第16話 結婚式

 結婚式が近づいていくにつれ、司会者との打ち合わせ、花やテーブルクロスの選定など細かな打ち合わせが多くなってきた。


「結婚式って大変」

「身内だけだから、まだ楽かな」

「ほんと、うちの親が調子乗ってたくさん招待しようとするの止めておいてよかった」


 地元の名士でもある課長の父親は、結婚が決まると結婚式に市議会議員や職場の関係者を多数呼ぼうとしたのを、課長が「お父さんが結婚するんじゃないんだから、やめてよ」と止めてくれた。

 あのまま招待することになっていたらと思うと、ぞっとしてしまう。


 ◇ ◇ ◇


 そんな苦労を乗り越えながら迎えた式当日、眠い目をこすりながら6時に式場に入った。


「じゃ、あさひのドレス姿楽しみにしてるよ」


 手を振りながら課長はメイク室へと入っていった。自分も準備のために、指定されたメイク室に入ると、昨日のうちに持ち込んでいたウェディングドレスが壁に掛けてあった。

 

 今からドレスを着ると思うと、胸が弾んだ。できる限り女性の体型に近づけるために、身に着けているコルセットの苦しさもドレスを着れる喜びの前では気にならない。


 ドアがノックされ、メイク担当の方が部屋へと入ったきた。


「本日は、おめでとうございます」

「ありがとうございます。でも、男性でドレス着たいって変なお願いしてすみません」

「男性にメイクするのは初めてですが、よろしくお願いします」


 ドレスに着替えた後、メイクをしてもらった。メイク中に話を聞くと、今日のために女装のメイクを勉強してきてくれたみたいだった。


「こうやると、男性特有の掘りの深さが目だ高くなって女性っぽく見えるんですよ」


 課長にメイクを教えてもらってから自分でもするようになったが、やっぱりプロの技術の違いを感じる。

 メイクが終わると髪もセットしてもらい、改めて鏡で自分の姿を見てみると自分の姿ながら思わず見とれてしまった。


 ◇ ◇ ◇


 チャペルの控室に入ると、先にメイクを終えた課長がすでに待っていた。課長もプロの技術でいつも以上にきれいになっていた。


「何、じっとみてるのよ。照れるじゃない」

「ごめん、こんなにきれいな人と結婚できるんだなと思うと嬉しくて」

「あさひもきれいだよ。女の人しか好きになれないから、結婚なんて考えたこともなかったけど、あさひと出会えて結婚式できて夢みたい」

「泣くとメイクが崩れるし、始まってもないのに泣くのは早いよ」


 嬉しさに涙ぐみそうになり始めた、課長をとめた。


 ◇ ◇ ◇


 チャペル中に響き渡る拍手の中、介添え人に案内されながら神父のもとへと歩み始めた。

 右側の席に座っている父と母はもちろん、叔父や叔母など新郎側の親族も笑顔で祝福してくれている。

 ウェディングドレスの新郎なんて嫌がられて家族は許しても親戚は許してくれないと思っていたが、興味本位かもしれないが叔父や叔母など意外と参列してくれた。やっぱり時代は、LBGTでダイバーシティのようだ。


 パイプオルガンの重厚な響きの中ドアが開き、新婦の課長が義父と一緒にチャペルに足を踏み入れた。

 義父との思い出をかみしめるように一歩一歩慎重に歩みを進めながら、自分のもとへと歩いてくる。


 やがて二人が自分のもとへとたどり着き、義父が一礼して課長が右隣に並んだ。一緒に歩くバージンロード。ドレスの裾を踏まないように慎重に歩みを進める。


「健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか?」


 神父から定番の誓いの言葉をかけられた。


「誓います」


 二人で神父の前で誓い、指輪交換が始まった。課長の左手薬指に指輪をはめ、課長が自分の指に指輪をはめてくれた。数グラムしかないはずの指輪が重く感じる。


 指輪交換に続き誓いのキスのため、課長の顔にかかっていたベールをめくりあげた。メイクをして一層きれいになった課長の顔が見えた。

 いつもは課長から迫ってくるキスも、今日初めて自分の方から迫った。慣れないシチュエーションにちょっと緊張している課長の唇に、自分の唇をそっと重ねた。


 ウェディングプランナーから誓いのキスは、唇以外にも頬やおでこなどにもできることは教えてもらった。人前での口づけは抵抗があったので頬がいいと言ってみたが、「キスと言えば唇でしょ」と課長は譲らず唇となった。


 パイプオルガンの演奏と拍手の音が再びチャペル中に響き渡り、フラワーシャワーが舞う中、バージンロードを歩いてチャペルから退場していく。

 横から見ていてもわかるぐらい課長が喜んでいる。女装がバレて以来、急にモテだして心配をかけてしまった。わずかなモテ期だったけどそれはいい思い出として、今後は課長と思い出を作っていこう。


――――――――――――――――――――――――――――――――――


 連載打ち切りのように、急展開で締めてしまってすみません。作者の力不足でおもったより話を盛り上げることができませんでした。

 ここまで読んでくださりました、読者の方に文末で申し訳ありませんが、お礼申し上げます。


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女装がバレたら、モテ期襲来!? 葉っぱふみフミ @humihumi1234

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