第16話

あれは見覚えがある。サティーナの町にあった黒い立方体。あれは発光していなかったが、あれとほとんど変わらない。大きさも形も。


「ドラゴンじゃ、ない?」

「な、何これ」


アリアがびくびくしながら立方体に近づいていく。


「おい!危ないって!」

「で、でも近づけって声が...ひゃっ!?」


アリアの持っていたランタンが落ちる。薄暗くてよく見えないが立方体から伸びたアームがアリアの両手足をつかんで持ち上げようとしていた。


「離してよっ!」


アリアが持ち上げられている方向に向けて手をかざすと、空間が裂け、そのまま裂けめに入っていった、と思えば、気づくと俺の隣からにゅっと出てきた。


「うわっ、なんか出た」

「なんかってなにさ。ていうか助けてよ」

「わかってるって。『アイスカッター』」


腕を横に払うと、そこから氷の刃が放たれ、前方のアームを切断した。


「くそっ、めんどうだなぁ!」


突然立方体から声がした。若い男の声。それと同時に立方体の側面からぬっと男の上半身が出てきた。がっしりとした体の美少年だった。


「防衛モードに移行します」


今度は機械的な声が聞こえ、立方体からたくさんの武器がにょきっと生えてきた。大砲っぽいのやら、銃っぽいの。レールガンのようなものや、映画でしかみたことのないレーザー兵器のようなものまでついている。


「なんだこれ」

「知らないよ!ドラゴンに食べられに来たのに、なんでこんな謎の立方体に襲われてるの!」

「死ね!」


男がそういうと同時に、立方体からあまたの飛翔体が発射される。これはまずいな。


「ウインドシールド」「アイスシールド」「ブラッドシールド」


俺は三重に障壁を布いて、攻撃を受け止めようとする。レールガンにより血の盾は破壊され、レーザーにより氷が一瞬で溶かされる。風なんかでレーザーを防げるわけもなく...


「ポータル・イン」


アリアがレーザーに向けて左手をかざすと、レーザーは消滅。今度は右手を立方体に向け


「ポータル・アウト」


と言うと右手からレーザーが放たれ、立方体に衝突した。


「あああああぁ!?いてぇ!?なんで!」

「攻撃されたからだろ『マインドハック』、ちょっと落ち着けよ」


「ああああぁ、あ、あ?あぁもうやってらんねぇ。なんでこんな目に」


マインドハックをした途端、攻撃は止み、立方体から突き出していた数多の兵器が仕舞われていった。危なかった。


「アリア、助かった」

「別に、私が死にたくなかっただけだし」

「ツンデレ?」

「違う!」

「俺の前でイチャイチャすんなよ死ねよ...ああ...もう.........どうでもいいや.....」


男が一瞬キレるが、マインドハックの効果ですぐに沈静化する。


「お前はなんなんだ?」

「俺はラインハルト。元勇者だ。悪い。俺もこんなことしたいわけじゃないんだけど違うしたんだ!うるさいな。したいのはお前だろ。あぁごめん。要領得なくて、わかりづらいかもしれないけど話を続けさせてくれ」

「あ、あぁ」


まるで誰かと俺たち以外と話しているかのようにラインハルトは話し始めた。それにしても勇者?なんでこんなところに。


「だいたい60年前にあった人兎戦争時、俺たちはあるラビットのスキルによって融合させられた。俺たち人間だけじゃなくて、この立方体の機械も含めてだな。その結果、俺以外の5人は機械に支配され俺だけが自我を保っている。支配されてねぇ! こいつは少し自我が残ってるみたいだけどね。それでも、ほかの奴らの影響は受けていて、生贄の対象を16歳の少女に指定したり、さっきみたいに時々別の奴の人格が出たりするんだ。今は全力で抑えてるけど、たぶん長くはもたないよ。『マインドハック』なんてされてしまったせいで俺の精神力が弱まってるからな」


60年前?確か3年前のUDイベントの際にも勇者はいたはずだが、あれとは別なのか?

ラインハルトは、はぁ、と息を吐いて続ける。


「生贄を求めるのはこの機械が稼働するためにエネルギーが必要だから。もしそのエネルギーがなければこの機械というか箱は開かれ、なかにいるものが出てきてしまう」

「それが、まさか...」

「そう、ドラゴンだよ、今もこの箱の中で眠ってる」

「じゃ、じゃあ、あの伝承は...」

「伝承?その伝承のことはよくわからないけど魔物が村をあまり襲わなくなったのは、ドラゴンが封じられたおかげで、今までドラゴンから逃げ、その先で村に行きついていた魔物がいなくなったからじゃないかな。数年おきに魔物が現れるようになるのは、この封印が弱まっていて、ドラゴンの力が漏れ出てしまっているからだろうね」

「そんな...」

「解決方法は一つある」

「それは?」


アリアが顔を勢いよく上げて男を見上げる。


「ドラゴンを殺せばいい」

「でも、そんなの」

「できるよ。あきとくんなら」

「なぜ俺の名前を―」

「俺も鑑定もってるからね。君も鑑定してみたら?たぶん、君のレベルならスキルとかもわかるはずだよ?もう、僕は限界みたいだから、あとは頑張って...ね」


そう言い残してラインハルトの体が箱からちぎれ、落ちていく。


「鑑定」


「Undefined 4 邂ア�壼�蛛エ縺ォ縺ゅk迚ゥ菴薙r蟆√§霎シ繧√k縲る亟陦帶ゥ溯�莉倥″縲�」

「ラインハルト・ハインリヒ ヒト 18歳 スキル:『鑑定』『剣』」

「アウロラ・ブエンディア ヒト 19歳 スキル:『溶雨:タイプクローズ』」

「アリスタルフ・ジトニコフ ヒト 26歳 スキル:『ポルターガイスト』」

「リニ・ファン・レール キャット 20歳 スキル『怪音』」

「ティルザ・フィーレンス ヒト 45歳 スキル『物字化』」

「アルヴァー・ブロムダール ドッグ 8歳 スキル『閃光』」


立方体の側面から5体の人間が飛び出して、一斉に目を赤く光らせた。


「新しいスキルを取得しました」

「新しいスキルを取得しました」

「新しいスキルを取得しました」

「新しいスキルを取得しました」

「新しいスキルを取得しました」






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