第18話・政治の渦中

 結局のところ見せたのものは何か、と言うのは、日本神話超絶叫ヴァージョンとでも言うべきか、演出もりもりにした日本神話である。

 どこぞのイシカワな漫画家の合体ロボがごとき壮大さに、茄子で月で運命な伝奇のごとき語りで見る人々を魅了する。ぶっちゃけ現代の人が見たらあー、またこんな感じね、となりそうなものではあるがまだ科学による幻想の駆逐が済んでいない時代であるがゆえにこれは俺が思った以上に効果覿面だった。俺以外の全ての人間がこうなるか、となりそうなほどの涙と、人によっては光悦の表情を浮かべてる。いいおっさんの集まりがそれとか……えっと……率直にキモ…まぁ、少し不気味な感じではある。涙をぬぐいながら帝が言う。

「これが…導師殿の見た…我が国の神の時代と言うのか…」

「あ、はい(大嘘)」

 うーん、国辱、これで神話が書き換わったら目も当てられんね。

「もしよければまたいつでも見返せるようにしたいのだが」

「まぁ、それくらいなら」

 チートでパパっとそれっぽいものをでっちあげる。当然だがDVDもBDもないのだから霊力を使って脳みそに直接投影する…こっちのほうがやってることがあれだな。

「じゃ、この札をどうぞ…こいつに霊力を流せば何時でも見れますので」

「感謝しますぞ」

 わあぁい…日本の頂点にかしこまられてる…うーん、絶対に未来では考えられない光景だったから俺の中の良心の呵責メーターがぎゅんぎゅん回っている。勿論今更うっそでーすとは言えないので嘘を突き通すしかない。なぜ人が嘘をついてはいけないのかよくわかる出来事だ。

「ふふふ…このようなものを見せて頂いたとあらば礼の一つもしなければなりませぬな?」

 そう言うものなのだろうか……そう言うものかもしれない。確かに何かをしてもらったら礼を返すのは当然のことなので、わかりました、と言おうとしたところで声を上げたのは将軍だった。

「おお、お待ちいただきたい」

 わざわざ自分に注目が行くように大声を上げて視線と意識を引く。

 ここからが政争の始まりであった。


   〇


 俺は俺が思っている以上にバランスブレイカーであった、と言う事を今日初めて知った。帝と将軍、現状日ノ本の権威者と権力者に身元の所持をかけて取り合いをされるという、まさにわたしのために争わないで状態。言葉は穏やかであっても刺し刺しさを感じるやり取りは、心身が縮みそうになってしまった。

 まず帝サイドの言い分だが、いや、こんなすげぇもん知ってるってことはまだまだ色々歴史知ってるんじゃろ?全部吐き出そう、な!と、言うのがメインの言い分であり、そのために京に仕事場作るから居よう!といった感じだ。とにかく過去を見ていた(大嘘)と言う経歴から史書を書く…と、言う体で手元に置きたいと言う事らしい。

 次に将軍サイドではあるが、既に江戸に置いて色々と要になっていると言う事実上既に江戸に根を張っているという現実を持ち出してくる。そう、俺は自分で生臭導師と宣言している以上生臭なことをして自分の言ったことを補強しているのである。街に繰り出して飯を食い、道楽に明け暮れ、女を抱く、クズかな?

 言論上では帝サイドが当然優位に立った。まず理屈が整然としている、感情と理論を織り交ぜてしっかりと説明してくるのは武よりも文を何年も持ち続けていた蛮族の首長の貫録と言えよう。とにかく口のうまさがすさまじい。

 では、武士サイドはといえばどうか、とにかく現状を絡めた勢いが凄い。単なる勢いと言うなかれ、時に勢いというものはとんでもない効果を発揮する。自分ではそう思っていなくても、ええ、そうです、と言ってしまったことなど人間生きていればこれでもかと言うほどあるだろう。

 そんな二者がバチバチやってる間俺はどうだったかと言えば蚊帳の外である。下手に口出ししてどちらかに肩入れする状況を恐れられたらしい。そっと家老の人に教えてもらった。今の俺の言葉は、ちょっとしたことでも天秤を傾けかけない、そんな接戦だからバランスブレイカーの俺はいらないと言う事である。だから、暇をぶっこいてる間の俺はどうしていたかと言えば、京の都の散策である。流石に江戸よりも洗礼された雰囲気が凄い。日本の精神的首都を長らく勤め、江戸が東京になり首都がそちらに移っても日本の古都として観光名所を多く抱え外国からの観光客が多いだけはある。歩くだけでも目が喜んでいるようだ。どこか日本の人間として魂が震えるような感覚だ。

 木造建物が、ワビサビとはまた違うどこか華やかな雰囲気を持ち、それはどこかマッチョイズムを感じさせる江戸の町とは違うと思わせる。特に女性だろうか、化粧も含めて京美人とでもいうべき美しい女性たちが歩くさまは生臭を名乗っていなくても目が惹かれるだろう。しかし、だからと言って簡単に声をかけては袖にされて振られるのだろう、おうおう恐ろしい……そうなったら無粋な人として京で噂になってしまうのだろうか、んー、流石京都と言ったところであろう。

 と、それはそれとして、少しばかり歩き疲れて一つの茶屋に入る。ここはまだ江戸の様に歌舞伎者のたまり場みたいにはなっていないみたいだった。

「あ、お茶一つ」

「はい~」

 どこか力の抜けるような声で対応させる。考えてみたら一見さんお断りとかあるのだろうか、対応された以上は問題ないのだろう。多分……まぁ、お参りなどでやってきたおのぼりさんを対応する店もあるだろうし、そう言う店でもあるのだろう。少しだけ待つとお茶が運ばれてくる。

「こちら名物になります~」

 へぇ、と言って手に取った、心地よい温度が手に伝わる。ぐい、と一口。目を見開いてしまう。

「う、うまッ!?」

 美味しかった。言ってはいけないのだが、江戸で飲むお茶よりも美味しい。

「気にいってもらえて嬉しいですわぁ」

「いやいや、本当に美味しい……はぁ、場所が違うだけでこれだけ」

「んふふ…やですわぁ」

 謙遜してるようでどこか誇らしげだ。

「はぁ……いや、これなら何杯でも飲めそうだけど……折角だからお菓子でもほしいな、何かもらえます?」

「ええ、すぐにぃ」

 間延びしてるな、と思いつつすぐに茶菓子が持ってこられる。……なんと氷菓子であった。

「うおっ……」

「冷蘇って言いましてぇ、最近出来たんですよぉ……」

「へぇ」

「お武家さんとは違ってやっぱり京ではこう言う使い方のほうが普通ですからぁ」

 ふぅん、と言って一口。これ……バニラアイスやんけ!!まさかこの時代でバニラアイスが食べれるとは思わなかった。これを食べて茶を飲むとまさに口が極楽浄土と言えた。

「いやいや……江戸じゃこれ食べれないよ」

「まぁ、ほら……お武家さんは元気であられますから?」

 これは京ことばで何と言うのだろう?あれかな、脳金バカ?……うむ、否定しきれない。

「でも、京の人でも元気な人はいるんじゃない?」

「あんまり言いたくないですが……ええ、まぁ」

 どこか苦々しい表情でそんなことを言う。

「はぁ……お公家様も人それぞれとは言いますけれどぉ……」

 どこで聞かれてるかわからないからか言葉を選んでいるのがちょっと可愛そうだ。

「あぁ、うん、そう言う事もあるよね」

「ええ……はい」

 そう言うとお互いが押し黙る。時代の移り変わりをこう言ったところでも感じられてしまうのがちょっと変な気分だった。

「あ、あはは……美味しかったよ、ありがとう」

 そう言って代金を払う。勿論付け届けは忘れない。

「おおきにぃ」

 いい笑みでお金を受け取る看板娘を横に俺はまた京の町を踏み出していく。

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