第1章 ハードモードな異世界 ~ 他者は理解し得ない。それでも―― ~
第6話
次の日、リタは、いつも通りに見えた。けれどまだ時々、辛そうな表情を見せている。当然だ。人を殺したのだ。それに目標がなくなって、過去を思い返すことも増えているだろう。きっとリタはこれからも苦しみからは逃れられない。
でも少しずつでも、その苦しみが少なくなっていって、いつかリタが、心の底から幸せになれればいい。そう思う。
リタはあの魔石のネックレスをつけている。真っ赤なドレスと相まって、いつもより大人っぽく見えた。
「ねぇ、あきと」
「ん?」
研究所で缶詰を開けながらリタが聞いてきた。なぜかこの世界には缶詰があるのだ。
「なんであきとは私にこんなに良くしてくれるの?」
確かになぜだろう。正直流れでっていうのも大きい。だけど、単純に、これも理由なんじゃないかなって思う。
「楽しいからかな」
「どういうこと?」
「言葉通りだよ。リタと出会って、一緒にいて、安心して、話していると楽しくて、幸せだなって感じてるってことだよ」
「そ、そうなんだ、でも、じゃあ私を助けてくれたのはなんで?」
「それは...助けなきゃって思ったから。そうしないと後悔するって思ったからだよ」
「そっか、優しいんだね」
「弱いだけだよ」
「そうかな。私にとっては彰人は優しいよ。それに私も、彰人といると楽しいし、安心するし、幸せだよ、えへへ」
リタの顔が真っ赤にしながらそう言った。俺は無意識に手を伸ばしてリタの頭をなでていた。
「ど、どうしたの?」
「あ、ごめんつい」
そう言って手を放そうとすると、リタがその腕をつかんだ。
「やめないで」
上目遣いにリタが言った。かわいい。愛おしさがこみあげてくる。
「仕方ないな」
そう言いながら俺はリタの頭をなで続ける。リタはだらしなく口を開けている。よだれがたれそうだ。そんなことを思っていると、ぐ~とお腹の音が鳴った。リタがびくっとして顔を真っ赤にしている。
「お腹、すいた」
「ごめんね、缶詰開けてたのにほったらかしてて」
リタは首を横に振りながら手元の缶詰から謎の黒い塊を口に入れた。
「それはなんなんだ?」
「さぁ、でもおいしい」
リタの持っている缶詰の横に書いてる文字を読む。えーと、キンチャクムシ、え?ムシって虫?
「ひっ」
「え、ど、どうしたの?」
「あ、あぁいや、なんでもない」
知らない方が幸せなこともある。
「あきとも食べる?」
「い、いやいい。俺、こっちの肉っぽいやつ食べるから」
「え、いいの?これ一つしかないのに」
「い、いいよ。昨日は頑張ったもんな」
「う、うん、ありがと」
えへへとリタは微笑んで言った。その笑顔見ていると胸に罪悪感が広がっていった。
ご飯を食べ終えた後、今更ながら二日もお風呂に入っていないことに気づいた。
「なぁリタ」
「なに?」
「ここ風呂ってないのか」
「ふろってなに?」
「じゃあシャワーは」
「しゃわーって?」
ないらしい。風呂、入りたいなぁ。でも俺は水しか出せないし。あ、そうだ。
俺はリタを連れて研究所の外へ出た。空は雲一つなく、青く澄み渡っている。
「いい天気」
「だな」
しばらく研究所周辺を歩くと壁際にドラム缶を発見した。
「見つけた」
「これ、なに?」
「ドラム缶ってやつ」
「どらむかん、これをどうするの?」
「まずは洗う。ウォーター」」
ドラム缶を水でいっぱいにした後、全部外に出して、またいっぱいにして、全部外に出す。そしてもう一回いっぱいにする。
「ここからリタに手伝ってほしいんだけど、これをあっためてほしんだよね」
「温める。どれくらい?」
「できる限り低めからスタートして、俺がいいっていうまで温度上げてって」
言いながら、手を水につける。魔石の効果でリタも火系統のスキルが使えるはずだ。リタは「わかった」と言って、両手をドラム缶に着けた。
「ワーム」
そういうと、少しずつ水が温まってくる。しばらくしていい感じの温度になった。
「もういいぞ」
「うん、それでどうするの?」
「これに入る」
「それがおふろ?」
「そう。これがおふろ」
「へー、服着たまま入るの?」
「いや、裸で入る」
「はだか、ふーん」
「先、入っていいぞ」
「じゃ、じゃあ、い、一緒に入ろ?」
リタが髪をいじりながら言った。顔を真っ赤にして。
「い、いや、いやいや、入らないから。俺、中にいるから、終わったら、呼びに来て。あ、あと体拭くタオルここに置いておくから」
「わかった、ありがと」
俺は息を吐いて、中に戻った。ホント心臓に悪い。
「ステータスオープン」
レベル30
ステータス
筋力 49
スタミナ 52
防御力 52
敏捷 50
ポータル 31
お、結構レベル上がったな。やっぱ数字が増えるのは気持ちがいい。スキルは増えてないか。魔石に付与されたスキルは増えないのか。というか魔石ってなんだ。スキルもよくわかんないし。スキルを発動させるときは頭の中でイメージ、そして何かを開いてそこからエネルギーを持ってきてそのイメージを形にするという過程を踏んでいる。たぶんこの開く力がポータルなんだろう。そしてポータルを開くのもイメージをするのも頭の中で完結する。体を動かすときはそうしたほうが命中率が上がるとかイメージしやすいとかそういう理由だ。だからおそらくスキルは脳によって使用されるものだ。俺は前の世界と同じ体のはずだから転移時に脳をいじくられてその結果スキルが使えるようになったのかもしれない。そう考えるとぐろいな。
「終わったよ」
ビクっと体を震わせて、声のした方へ振り向くとリタが立っていた。相変わらず赤いドレスを着ている。髪は濡れたままだ。まぁ仕方ないか。タオルだけじゃ乾かないよな。
「ちょっとこっち来て」
「ん?うん」
俺の股の間を叩いて言った。
そしてリタがそこにちょこんと座る。
「ブロー」
リタの白い髪に向かって優しく風を吹きかける。
「お、おぉ、これなに」
「髪を乾かしてるんだよ」
「なぜ」
「こうやって乾かさないと髪が痛むから。せっかくきれいなんだからちゃんと手入れしないと」
「きれいかな」
「きれいだよ」
「そっか」
にへらとリタが笑っている。足を前に投げ出して俺の体に体重をかけてくる。
軽い。でも柔らかさも感じ取れる。瘦せすぎてもいないし太っているわけでもない。一応、この施設でも栄養はちゃんと取れていたらしい。
「なぁリタって何歳なんだ?」
「え~と、確か15歳だと思う」
思ったいたより上だった。というか俺と2歳しか違わないのか。
よかった。度々リタに対して性的に思うところがあったけど、2歳の歳の差ならロリコンってわけではないだろう...ないよな?
「あきとは?」
「俺は17歳」
「年上」
「そうだな」
「年上なら年下のわがままを聞くべき」
「別にそんなことはないと思うけど。なんかあんの?言ってみ」
「これからもあきとに、付いていっていい?」
これから、か。俺の予定としては、せっかく異世界に来たんだから冒険者にでもなろうと思っていた。想像する。リタと二人で冒険をする光景を。うん。悪くないな。それになんか、リタはほっておけないし。
「あぁ、いいぞ」
「やった」
しばらくして髪を乾かし終わったので、自分も風呂に入りに行った。
風呂につかり、しばらくボーとする。そしてリタのことを考える。リタがこんなに甘えてくるのは、状況がそうさせてるんだろう。ずっと地獄みたいな時間を過ごしていて、それをたまたま俺が救った。しかもその人が自分を傷つけず受け入れている。だからこんなに甘えるんだろう。別に俺だからってわけじゃない。ただ、タイミングよく、俺がここにいただけ...
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