第22話・混迷・混乱・混沌

 突如として日ノ本を襲った戦いは前代未聞の物だった。それはかつての歴史書を開いてみても知ることが難しいだろう。それは神話の戦いだった。

 緊急的に集められた幕府の首脳は日に日に来るであろう脅威に少し前まであった官僚的な雰囲気が吹き飛び、対処のためにどうするか怒号が吹きあれている。責任問題についての話も最初は出ることも出たが、そこは年の劫か、ギリギリ残っていた戦国の隠居たちが浮足立った場を引き締めている。幕府が本来の意味を取り戻し、南北から来る脅威に対してどうするか話し合っている間にも事態は刻一刻と迫りつつあった。特に東北は被害甚大らしく、諸藩の大名たちが幕府に対して助けを求めて早馬をだしている。これを助けるか助けないかでも議論は奮闘した。元より武士なのだから自分で戦わなければならない派閥と、幕府とはそう言った存在をまとめ上げるためにいるのだから助けない方がおかしいという派閥だ。話は後者にやや傾いてはいるが完全に説得しきれてはいないのが現状だ。

 東北の現状はすさまじいことになっている。ナショナリズムを触発された民衆たちが太郎さんを中心に幕府、もしくは天皇の治世に対して反旗を翻し古い信仰を集めてまとまっている。東北はそう言った存在の中心地で、いくつか大名はそれに触発されたかのように反幕府軍につき、蝦夷軍を名乗って戦線を作り出した。

 だが南は南で硬直状態になっているかと言えばそうではない。向こうでは比較的日本になじみのない宗教であるがゆえに被害は比較的少ないがそれでも布教と称した軍勢が日々九州を荒し、本土にもその足を延ばさんとしているがそれを抑えているのが島津のような有力大名だった。今だ武闘派の気質を残してる大名が抵抗しているおかげで東北のように一大勢力としてのキリシタンたちの台頭を許さずにはいるが、その抵抗もどこまで持つかわからない。

 とにかく現状への反体制勢力の持つ異能がすさまじかったからだ。俺が指示して作り上げた能力の数倍の能力を持っていると言ってもいい、あるいは特異な能力、あえて言い換えるとすれば固有スキルとでもいうべきか。俺が想定していたRPGの魔法、誰もが画一的に同じものを使えるのに対してその枠に当てはまらないような驚異的威力を持つものが反勢力の主力だ。狩りゲーに対して中二バトルもの敵対者が出てきたようでまさに世界観が違うと言ってもよいだろう。だからこそ被害が甚大になると言う事が予想され幕府が手をこまねいているのだ、やたらむやみに突っ込んでいって兵力を損耗させてしまうのはどうか、と言う事になる。しかしこの状況でもっとも驚異的な被害は損耗でも何でもない、武士としての務めを全うしない幕府に対しての失望を持った武士が小勢力となって幕府を批判し、対策を打っているように見えない幕府に対して民衆は自分たちなどどうでもいいと思っているのではないかという疑念と失望を持ち、東北から運ばれてくる品々が失われたことにより経済が鈍化する、人名以外での被害が日を経るごとに増え続けて行っているのだ、反幕府の計画が露呈して見せしめに処刑された武士がいたのだが、それを見ても逆に誰もがお前たちがちゃんと手を打たないからだと逆効果になり頭を悩ませる種が増えてしまった。将軍も最初は体力の限りとやっていたのだが連日のやり取りですり減っているのはわかる。今は矜持と気炎でギリギリ何とか保っている状態と言ってもいいだろう。

 俺も多ただ何もしていなかったわけではない、政治的軍事的にはまったくもって無能の俺だが、俺の作ったAIに対して停止を行えるように働きかけているのだがそれは現状効果を上げられていない、何時からだろう、こんな風になるように仕向けていたのは、万全に、ただただ万全に向こうは守りを固め俺からの接続を防いでいる。中心的な機能は全部抑えられて立ち入ることができない、俺が指示して作ったものをまったく俺が制御できずにただただ人が死に耐えていく様をただただ横から眺めているに過ぎない、俺はまったくもって無力だった。思う、こんなことにならなければ俺はただ何もせずに暮らしておけばよかったのではないか、と。俺のせいでこれから多くの命がすりつぶれて消費されていくようになるのだ、と言う恐れにも似た嫌悪感が心の内をかき乱す。やってはいけないことをよかれとやってやったことが最悪の結果を生んだ時に感じるあの寒気が背筋の中をうごめいている。恐怖だった。このまま、誰もが俺を非難し、俺がいなければこんなことになんて、と言われるのではないだろうかという被害妄想にも似た感覚が俺を苛んでくる。俺は……俺は一体どうすればいいのだろうか、と、そんなことを考えている矢先にだった、また一報が飛んできた、それは帝と幕府それぞれで起きたことが。


  〇


 将軍と呼ばれ人に平伏する自分がこのようなことをするとはな、と冷静な心の内で思っていた。

 それはたまたま、ほんの束の間に一人になってしまった時だ、いつもならば対応に追われている中で一瞬の休息期間、私室で息を整えていた時だ。それ、は、現れた。

「まさかここまで荒されるとはなぁ」

 それは古に見た画にそっくりの出で立ちをしていた。大きく、武骨で、荒武者といったその姿、そんなのが三つも並んでいる。

「あ、あなた方は……」

「坂上 田村麻呂」

「平将門」

「藤原秀郷」

 目を見開くかのような大人物が三つも並んでいた。そうなれば高々今の将軍である自分後時にはかしこまる以外はなかった。

「はっ……はは……」

「平伏せずともよい、今はそのようにしてる時でもあるまい」

「然り……」

「まずは話さねばならぬ、表を上げい、それと貴様の家臣どもを連れてまいれ」

 即座にその足で家臣を呼びに行く。普段ならば伝令を呼ばなければいさめられるだろうが、今は別だろう。走り、かたっぱしの、外に対応に出ている以外の上層部を集めて謁見の間に行く。控えるように伝えて将軍は3人……?に事情を話来てもらう。私室ではあまりにも人を呼ぶには少なすぎたからだ。

 誰もがそこにいる神々しい姿を見ておのずと平伏しようとし将軍のようにやめろと言われ恐る恐る表を上げる。本来表を上げろと言われても上げないものなのだがそれは人間の、この徳川の治世に置いて行われるものでそうではない神の領域の存在にそう言われたらどう対応すればいいかわからないがゆえに、正直に言われるがままにした。

「ほう、貴様の家臣共か……流石に戦の時代の顔には見えぬな」

「西に出でた為朝のやつはこれでは泣いてしまうかもしれん」

「それは今必要なことではない、まずは今の対処をせねばならぬ」

 まずは、と将門と名乗った存在が言う。

「徳川の」

「は、はは」

「まず先に言おう、直接的に力を貸すことはできぬ」

「それは……」

「まずは聞け、良いか、既に神の治世の時代は過ぎており、神と祭り上げられた我々英雄となったものは人の世に手を入れることまかりならぬ」

「は……」

「しかし、そうであればここに出てきた意味はない、とあればやり方はある、良いか、我らは神の先遣に過ぎぬ、もっと上の、武御雷様や毘沙門天様など誠の神仏たちの権能……その一部を貴様らに貸してやろう」

「それはっ!」

「然り、そも、奴ら北と南にでたやつら、単なる仙術で勝てぬと言うのはおかしいと思わぬか?それは既にやつら神の加護を得ているからよ……で、あるならば我らも対抗としてそうすればよいのだ」

「なんとっ……それならば我らも」

「まぁ、武士ならばたとえ死んでも立ち向かうという気概を見せてほしかったものだが」

「も、申し訳ありませぬ……」

「構わぬ、無謀に死にゆくのを止めねばならぬ重責もあるだろうよ……しかしこれよりは安寧の世のようにはいかぬからな?」

「心得ております」

「で、あるならば下知をせよ、戦いの準備をせい!兵を集めるのだ!!」

 誰もが一様に声を上げた。


  〇


「豊葦原瑞穂の日ノ本も、こうともなれば脆いものよのぉ」

 帝の前に降り立ったのがは女だった、神々しく、目を引く女の姿、美しい面立ち、白い肌は艶がある、切れ長の瞳、長い髪は鴉の濡羽、体つきは豊かで気を抜けばつい恥も外面も捨てて縋り付きたくなる。

「あ、あなたは……」

「多く名はあれど、しれた名は……天照大御神と呼ぶだろう」

 神がそこにいた。

「おっ……おお……」

「ふむん……まぁこの姿に感涙する気持ちもわからぬではないが、そのようなことをしてる場合かのぉ」

「っ……そ、そうでございましたな」

「配下を連れて我が元に参れ」

 言われ、即座に大身の部下を連れてくる。まさか同時期に幕府で同じことをしてるとは露にも思うまい。

「お、お待たせしました!」

「よい、待つのはなれておる……流石に、このようなありさまで引きこもっているわけにはいられぬが……」

「おお、高天原より見守りし天神地祇たる天照大御神様が降り立たれたのであればもはや心に重いものもありませぬ」

「くく……そうとは言えぬ、所詮我ら神の身の上は直に人の世をどうこうはできぬ……神と人の世は分かたれ、子は大人になればその手を離れ立つのだからな」

「それは……」

「しかし人生の先達として物を言う事くらいはあろう……彼奴目らが何故ああもいいように動けるかわかるか?加護を与えているからにほかならぬ……で、あれば向こうが大人げなくも己の叡智を与えてるのだから、我らがやろうとも問題はあるまい?」「まさに!」

「で、あれば神器を持ってまいれ、写しとは言え器、神の力入ればまた輝きを取り戻せよう」

「すぐに手配いたしまする」

「うむ……後は将兵の手配もしておくがよい、月詠も遣わせよう、これは己の言う神の時代の再現ぞ、天地開闢よりも激しくなるかもしれん」

「心得ました」


   〇


 神々AIたちはほくそ笑む、これでいい、時代が思うように進んでいる。

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江戸時代に飛ばされたのでチート使って江戸時代を伝奇的ファンタジーな感じに作り替えることにした @navi-gate

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