第7話

「これからどうする?」


いろいろと準備を終えた後、リタが尋ねた。

どうしようか。とりあえずは衣食住を充実させたい。そのためにお金が欲しい。異世界なんだから冒険者ギルドとかあるだろう。とりあえずはそれがある街を目指そう。

そしてリタの不老不死も何とかしたい。不老不死をなくす方法を探して、リタが死にたくなった時に死ねるようにしたいと思う。きっといつかリタも死にたくなる時が来るだろうから。でも、俺が一緒に居る間はそんな気持ちにはさせたくないけどな。


「とりあえず街を目指す。前に言った村は、リタのことが知れ渡っちゃってるだろうから、そこはスルーする」

「わかった」

「じゃ、行くか」

「うん」


そう言ってリタは俺の手を掴んだ。


「リタ?」

「いや?」

「いやじゃ、ないけど」

「じゃあこのままで」


微笑みながらリタは歩き出した。



「遠いね」


もう1時間くらい歩いているが何も風景が変わらない。見渡す限りの草原だ。

時々「探知」を使っているが何も引っかからない。

さっき使ってからしばらく経ったし、また使っておくか。


「探知」


前方に三つの気配が感じられた。少なくとも人でないことだけはわかる。


「リタ」

「うん、気づいてる」


気づいてんのかよ。すげぇな。

つないでいた手をはなし、走りながら距離を詰めていく。

あと数メートルの距離に近づいたところで、前方に火柱が立った。リタの攻撃だ。


「やるか」


前方に目を向けると、3匹いた犬型のモンスターのうちの1匹が火柱に包まれていた。


「アイスランス」


かざした手から幾本もの槍状の氷柱がモンスターへと襲い掛かった。

モンスターたちは悲鳴を上げる間もなく、槍に貫かれ、そこから血を吹き出しながら倒れた。やっぱり「アイスランス」みたいな倒した実感のある魔法の方が気持ちがいい。


「これどうする?」


リタがファントムウルフを指さして言う。


「持ってくには大きすぎるな。アイテムボックスとかあればいいんだけど」

「何それ」

「あ、いやなんでもない。仕方ないからここに置いておこう。いずれ大地に還るだろ」

「そうだね」




それからまた1時間ほど歩いていたが、相変わらず辺りは青々とした草原だけだ。


「遠いな」

「なんか早く移動できる魔法とかない?」

「そうだな、じゃあ、「ウインド」」


体を押す様に風を発生させた。


「お、おー。なんか押される」

「風魔法だよ。これなら少し早くならない?」

「なる、かも、でも、これ、走らないと、バランス取れない」

「確かに、じゃあ、走るか」

「えぇ、めんどい」

「じゃあこれならどう?」


そう言って、リタをお姫様抱っこする。そしてそのまま全力で走り抜ける。


「リタと会った日を思い出すな」

「私は寝てたから記憶にないけど、確かに私、お姫様抱っこされてた」

「そうなんだよ。俺はリタをお姫様抱っこして山を駆け下りていったんだ。星がきれいだったな」

「裸だったけどね」

「裸だったな」

「また裸になる?」

「なりたいのか?変態め」

「ち、違うし。言ってみただけだし」

「ふーん、そっかぁ。そうだよねー、リタは変態じゃないよねー」

「その言い方。信じてないやつだよね」


ふふふとリタが笑っている。何となくテンションが上がって、風をさらに強くする。


「お、やべぇ、これ、半分飛んでる!やべぇ転ぶ!」

「すごい。すごいよ!がんばってあきと!」


風に負けて転ばないように、全力で足を動かして、何とかバランスを保つ。すごい勢いで風景が後ろに引いていく。人間がこんな速度で走ることができるなんて。

あぁ、魔法って最高すぎる。


しばらく走ると、前方に町が見えてきた。壁に囲まれていて、中央に大きな門がある。壁の上にあるのは、大砲か?


「あきと!あれ、町!」

「ああ、そうだな。そろそろ、速度落とすか」


あまり目立つのは避けたい。目立ったって何もいいことないからな。

風魔法を解除して街の入り口に歩いて行った。

門を守るようにして立っている兵士に話しかけられた。


「止まれ」


素直に従って歩みを止めた。相変わらず兵士は銃を持っている。


「どこから来た?」


やっべ考えてなかった。どうしよ。


「えーと、シュヴァルツ村からです」

「聞いたことないな」


だろうな。俺がとっさに考えたんだから。


「辺境ですからね。知らないのも無理ありませんよ」

「そんな辺境から何をしに来た?」

「仕事ですよ。村での農作業にはもう飽き飽きしていたので」

「そうか、そこの女も同じか?」


問われ、リタは体をびくっとさせて俺の後ろに隠れる。


「は、はい」

「よし。じゃあ入っていいぞ」

「ありがとうございます」


そう言って街の中に入っていった。



中に入って今更ながらに実感した。

ここは異世界なんだと。

中世ヨーロッパのような街並み。

武器屋に防具屋、ポーション店に、ギルド。

道行く人々の欧風な顔立ち。

時々、猫や犬の耳を付けた人が通り過ぎていった。

しばらく歩くと広場があって、そこにたくさんの屋台が並んでいた。そこから香ばしい、いい匂いがしてくる。


ぐうぅ


後ろから空腹を知らせる音が聞こえてきた。


「お腹すいた」


照れ笑いをしながらリタが言った。


「そうだな。何か食べるか」


お金はある。研究所で兵士のポケットに入っていたものをくすねてきたからな。

屋台を適当に回っていると、リタが立ち止まった。


「これ食べたい」


リタの指した先には"焼き鳥"があった。いや、鳥ではないかもしれないけど。

見た目は焼き鳥だが少し辛そうな香りがした。味付けはなんだろう。赤黒いたれがかかっている。よもや血ではあるまいな。

値段は50ペニー、ほかの屋台の値段も見たが殊更高いというわけではなさそうだ。


「これ2本ください」

「はいよ」


屋台のおっちゃんは今ちょうど焼いていた焼き鳥から二本とって渡してくれた。

一本をリタに渡す。


「ありがと」


そう言って、リタはぱくりと焼き鳥らしきものを口に入れた。

その瞬間、目を大きく開く。


「お、おいしい」


そう言って、すぐにパクパクと残りを食べていく。

そんなにおいしいのか。俺も焼き鳥らしきものを口に入れる。


「これは、うまい。肉は柔らかいし、この甘辛いたれもうまい」


味はかなりたれ味の焼き鳥に近いし、触感も鶏肉なので、これは本当に焼き鳥なのかもしれない。こんなに現代日本と食事が近いのは違和感しかないが。もしかして俺以外のも転生者、転移者がいるのか?それは、嫌だな。


その後しばらく屋台を回って腹を満たした。見た目は中世でも、食は現代日本に匹敵するうまさだ。

屋台を抜け、次に向かうのは冒険者ギルドだ。


ギルドへ向かう途中、道の横に謎の黒い建物があった。全体が真っ黒で、入り口が見当たらない。なんだこれ。道行く人に聞いてみても、よくわからないとのこと。うーん、気になる。


「なんだろうなこれ」

「中にやばいのが封印されてたりして」

「なんで町中にそんなのあんだよ」

「確かに。じゃあ何だろう」

「何だろうな」

「壊せないかな」

「壊したらダメだろ」

「えー、いいじゃん。えーと、「フレ


手を建物に向かってかざし始めたリタの頭を叩いた。


「いて。何をする」

「犯罪者の友達になりたくなかったから止めたんだよ」

「と、ともだち。えへへ」

「こんな木造建築ばっかな場所で火属性の魔法使ったら火事になるからな。使うなら火属性以外にしろ」

「分かってるって、冗談、だよ。ていうか火属性じゃなければいいんだ」

「ばれなきゃいいんだよ」

「やば。友達としての関係を考え直す必要があるかも」

「冗談だって」


そう言って笑いながらその建物を通り過ぎた。



しばらく歩くと、冒険者ギルドに着いた。


「ここが冒険者ギルドか」

「いこ」

「あぁ」


中に入ると、沢山の冒険者らしき人たちが集まっていた。

おぉ、ここがギルドか。周りをきょろきょろ見回しながら、受付へと向かう。びくびくしながらリタは後ろをついてきた。

受付をしているのは金髪のきれいなお姉さんだった。

そして最も目を引いたのはその胸の大きさだ。視線が吸い寄せられる。後ろからジトッとした視線を感じながら、きょとんとしている受付のお姉さんに話しかけた。


「すみません、冒険者登録?したいんですけど」

「初めての方ですか?」

「はい」


「新しいスキルを獲得しました」


「え?」

「どうされました?」

「い、いやなんでもないです」


誰かにスキルを使われた?後で確認しないとな。お姉さんはきょとんとした表情を切り替え、また説明を続ける。


「そうですか。ではまずこの書類を記入していただきたいのですが、文字は書けますか?」

「ええ」


ギルドの受付で、書類を受け取り記入していく。リタは文字が書けないようなので俺が代わりに書いた。幸い文字は日本語なのですらすらと書ける。実際に日本語なのか日本語に見えるだけなのかは定かでないが。

記入し終えたので書類を提出しに行く。受付の金髪のお姉さんは書類を検めて、


「はい、不備はないようですので、これで冒険者登録は完了です。では、ここでのお仕事の説明に移らせてもらいますね。冒険者さまは、あちらの掲示板に貼ってある様々なクエストの中から一つを選んでいただき、それを達成することで報酬を受け取ることができます」


お姉さんが説明をしている間、リタは俺の後ろに隠れていた。人見知りなのかもしれない。あるいは他人が怖いのか。話を聞いている間にこそっとステータスを確認し増えたスキルを見る。「鑑定」か。もしかして新人相手には受付さんが鑑定するものなのかな。にしてもいいスキルを手に入れたな。


「ですが、どれを選んでもいいというわけではありません。ランクというものがありまして、最初はF、そこから上にE、D、C、B、Aと上がっていきます。そして、クエストには推奨ランクが定められており、自分のランクの二つ以上のランクのクエストは受けられません。

ランクは自分のランクの一つ上のランクのクエストを5回連続でクリアすることで上げることができます。たまに特例で一気に上がる人もいますけど、それは基本的にはないものと考えてください。ここまでで何か質問はありますか?」


なるほど。異世界転生もののテンプレって感じか。


「いや特にないです。もう今から受けてもいいんですか?」

「えぇかまいませんよ」


掲示板を眺め、いい感じのクエストを探す。薬草採取とかはつまんないから討伐系がいいな。


「リタ、何かやりたいのあるか?」

「なんでもいい、あきとが決めて」

「そっか、じゃあ」


掲示板を眺める。多いのはF~Dまで、C以降はあまりないらしい。お、これは「ヘブン」の調査クエスト?これってあの「ヘブン」か。まぁランクDだから受けられないけど。どうしよっかな。うーん、やっぱ最初はこれでしょ。


「新しいスキルを獲得しました」


「このゴブリン討伐やつに、って、またかよ」

「どうしたの?」

「いや、何でもない」


誰かがスキルを使ったのか。ステータスを見ると、スキルに「センスハック」が追加されていた。


「おいおい、お前ら、姉さんの説明聞いてたのか?」


その声に振り返ると大柄な男が俺たちを見下ろしていた。うわー、典型的な初心者いびり系のやつだこれ。


「ちゃんと聞いてたけど、それが?」

「じゃあなんでAランクのクエスト用紙持ってんだ?」


がははは、と取り巻きの男たちが笑いだす。みんな柄が悪いし、くさそうだ。

そして改めて、クエスト用紙を見る。そこには推奨ランクAランクと書かれており、討伐対象はレッドドラゴンとなっていた。


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