第7話 反撃


よし、山を登り切った。


後は反対側に降りて行けば良い筈だ。


しかも横には川がある。


これに沿って降りていけば…俺の勝ちだ。


罠や落とし穴に気を付けて歩いていたが、登るにつれ少なくなってきた。


恐らくだが、これが正解だったのだろう。


パスッ…


目の前に矢が刺さっている。


矢?


罠を見逃がしてしまったのか…


「ありゃりゃ外しちゃったわ」


ヤバい1/2の確率が当たってしまった。


少し離れた場所に切裂きクィーンKが立っていた。


その手に持っているのはボーガンだ。


俺は慌てて近くの木に姿を隠した。


『ヤバい』まさか飛び道具まで持っているなんて思わなかった。


「なんで逃げるのかな? 君はついているよ! 死にたかったんでしょう? 出てきなよ…私、失敗しないので! メスでスパっと斬って楽に死なせてあげるよ…死にたい人にはラッキーじゃない!」


監禁暴君Sに比べれば幸せな死に方なのだろう。


楽に死なせて貰える…だが、その後は解剖される。


死体の尊厳は無い。


何より自分の意思で死ぬのではなく『誰かに殺されるのは嫌だ』


それに神代は『もし逃げられたら…そうだな、今までの事が嘘のような楽しい生活をあげよう…』


もし、これを手に入れたら『俺の死ぬ理由が無くなる』かも知れない。


何か策は無いか?


「…」


今は時間稼ぎだ。


「なんで黙っているのかな? 此処には死にに来たんでしょう? 練炭、首吊り、睡眠薬…全部物凄く辛いよ? リストカットだって、つい躊躇ってなかなか出来ないじゃない? だけど、今なら特別大サービス、この京子ちゃんが、一瞬で楽にしてあげるから…お得でしょう?」


黙っていても仕方が無い。


「嘘だね…楽に殺す気があるなら、ボーガンなんて使わない筈だ…もし、その矢が刺さったら楽になんて死ねないじゃないか?」


少しでも時間を稼がなくちゃ。


「あはははっ、そんな事しないよ…ほらね…これが証拠だよ」


何かを放り投げてきた。


証拠?


ドサッ…


落ちた先を見るとボール位の塊があった。


「うぐっ」


俺は声が出そうになるのを手で口を押さえ我慢した。


落ちてきたのはボールではなく大樹さんの首だった。


「それを見てみれば解るよね? 首の切り口綺麗でしょう? 私はサラブレットなのよ! お父さんは世界的な外科医…その血を引いた私は天才なのよIQ150で外科医の娘に殺して貰えるのよ…楽に死にたいならチャンスよ…早く出てきなさいよ…」


「それなら、せめて、そのボーガンを下に置いてくれよ…それ怖いからな」


「ボーガンを置いたら出てくるのね?」


「約束する…」


「そう解ったわ」


やった、あれが無ければ…どうにかなる。


「さぁ、置いたわよ…約束を守りなさい」


俺はゆっくりと木の影から出て…走り出した。


「あらあら、そんなに早く死にたいの? 良いわ…えっ?!」


俺は拳に石を握りしめて、思いっきりKの顔面を殴りつけた。


「くっお前!」


馬鹿な奴…腕力で女が男の勝てると思っているのか…


幾ら、殺人鬼として有名な少女でも、腕力はただの高校生。


しかも、見た感じ鍛えられた感じはしない。


よろめいて倒れたKに馬乗りになり、殴りかかる。


狙いは正中線…鼻と口だ。


「糞っこの馬鹿…楽に殺してあげない…この降りなさい」


「ぐっ…よくも、この野郎――っ」


太腿に痛みが走った。


メスの様な刃物が刺されていた。


「あんたみたいな男、残酷に殺して…うがっ、ぎゃぁぁぁぁーーっ」


ひたすら殴る、殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る

 女だからって気にしちゃいけない。


相手は残酷な犯罪者…そして快楽殺人者。


もし、この手を止めたら…なにかしてくる。


「死ね死ね死ね死ね…薄汚い殺人者、死ね死ね死ね…死ねーーーっ」


「うごば、げふっやめ…止めて…止めてぐふっ…嫌、嫌…ああっ痛ういたうよ…酷い、ひどうよ」


鼻には上手くあたらないが口には見事に当たっている。


歯が折れて飛んでいったり、俺の拳に刺さっている。


「死ねよ、糞女…死ね、死ね死ねーーっ」


ボキッ…


「いやぁぁぁぁぁーーもふいやぁおあぁぁぁぁぁーーーっ」


とうとう拳が鼻を捕らえあたった。


どうやら折れたようだ…


バチバチィ


「スタンガンか? もう許さねー」


スタンガンは確かに苦痛だが、基本的に意識を刈り取る様な威力は無い。


「おらよおらおらおらーーっ」


「やめふて…やめふて…死んじゃう、やめて…」


「…」


「やめふて…下さい」


どの位殴り続けていたか解らない。


「やふて…ゆうして…いやふ…死にたくない…」


見た感じ虫の息だな…


「ううっ、ひおいひおいよーーっ」


ひたすら殴り続けていたから、顔の形は変わっている…


歯も随分、折れたな…痛っ…歯が手に刺さっている。


これじゃ、此奴も終わりだな。


「たふけて…いやう、いやうよ…」


顔は倍くらいに腫れあがり、鼻が折れていて前歯も数本無い。


鼻字と鼻水が混ざった液体が折れて潰れた鼻から垂れて…腫れてブサイクになった目からは涙が流れている。


元はなかなか可愛かったが…この女を抱きたい奴は絶対に居ない。


化け物にしか見えない。


「みっともない、おしっこまで漏らして…それじゃ…ああっあった」


近くを探すと大きな石があった。


「いや、いやういやうーーふぐっいやーーー」


「煩いな、もう終わらしてやるから」


俺が石を持ち振り上げると…


「いやういやあああああああーーーーっゆうしてーーっ」


グシャ….


顔にに思いっきり叩きつけた。


頭が顔側から石によって潰れた…よく見るとピンク色の脳味噌がはみ出ている。


終わった…どうにか…生き残る事ができた。











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