こういうことだったんだ

「マズい、今のモンスターの鳴き声だ!」

『えぇっ!?』


 火があったら、大丈夫なんじゃないのっ!?

 ステラが立ち上がる。私を抱えて、暗闇を見つめていた。

 ズシン……ズシン……。

 足音が近づいてくる。

 やがて木の向こうから姿を現したのは……。



 おっきい羽の生えた、クマのモンスターだった!!



『わぁぁっ……ってあれ?』


 叫びかけた私、首をかしげる。

 だって、足音の割には小さい体のクマだったから。

 たぶん今の私……剣よりも小さいんじゃないかな。っていうかクマに羽って……。


『かわいい~!!』


 モンスターって言っても、ああいうかわいい子がいるんだ……そう思ってステラを見るけど、彼の顔は険しい。

 ど、どうしたの?


「かわいい見た目にだまされちゃダメだ。あれは『デビルベア』って言うんだけど」


 デビル……悪魔?

 あっ、確かにあの羽、悪魔の羽に似てるかも。


「あんなに小さくても肉食。強力なアゴで骨ごと食べるんだ」


 骨!? 骨を食べちゃうの!?


「性格も凶暴だから、人がおそわれたらひとたまりもないよ」


 ひぇ~っ。モンスター、怖っ!

 ステラはこの国の住人で、さすがにモンスターは見なれているらしい。ちょっと汗を流していたけど、私みたいに慌ててなかった。


「本当は、もっと森の奥に住んでるはずなんだ。こんなに街に近いところにいるはずがない。たぶん、子どもだから……」


 迷いこんじゃったの?

 どうするの、街に出ちゃうかもしれないよね!

 子どものデビルベアは、くりくりの瞳で私たちを見てる。見た目はかわいいのに。

 でも、ふとした時に口から見えるのは……するどいキバ。

 あれで肉を食べるんだ。少しゾクッとする。

 すると、私を持つステラの手に力がこもった。

 顔を上げると、デビルベアを見たまま、苦しそうな表情をしてる。


「本当は、本当なら。ソーズの使い手である人間が討伐することになってる」

『トウバツ……殺すってこと!?』


 まだ子どもなのに、迷い込んじゃっただけなのに!?

 ステラは「しかたないことだよ」なんて言う。


「モンスターっていうのは危ないんだ。ここで放っておいたら……畑や、人が」

『そ、それは分かるけどさ。わぁっ!』


 ステラが、震える手で私を持ち上げた。

 そして……剣の鞘を抜く。

 待って。待って待って待って!! 本当に切るの!? あの子を切っちゃうの!? 私で……剣で!


「僕だってイヤだよ!!」


 ステラの悲痛な叫び。


「グルルルルルッ」


 剣を抜いたステラに気づいて、デビルベアがうなった。

 まん丸だった目は、私をにらんでる。

 この子を……倒す。子どもを、切る。

 分かってる。分かってはいるんだ。この世界にとって、モンスターは絶対に倒さなきゃいけない。RPGゲームだったら、確かに「子どものモンスターだから」とか、そんなの関係ないもん。

 でも、唐突に理解した。



 ステラの言ってた「モンスターを切りたくない」って、こういうことだったんだ。



 子どもだからとか。

 人をキケンにさらす危ない生物だからとか。

 そんなの関係ない。

 同じ「生きているもの」の命を奪うっていうこと。それを自分の手でやるっていうこと。それがとてつもなく怖いんだ。

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