第18話 ツンデレ幼馴染とカフェ③



 やがてカフェから退店した俺は、ツインテールを逆立たせながら荒ぶる華恋から鋭い視線を向けられていた。



「こんのバカバカバカ!! ニブチン唐変木正也のすかぽんたん!!」

「そ、そんなに怒らなくてもいいじゃねぇか……」

「怒ってないわよこのスケコマシ!!」

「いや怒ってるじゃん……。つーかスケコマシって……」

「いーだっ!!」



 華恋はそう言ってチャームポイントである可愛らしい八重歯を見せつけると、アスファルトに舗装された歩道をずんずんと進んでいく。大股で俺の先を行くそんな小さな華恋の背中を見つめた俺は思わず溜息を吐いた。



(ったく、まぁ確かに俺も悪かったけどさ……。つーかあんな小さな身体にどんだけの食い物が入るんだよ……)



 俺は先程までの華恋の様子を思い出す。


 店内ではしばらく顔を真っ赤にしながらぐるぐると目を回していたが、無事ハッと意識を取り戻す華恋。するとなんといきなり店員さんを呼んでメニュー表を指差しながらハンバーガーやらドリアやらポテトやらサンドイッチなどを大量に注文しだしたのだ。


 呆気に取られていた俺と店員だったが、心配した俺が大丈夫か訊ねると「うっさいわね。食べなきゃやってらんないわよ」とひと睨みされたので素直に頷くしかなかった。そうして間もなく注文した品が到着。全部食べられるか心配で、もし残すようだったら代わりに食べてあげようと考えていた俺だったが、テーブルに並べたそれらをなんと全てぺろりと完食。


 その間終始無言でカツサンドを食べていた俺だったが、小さな口で口一杯に頬張る華恋の姿がリスみたいで可愛らしかったのは内緒だ。


 華恋がこうして声を荒げる原因になったのは、おそらくこの食事後のデザートを食べている最中の会話がきっかけ。



『……それで、一体何を企んでるのよ?』

『別に、俺は俺で思うことがあったってだけだよ』

『ふ、ふーん、殊勝な心掛けじゃない。まぁいいわ、なら……その、たくさん私に構いなさいっ』

『はいはい、わかりましたよお姫様』

『〜〜〜っ、と、ところで! もしかしてまだ私に言ってない事とか隠してる事とかあるんじゃないでしょうね?』

『あー、そういえば高槻さんに華恋とのいざこざ———疎遠になった理由も話したな』

『あ゛?』



 とまぁそんな具合である。


 それから華恋は不機嫌そうに無言でぱくぱくとデザートを胃袋の中に収めて、「俺が出す」「うるさい」と会計時に財布の出し合いをしたのち全部彼女が出してお店を退出した次第だ。そして現在に至る。


 ぽつぽつとうっすらと小雨が降る中、俺は心の中で反省しながら苦い顔を浮かべる。



(……うーん、高槻さんに華恋との昔の出来事を勝手に言ったから怒ってるんだろうなぁ。いくら鈍感な俺でもこればかりはわかる)



 俺が嘘を嫌いになった理由を知って貰う為とはいえ、どうやら当人がいないところで勝手に高槻さんに話したのがいけなかったようだ。現にこうして時折ちらちらと俺の方へ振り返りながら睨みつけているのが証拠だろう。


 あまり遠くへ離れないように俺も急いで着いていく。



「なぁ華恋。俺が悪かったから機嫌を直してくれよ」

「はぁ!? 私がなんで怒ってるか理解してんの!?」

「俺がお前との間に起こったことを勝手に高槻さんに話したからだろ?」

「チッ、えぇそうよ。二人だけでコソコソ会って話を進めてただけでも気に入らないのに、なんで人の居ないとこでそんな余計なことまで言うのよ! 一度くらい相談しなさいよ! もうホント信じらんない!!」

「あっ、ちょっと待ってくれよ華恋!」



 そのまま歩みを進める華恋になんとか追い縋るも、その雰囲気はとてもツンツンしている。通りすがる通行人の人も不思議そうに俺と華恋の様子を見ているが、見せ物ではないので勘弁してほしい。

 周囲の視線にやや居心地が悪くなるも、その背中を着いて行く。


 確かに華恋も無関係ではないのだから、話が拗れるから呼ばなくて良いと勝手に判断してしまったのは俺が未熟だった。むしろ当人がいない場で話すこと自体ナンセンスで配慮が足りていなかったのだから、全面的に俺が悪いだろう。


 故に、華恋を怒らせてしまい罪悪感を感じていた俺が次のような言葉を口走ってしまうのは仕方がなかった。



「すまなかった華恋。華恋の言うことをなんでも一つだけ聞くから許して欲しい!」

「———なんでも?」



 ぴたりと足を止めた華恋はそっと振り向きながら俺の方へ視線を向ける。どことなくその視線が獲物を見る肉食獣の如き真剣味を帯びていたのだが、気の所為だろうか。



「勿論俺に出来る範囲だけだぞ。犯罪とかそういうのはダメだ」

「わ、わかってるわよっ。まったくもう、人のことをなんだと思ってるのよ……」

「わ、悪い……」

「で、本当なの? その……なんでもってヤツ」



 もじもじとした華恋は上目遣いで俺の方を見つめると、そのように訊ねる。先程までのツンツンとした雰囲気は霧散し、こちらの様子を伺うようにしている目の前の華恋を見ると可愛らしい。


 ひとまず落ち着いてくれたようで、俺はこのまま話を進めた。



「あぁ。そもそも勝手なことをした俺も悪かったしな。男に二言はないよ」

「そ、そうっ。それじゃあ、特別に許してあげなくもないわっ!」

「さいですか。じゃ、何か俺にして欲しい事とかあるか?」

「うーん……」



 華恋は腕を組みながら真剣な様子で考え込むが、しばらくすると顔を上げる。



「うん、決めた。ひとまず保留にするわ」

「なんだそれ」

「アンタを好きに出来る機会なんて滅多にないんだからじっくり考えたいじゃない? だから保留。ここぞっていうときに伝えるわね」

「まぁ、別にいいけど……」

「んふふっ。さて、どーしよっかなー?」



 そう言った華恋は先程とは打って変わって楽しそうだ。不機嫌になったり嬉しそうにしたり。ころころと感情が変わる華恋だったが、そんな浮かれた様子の幼馴染にほっと安堵しながら俺はそのまま一緒に帰路についたのだった。




















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お待たせしましたー。


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ラブコメみたいなツンデレ美少女幼馴染が少しずつ素直になったら。 惚丸テサラ【旧ぽてさらくん。】 @potesara55

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