぇな」
「ヘブン」か。研究所の近くにあった村で栽培されていた麻薬。この町の上層部にまで息がかかってるんだとしたら、早く出ていったほうがいいかもしれない。まぁとりあえず今日のクエスト受けてから考えるか――お、これなんかよさそう。
推奨ランクA
遠征クエスト
ランクA~B相当の魔物数体の討伐
場所 キリエ村
「どうやって行くの?馬車?」
「あんな遅いのじゃ到着まで数日かかっちまうよ『フライ』」
「お、おぉ飛んでる。これ見られないようにこんな町外れに来たんだ」
「そーゆーこと、じゃ捕まって」
「う、うん」
リタが俺のほうに手を伸ばしたので両手でつかみ、両腕で抱えるようにする。リタの耳が赤く染まっている。どことなく甘いにおいがする気がする...ってなんか変態みたいだな。
「じゃ、行くか」
「わ、わかった。よろしく」
まずは高度を上げて人から見られないようにする。一応急には加速せず、徐々に速度を速めていく。リタは意外と怯えてはいないらしい。武術のスキルで速さにはなれているのかもしれない。十分な高度になったので今度はキリエ村に向けて水平に飛行していく。あのローブと戦ったことでレベルが上がったらしく、それによってこの魔法が使えるようになったのだった。ファストムーブでも一時的に飛ぶことはできるが、あれは神経を使うし、一時的にしか使えない。まぁ加速力ではあっちのほうがいいからそういうのが求められる時はフライは使えないだろうけど。
「どうだ、きれいだろ」
眼下にはサティーナの町が広がり、その先にはどこまでも続くように思えるほどの広大な草原が広がっている。
「うん、きれい!すごいよあきと!」
リタが振り返ってそう答えた。無邪気な笑顔を浮かべていた。
時々休憩をはさみつつ、そうやって飛行を繰り返し、やっとのことで村に着いた頃にはもう日が落ちかけていた。
「やっと着いたぁ」
「遠かったな」
「お腹すいた」
「とりあえず寝床を確保しよう。村のほうで用意してくれてるっていってたけど――」
「何者だ!」
リタと話しながら村の近くに来ると、門番らしき男性が近づいてきた。こちらに銃を向けている。そして何より驚いたのは頭に耳が生えていた。人間の耳ではない。猫のような耳だった。
「ギルドからの依頼で魔物の討伐をしに来た冒険者なんですけど」
「もしかして今日の朝に依頼を受けたという?」
「そうです」
「今日の朝に受けて今日の夕方にこれるわけないだろ」
「でも来てますし。名前はあきととリタです。確認していただけませんか?」
「仕方ないな。少し待ってろ。動くんじゃないぞ」
そう言って門番は村の中へと戻っていった。その様子を眺めながらこっそりと鑑定を使う。
名前:ヘルロフ・トーンデル
年齢:23歳
種族:キャット
スキル:なし
どうやら猫耳族はキャットというらしい。ということはドッグもいるのだろうか。確かシャーロットはラビットだったな。あの子もフードの下にはケモミミがついていたのだろうか。
しばらくして門番が戻ってきた。
「確認した。あきとさんとリタさんですね。どうぞ中へ。先ほどは失礼いたしました」
「いえいえ、いいんですよ」
門番の近くに立っていた男性が宿へ案内してくれた。急だったので空いていた適当な部屋で申し訳ないとのことだったが、存外悪い部屋でもなかった。男性が立ち去る前に、これから食事の用意を始めるところだったので、よかったら一緒に食べないかと誘われたので、「ぜひ」と承諾した。正直こういう社交に興味はないが、冒険者としての評判は良いほうが後々得だろう。
改めて部屋を見回すと壁際に本棚があった。適当に一冊取り出すと、それに引っ張られるように薄い冊子が落ちてきた。その冊子を手に取ってぱらぱらとめくる。リタはベッドに寝転がって、俺の真似をするように本をぱらぱらとめくっている。
書かれているのはこの村に伝わる伝承についてだった。要約すると、この村ではある時期から魔物が頻繁に襲ってくるようになり、毎年幾人かの死傷者が出ていたらしい。それを憂えた村人たちはドラゴンと契約し、魔物たちを追い払ってもらうよう頼んだ。この契約により村にやってくる魔物は減り、出てきても弱い魔物ばかりになった。しかし、この契約には対価が必要だった。数年ごとに、16歳になった少女のうちの一人が生贄に選ばれ、自らドラゴンに身を捧げに行かねばならないらしい。数年というのは生贄の必要な時期は決まっておらず、強い魔物が表れ始めたあたりで、村の少女のうちの一人が天啓のように自分は選ばれたと感じ、ドラゴンに身を捧げに行くからだ。過去にはこの伝統に逆らおうとした少女がいたらしいが、激しく苦しんだのち死亡し、その一週間後には、別の少女が生贄として選ばれたらしい。さらにこの村では16歳未満の少女は村を出ることができず、出ようとすると激しい痛みが伴い、それでも出ようとすると死に至ることもあるという。ひどい話だ。要は、この村に生まれた少女は16歳まで村に閉じ込められ、16歳になると生贄になるかもしれないということだ。
そして、最近になって村にはA~Bランクの魔物が現れた。であれば今頃、新たな生贄が選ばれているのかもしれない。
まぁここに書かれているのが正しければの話だけど。
...ドラゴンってのはどれくらい強いんだろうな。
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