第17話 ツンデレ幼馴染とカフェ②





 しかしそれも一瞬。何故か引き攣ったような表情を浮かべたまま華恋はどこか動揺を隠せないまま震えた声で言葉を紡ぐ。



「あ、あはは、なんだか今信じられないような言葉が聞こえたわね。アンタがあのギャル女と和解? 嘘コクされてから日が浅いのに? 冗談でしょ?」

「いや、冗談じゃないんだ。嘘コクの件は説明すれば少しややこしいんだが、どうやら誤解だったみたいでな。高槻さんの友達が悪ノリで嘘コクの体で告白してみたらって提案を持ち掛けたみたいなんだ」

「そ、そんなぁ、私の計画が…………っ」

「?」



 今にも泣き出しそうな表情を浮かべている華恋に首を傾げる俺だったが、その目の前の幼馴染の口から聞こえた計画とは一体なんなのだろうか。


 普段の自信家な華恋に比べてその様子は弱々しい。まるでこれまで考えていた目論見がはずれたかのような物言いだが、俺は大して気にもせずに言葉を続けた。



「まぁそんなこんなで、これから高槻さんとは友達として接することに決めたから。華恋には伝えとかないとって思ってさ」

「………………」

「華恋?」



 表情を俯かせながらしゅんとしている我が幼馴染だったが、しばらくするとぽつりと言葉を零した。



「ねぇ正也、ひとつだけ確認したいんだけど」

「ん、なんだ?」

「———あのギャル女と、いずれヨリを戻すの?」



 その静かな言葉は俺と華恋の空間だけが切り離されたかのように異様にはっきりと聞こえた。俺をそっと見つめる視線は、真っ直ぐながらもどこか不安げで。


 幼馴染の前とはいえ、下手に気持ちを誤魔化すのもなんだか違うと感じた。



「いいや、悪ノリとはいえそもそも嘘コクで成り立ってた恋人関係だったんだ。改めて相手に向き合って歩み寄る大事さは知ったけど、だからって誰かと付き合うのは、今のところ考えてない」

「……そう」



 嬉しそうな、安堵したような。でもどこか苦しそうな表情で一言だけ返事を返す華恋。


 やがて次に伝える言葉に逡巡してしまう俺だったが、その刹那、自然に口からその言葉が出てしまっていた。



「でもさ、俺が一番向き合いたい人は、もう最初っから決めてるんだ」

「だ、誰よそれ……?」

「今目の前にいる。———お前だよ、華恋」

「ふぁ!?」



 かぁぁ、と頬を真っ赤にさせる華恋だったが、口から洩れてしまった以上俺は勇気を出してその旨を伝える。これまでこそ意地を張って碌に幼馴染と関わろうとしなかったが、もう誤魔化すつもりはない。


 そもそも智樹に指摘されて初めに思い浮かんだのが幼馴染の姿だった。俺のことが大嫌いで、嘘つきで、一緒にいるのは苦痛だと言っていた華恋だったが、彼女が本当はとても優しい心の持ち主であることは一緒に育ってきた俺が一番よく知っている。そんな幼馴染から俺を拒絶する言葉が放たれた事実を信じたくなくて、それ以上の悪口を聞きたくなくて嘘が嫌いと突き放した結果、自分の殻に閉じ籠ってしまった。



(でも、華恋はあの日俺に話し掛けてくれた。嫌いだろうに、顔を見るのも嫌だったろうに、元気がないからとはいえ進んで話し掛けて来てくれたんだ)



 ———意地を取っ払った今に思えば、それがどれだけ励みになったか。



「華恋は素直じゃないからな。どうせ今ここで嘘をついていた理由や俺を嫌いな理由を聞いても正直に答えるつもりはないだろ? そんな面倒臭い幼馴染にはどれだけ歩み寄っても歩み足りない」

「め、面倒くさ……!?」

「だから俺は、もう華恋を避けるつもりはないし、もっと素直になって欲しい。これからはしっかりとお前に向き合いたいんだ」

「なっ、なぁ……!?」

「華恋のことを、もっとたくさん知りたい」

「〜〜〜っ! ぷしゅう……っ」



 目の前にいる幼馴染を真っ直ぐ見つめながら嘘偽りの無い俺の気持ちを伝えていたのだが、顔を真っ赤にさせたままアワアワと口元を震わせると、なにやら頭からボフッと煙を出して背もたれのソファに寄り掛かったのだった。






















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