剣を使えない理由

 ソーズの才能が、全くない、って。


「だから僕、家から追い出されちゃったんだよね」


 ステラは力なく笑っている。

 何か、ちょっとかわいそうかも。

 だってそれ、私の世界で言えば「ピアニストの家に生まれたのに、ピアノが弾けないから家を追い出す」ってことでしょ?

 そんなのってないよ!

 才能なんて人それぞれなのに。

 それとも、この世界じゃ仕方ないことなの? ステラは王族の人間だから。


「本当に僕だけなんだよ。お父様もお母様も、六人の上の兄姉も、親戚だってみんなソーズが使えるのに……力の大小はあるみたいだけどね。でも『ゼロ』なのは、僕だけなんだ」

『それであきらめちゃってるわけ? くやしくないの!?』


 私、気づいたら叫んでた。

 ステラに怒るのは違うって分かってる。でもステラの悲しさを思ったら、何だか私の心がふつふつと燃えてきた。

 ソーズは生まれつき?

 誰がそう決めたの! ただの剣の技でしょ? 練習すればできるようになるかもしれないじゃない!


「やろうとしたよ! まだ家にいた頃に。何度も、練習したんだ……」

『でも、ダメだったの?』

「ダメ……うん、ダメ、なんだ」


 ステラは明らかに落ち込んでる。

 うぐ、そんなに落ち込んでいるなら、マジメに練習したんだろうなってことは伝わってくるよ。

 あぁでもそっか。だから私が剣に「宿った」瞬間、私は落ちてたんだね。あれはあらぬ方向に剣を飛ばしちゃったってことだ。

 ……その時、唐突に思い出した。ステラは気づいてないかもだけど、私たちあの時、唇が……いやいやいや!! 気のせいか!!!!

 剣が使えないってそんなの。人間、どうしたって向き不向きもあるしねー!! うん!!

 ……でも、待って。


『ねぇ、今の私の体って「剣」なんだよね』

「? うん。僕が家を出る時に勝手に持ち出したものだけど……剣だよ」

『わざわざ剣を持ち出したの? どれだけやってもダメだったのに』


 灰色の目が見開かれる。

 もしかしてステラ、まだあきらめてないんじゃない? きっとそうだよ!! だってそうじゃなきゃ、剣なんて持ってこない。


『えらい! えらいよステラ!! 家から追い出されても、まだ剣を練習しようとしているなんて!!』


 見直したよ!!

 でもステラは、なぜだかまだ自信なさげだ。全然私と目が合わない。

 って、今の私に目なんてないか。


『協力するよ! どうせ今の私は剣なんだもん。もちろん、私が元の世界に戻る方法も探したいけど……』

「ちょ、ちょっと待って! ストップストップ!!」


 私の言葉を、気弱な声がさえぎった。何よ。


「ごめん。期待してもらってるところ、本当にごめん。でも……やっぱりダメなんだ」

『何が』

「カナタの言う通り、確かに僕は剣を持ち出した……家から出ても、練習できるように。それは本当だよ。でもダメなんだ」


 ダメダメって情けないなぁ!

 見直したっていうの、撤回しようかな。


「だって僕がソーズを使えない理由、『才が無い』だけじゃないんだ……」


 どういうこと?


「怖いんだよ。……モンスターに、剣を向けるのが」

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