第4話
研究所に突撃することに決まったが、だからといって、目につく人間すべて殺せばいいというわけではない。例えばさっきの兵士は麻薬の密売には関わっているらしいが、実験にも関わっているとは限らない。まぁ麻薬の密売をするくらいだ。関わっていてもおかしくはないと思うが。というわけでとりあえず、さっきの兵士を尋問することにした。
しばらく歩くと兵士の姿が見えてきた。不意に道をはずれ、森に入っていく。少し歩いたところで立ち止まり、銃を脇に置いた。
そして股間に手を持っていき、何かを下ろすようにする。この世界にも社会の窓はあるらしい。そして、これはチャンスだ。
「いくぞ」
「うん」
俺たちは踏み込んで、一気に兵士に近づき、
「アイスバインド」
「ブラッドウィップ」
兵士の足が地面とともに凍り付くのと同時に、その体が腕とともに鞭によって締め上げられる。
「う、うわぁ!なんだ!誰だ!」
「あっけないな」
「わたしのおかげ」
「だな。ありがとな。リタ」
そう言いながら頭を撫でる。リタは「えへへ」と笑いながら兵士の体を鞭で縛り上げている。
「お、お前、昨日の!」
「昨日ぶりだな。生きてたのか」
見ると、この兵士はリタの部屋の前を守っていたやつらしい。
「何が目的だ!」
「いやなに、ちょっと知ってることを話してくれるだけでいいからさ」
「話すわけがないだろう!どこの手の者だ!ラビッツか!公国か!」
「ラビッツ?公国?別にどこの手の者でもないよ。んーどうすれば話してくれるかな」
「ごうもん」
鞭の縛りを強くしながらリタは言った。
「ひっ」
兵士が怯えた目でリタを見る。
「でもこいつは何も知らずに加担させられているだけかもしれない」
「ん、ならだめだ」
「おっさん。不老不死について何か知ってることない?」
「は?不老不死?そんな御伽噺が何だっていうんだ」
兵士は本気で困惑したように言った。
「本当か?」
「ああ」
「ヘブン」
「な、なぜそれを」
「返答次第ではこれについての情報をしかるべきところに伝えるかもしれない」
「く、くそ。卑怯な」
「麻薬の密売してるやつが何言ってんだ。さぁどうなんだ。本当に知らないのか?」
「知らない!本当だ!信じてくれ!」
兵士が必死の形相で訴えかけてくる。どうやら本当らしい。
「そっか、じゃあもういいよ。いこっか。リタ」
「いいの?」
「ああ」
そう言って俺たちは兵士から離れていく。
「おい!待ってくれ!この鞭をほどいてくれ!」
「たぶん明日になれば消えるから安心しろよ」
「今すぐほどいてくれ!もう限界なんだ!」
兵士が足をもじもじさせながら言った。
「どうする?」
「いこ。死ぬわけじゃないもん」
「あ、やっば、忘れてた」
俺は兵士のもとに駆け寄る。兵士がほっとしたように俺のほうを見る。あ、別にほどくわけじゃないんだけどな。
「もし俺たちのことを誰かに言ったら、ヘブンの情報漏らすから。それと俺がそう言っていたということを今、ほかの兵士にも伝えろ」
そう言って俺は近くに落ちていた機械を手に取る。兵士から使い方を聞きながら通話状態にし、兵士に今言ったことを共有させた。
「よし、ありがとうな」
「ばいばい」
「待って!待ってくれ!漏れる!漏れるから!」
俺たちは、その懇願に構わずに歩いて行った。声が少しずつ小さくなっていく。
「そういえば鞭が消えるならこの服も消えるのか?」
「うん、今日中に」
「マジか」
「マジ」
「また裸見れる?」
「見せない」
「残念」
「次はどうする?」
「研究所に行く」
昨日駆け下りた山をまた登っていった。
「さすがに腹減ったな」
「でも食べるものない」
「水はいくらでもあんだけどな」
「ね。おしっこしかでないもん」
「そういうこと女の子が言わない」
「はーい」
これから人を殺すというのにまるで緊張感がない。あるいはわざとそうすることで緊張を紛らわせているのかもしれない。少なくとも俺は結構緊張していた。それと同時にわくわくもしていたけど。やっぱり俺はどこかおかしいらしい。
見張りを任された兵士が知らないのだから、ほかの兵士も知らないだろう。もし知っていたとしてもあの脅しが効いていれば大丈夫なはずだ。さっきリタにきいたところ、研究員は全部で9人らしいから、昨日居たのを全員殺せばそれで終わり。
「いるかな。全員」
「いるよ。そんな気がする」
研究所まで戻ってきた。案外一日食べなくても動けるものだ。
「「探知」、中には20か。中央に9、それを囲むように残りの11。たぶんこれは中央の大部屋か」
「どうする?」
「部屋の中には研究員しかいないだろうから、二人で周りのやつらをボコって、そのあとに部屋に入ろう」
「作戦は?」
「挟み撃ち」
「それだけ?」
リタがにやっと笑みを浮かべて俺を見やる。
「それだけだ」
「わかった」
「じゃあ行くか」
「うん」
一緒に入り口に入りそこから二手に分かれる。
分かれてすぐ、「隠密」を使って気配を消した。
小走りで中央へ向かう。自分の足音しか聞こえない。
今から俺は銃を持った人間に、真正面から戦いを挑むんだ。
俺がこんな非日常を体験するなんてな。最高だよ。
「敵襲!」
反対側で声が聞こえた。リタが見つかったのだろう。それに合わせるように中央の廊下へ飛び出す。
「アイスコフィン」
両手をそれぞれ二人の兵士に向け、氷を放つ。衝突と同時に一瞬にして、体が氷に閉じ込められる。これで2人。すぐに奥の3人が銃弾を浴びせてくる。それを凍った兵士を盾に防ぐ。どうしたものか。効果範囲の大きい魔法を使えばここからでも届くが、威力が高すぎて殺しかねない。コントロールがもっとうまくなればできるだろうが。ならどうするか。こうしよう。
「ウォーター」
凍り兵士を盾にしたまま斜め前方に向かって水を放出する。大量に。まるでダムから噴き出すように大量の水が放出され、前方へ流れていき、
「な、なんだこの水は!」
銃声が止まる。水で足を取られたのだ。俺は足元の水を凍らせながら、前へ出る。
「アイスコフィン」
手前の兵士を氷にし、それを盾にさらに前の兵士も凍らせる。さらにそれを盾にその先の兵士も凍らせた。これで5残りは4か。結構魔法のコントロールできるようになってきたな。
今頃リタの方はどうなっているかな。
私はあらかじめ作っておいたナイフで手首を切る。
「んんっ」
そしてそのまま中央の廊下へ躍り出た。
「ブラッドシールド」
「敵襲!」
その言葉とともに銃弾が浴びせられるが、すべて盾に防がれる。体を覆う程の大きい盾だ。
「ブラッドウィップ」
盾の後ろから赤黒い鞭で攻撃しようとする。銃声がうるさい。よく見えない。あぁもう、めんどくさい。やっぱり、こんな隠れて戦うのなんて嫌だ。私には向いてない。
あの部屋で散々、切られて、裂かれて、撃たれてきたんだ。
だから、銃弾の数発当たることなんて、怖くもなんともない。
私があの部屋で何百発撃たれたと思ってる?
「ブラッドソード」
私の右手に大剣が現れる。刃はついていない。この兵士たちは何もしていないから殺しちゃだめだ。心を研ぎ澄ませ兵士の動きに注目する。左前方、銃口が光る。”銃弾が飛んでくるのが見える”、それに合わせて体を動かす。
避けられた。
あれ?
なんだ。
どうせ当たると思ってたけど、こんな遅い弾丸。当たりそうにないや。いや違う。私が速いんだ。
赤黒い大剣で頭を横殴りにした。それと同時に鮮血が迸り、気絶した兵士をべたべたに汚した。
剣の使い方なんてわからない。だけど頭を殴れば大体気絶する。本で学んだ。
残りは二人、
今度はほとんど同時に二人の銃口が光る。
”左と右、両方から銃弾が向かってくるのが見える”。
なら。
私は高く跳躍し、その勢いのまま、大剣で頭をたたいた。
あと一人。
「ば、ばけものめ!」
「そうかも。だからなに?」
“銃弾がまっすぐ向かってくる”。
大剣で銃弾を弾き飛ばし、そのまま走って近づき、体を横殴りにした。
「ぐはぁ」
壁にぶつかり、ひびが入った。もう視界に立っている敵はいない。リタの通った経路に沿って血の跡が残っている。
あきとは大丈夫かな。
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