旅の始まり!!

   *


 元の世界に戻る方法も分からないことだし、私はとりあえずステラについていくことにした。

 ついていくも何も、動けないから背負われてるんだけどね。

 どうやらステラは、家を出てから一人で旅をしているらしい。ただ歩いて、夜になったら外で寝て。森で拾ったものを売ってお金にして、そのなけなしのお金で少しの食べ物を買う。

 うぅ、王子様の生活とは思えない……ますます悲しくなってきた。

 本人は「大丈夫」って笑ってたけど、本当かなぁ。

 一緒に生活して分かったけど、ステラってちょっと優しすぎる。


『……「モンスターに剣を向けるのが怖い」、かぁ』


 小さく小さく呟く。

 何とかその気持ちを乗り越えられたりしないかなぁ。モンスターは悪いヤツって考えればさ。私だってモンスターはバンッバン切れるよ! ……ゲームの中での話だけど。

 一人、空を見上げる。

 今ステラは森の中に落ちている木の実を拾いに行っているから、私は岩に寄りかかって待っていた。

 本当なら手伝いに行きたいところ。でも動けない。


『っていうかそれより、私が元の世界に戻る方法よ! 人のこと気にしてる場合じゃないわ』


 考えたんだけど、私の状況って最近はやりの「異世界転移」ってやつに似てない?

 現実世界で何かあって、別の世界に飛ばされちゃう。だけどその転移した世界で大活躍~~~~っ! ってやつ!! 友だちから、何回かそういうマンガ借りたことあるよ。


『いやいやいや、全然うれしくないし!!!!』


 私、一人ツッコミ。

 だって。だってよ。

 まだ「最上奏多」として、あの世界でやりたいことがあった。次の日から中学生だったのよ。友だちたくさん作りたかったし、部活にだって入りたかった!

 それが……それがさぁ。


『……もう、戻れないとか?』


 この世界でずっと生きていくの?

 ゾクッ!! ……少し、背中が冷たくなる。

 何で異世界転移なんてしたんだろう。記憶がないよ。

 私はこのまま、剣として生きていくしかないのかな。


『そんなのイヤ!!』


 思わず叫んだ。

 うん、まだ諦めちゃだめだ! 方法がないって決まったわけじゃない。

 前日の夜、私は普通にベッドに入って、普通に寝た。次の日の入学式に、期待を膨らませて。

 絶対絶対ぜーーったい、あの世界に帰るんだ!!


「カナタ、どうしたの?」


 あっ、ステラ。戻ってきたんだ。


「一人でぶつぶつ何か言っていたから……まだ、不安かな。そうだよね。いきなり知らない世界にやってくるなんて……」


 気をつかうようなステラの視線。

 心配そうに私を覗きこんだ。うっ。剣だと思ってるからだろうけど顔が!! 顔が近いからっ!

 ごまかすように、私は叫んだ。


『協力しあおう、ステラ!!』

「えっ、何の話?」

『私はこの世界にいる間、あなたに協力する。私が他でもない剣なんだもん。ソーズの力、一緒に身に着けようよ! それでまた家に入れてもらえるようにしよう!』

「え、えぇっ!?」


 目を白黒させているステラ。

 気にせず私は力いっぱい言った。

 たぶん人の姿をしていたら、ステラの手を取って言っていたことだろう。


『だからステラも、私に協力して。私が元の世界に帰る方法を探すの! この姿じゃ全然動けないからさ……あなたに動いてもらいたい』

「二つ目は……かまわないけど」


 灰色の瞳が、おずおずと私を見つめる。


「でも一つ目は無理だから気にしないでいいよ。僕にソーズは合っていないんだ、きっと……」

『あぁもう、情けないなぁ!! じゃあステラは大人になってもおじいちゃんになっても、ず~~~~っとこの旅の生活を続けるわけ!?』


 困るでしょ、いやでしょ!?

 その言葉には一理あったようで、「う……」と王子様のきれいな顔が初めて揺らいだ。


『何より私がイヤなの。知り合った人が、家からは追い出されて国の人にもバカにされるなんて! ステラはただ優しいだけなのにさ!』


 思ったことを言うと、ステラの白いほっぺが赤く染まった。

 ん? 照れたのか?

 言うだけのことは言った。答えを待つ。

 ステラは少し悩むような顔をしてから。


「……うん、分かった。協力『しあおう』」

『そうこなくっちゃ!』

「ちょっと怖いけど……カナタが僕のためを思ってくれてるのに、僕が頑張らないわけにはいかないもんね」


 あちゃあ、そういう理由か。私のためじゃなくて、自分のために頑張ってほしいんだけどなぁ。

 まぁいっか。今はとりあえず、目的は決まったってことだもんね。


 二人の旅、はじまりだよ!!

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