修行

 ブン! ブン!!


 ステラが、剣である私を振っている。

 刃物の部分は出ていなくて、サヤの中におさまったまま。いわゆる「素振り」ってやつ。


「えっと……大丈夫?」

『だ、大丈夫大丈夫……すこしなれてきた。……おぇっ』

「全然大丈夫じゃないよね!?」


 さっきまで素振りをしていた手が、私を優しくさすってくれる。

 背中をさすられているみたいで、それまであった吐き気もいくらか落ち着いた。

 全然想像してなかったよ。こんなに吐き気がするなんて。

 剣を振る=体が揺れるってことだもんね。運転が下手な人の車に乗って、ぐわんぐわん体をシェイクされた気分……うぅ。

 ステラに協力するって言ったのは私なのになぁ。

 私のせいで、練習ができなくなっちゃうなんて。


「気にしないで。練習は、木の棒でもできるんだから」


 そう言うと、ステラはきょろきょろと地面を見回した。

 その辺にあった手ごろな枝を拾うと、ヒュッと一振りしてみせる。

「ね?」と笑うので、私は頭がくらくらするのを感じながら拍手をした。……拍手なんてできないけど。

 ソーズ……剣の技術のことは、私には分からない。

 でも、剣を振る姿がすっごくカッコイイってことだけは分かる。

 モンスターを切ることはできないけれど、きっと素振りはたくさんしたんだろうな。練習に熱心だったんだろうな。

 そう伝わってくる。

 だからこそ、協力したいって思うんだよ。


『ほんとごめん。すぐ慣れるから』

「少しずつでいいよ」

『そうは言ってもさぁ』


 やっぱり、ホンモノ使って練習した方が良いじゃん?

 現にその枝、剣よりちょっと大きいし。さっき一振りした時も、右足がよろめいたの見てたんだから。


「大丈夫だって! ほら、見てて」


 ステラは、私を安心させようと必死みたいだ。

 ヒュン! ヒュン!

 木の枝が風を切る。

 後ろに構えて、大きく振りかぶる。ヒュンッ!

 その時、目の前に木の葉が舞い降りた。ステラの瞳が、少し鋭くなって。

 剣を右側にかまえる。

 腰を落として。しっかりと木の枝を握りこんで。



 ズザァッ!!



 横になぐ。

 パシィン!! と打たれた木の葉は、枝に押されるがまま、横へと飛んで行ってしまった。剣じゃないから、もちろん切れることはないけれど。



 ……すごい!



 私は、少し見とれていた。すごい。

 まるで、一つの舞を見ているみたい。指先、足の先、一つ一つがしっかりと意識されてる。体の動きもきれいで、目が離せなかったもん。

 持っているのは木なのに、本当に剣に見えちゃったし。


『本当に、それでモンスターを切ることができたらカンペキなのにねぇ……』

「はは、それを言われると、返す言葉がないや」


 でも、あと一歩だよね。

 これでモンスターを切ることができるようになったら、絶対国の人もステラを認めるって! こんなにすごいんだもん。


「……それができたら良いんだけど」


 ステラの顔が、悲しそうなものになる。

 そんなに難しいことなのかな。悪いヤツなんだから、大丈夫だと思うけどな。

 剣である私が、ステラのこと支えてあげないと!


 でも、その時の私は分かってなかったんだ。


 ステラの怖がっている「モンスターを切る」ってことが、どういうものかってこと。

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