第6話


 調理実習。

 今日の課題は『オムライス』


 入れる具材は教卓側の調理台にある野菜から選べた。


「んー、玉ねぎ?」


 さて、入れる具材は――。

 雅人は腕を組み、考えていた。


「無難だね。倉石くん」

 雅人の隣で同じ班の白石京香(しらいしきょうか)も難しい顔をしている。


 京香はストレートの長髪で、美琴よりも少し高い容姿をしていた。

 マイペースな雰囲気を漂わせ、おっとりした口調をしている。

 彼女は放送委員だった。


「皆の好き嫌いがわからないから、とりあえずね。悠馬は苦手な食べ物ある?」

 後ろにいた悠馬に雅人は話しかける。


 眺める様に調理台を見つめる悠馬。

 どうしてか、めんどくさそうな雰囲気が漂っていた。

 きっと、猫背な姿勢が不思議とその様に見えてしまうのだろう。


「んー、とりあえず、そこに置いてある中には無いぞ」


 なるほど。それじゃ、桂木は――。

 雅人はそう思い、美琴に視線を向けた。


「私も無いよー」


 雅人が視線を向けた頃。

 美琴は右手を上げ、明るい声で雅人に伝える。


 明るい顔の美琴と目が合う。

 やはり――可愛い。

 彼女にストレスなんてあるのだろうか。

 そう思えるほど、純粋な雰囲気があった。


「それじゃ、玉ねぎと人参。肉は・・・・・・鶏肉でいく?」

 そう言って雅人は玉ねぎと人参を手に取った。


「おっ、いいですねー。雅人さんー」

 トレイに乗った鶏肉を手に取り、京香は笑顔を向ける。


「そうですねー。京香さん。では、行きますかー」

 不思議と彼女の流れに流されていた。


 京香に下の名前で呼ばれても、

 呼んでも何の抵抗も無い。むしろ、嬉しい。


 こうして、雅人たちは自席に戻った。


「さてさて、悠馬」

 椅子に座ると雅人は、別の班をつまらなさそうに眺める悠馬へ声を掛けた。


 別の班は野菜切りを始めている。

 早い班はもう炒めに入っていた。


「ん?」

 おっ、どうした。悠馬はそう言いたげな顔をしている。


「人参の皮を剥いて」

 どうしたじゃないよ、悠馬。

 人参に入ったトレイを悠馬の前に置く。


「剥く・・・・・・? 切るじゃなくて?」

 しばらく人参を眺め、瞬きを繰り返しながら不思議そうな顔をする。


「えっ、切るの?」

 普段ピーラーで皮を剥いたりするんだけど。

 何か別の方法があるのだろうか。


「切らないのか?」

 口を半開きにして、悠馬は初耳と言いたげな顔を向ける。


「え、切らないの?」

 悠馬の隣で美琴も同じ様な顔をしていた。


「むしろ、剥かずに切るの難しくない?」

 気にせず切ると、食べれる部分まで捨ててしまうことになるのでは。


「・・・・・・切ったこと無いからわからん」

 呆然とした顔で言う悠馬の隣で、美琴は同意と言う様に頷いていた。


「えーと・・・・・・。普段はピーラーを使います」

 調理台の引き出しからピーラーを取り出し、雅人は落ち着いた声で説明する。


「あ、じゃがいものやつだ」

 見覚えがあるのか、美琴は感心した顔をしている。


 エプロンを来た彼女の姿。

 自然と彼女感が漂っていた。


 雰囲気とは裏腹。

 その様子だと、桂木は料理をしたことが無い様だ。

 不思議と料理をする姿が想像出来る分、雅人は少し悲しい気持ちになる。


「そうそう。じゃがいもと同じ様に人参の皮むきにも使えます」

 人参を軽く水で洗い、悠馬たちの前に差し出す様に向けた。


「おー、なるほど」

 何度も頷き、悠馬は感心した顔をする。


「んじゃ、悠馬」

 悠馬にピーラーと人参を渡し、雅人は玉ねぎを手に取った。


「おう。了解」

 戸惑いながらも悠馬は人参の皮むきを始める。


「んー、私はその玉ねぎを切ればいいの?」

 雅人が手に持つ玉ねぎを見つめ、美琴は不思議そうに首を傾げた。


「・・・・・・大丈夫?」

 普段料理しないのに上手く切れるのだろうか。


「泣いたら・・・・・・ごめんね?」

 しゅんとした顔で美琴は首を傾げた。


「それはしょうがないよ」

「それじゃ――」

 そう言って玉ねぎを受け取り、引き出しから包丁とまな板を取り出す。


「さてさて、二人が野菜を切っているから――」

 続いてやるべきことを考えた。

 野菜を切り終われば、鶏肉を切って炒める。


 ――今のところ良い流れだ。


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