第15話 ギャル美少女と友達になる




「つい、その……友達の誰か気になる男子はいないのかっていう質問に、正也くんの名前挙げちゃったんだよね……」

「それって……」

「だ、だって私が言葉を濁してたらすごく喰い付いてきたんだもん!! まぁいつもは即答でそんな人いないって言ってたのに、何かありますーみたいなわかりやすい反応をした私も悪いけどさぁ……。け、けど正也くん、円香を助けてくれた謂わば妹の命の恩人だし、どんな男の子なんだろうって思いながら話し掛けてみたら全くそういう嫌らしい視線もないし……っ! 思わず正也くんのことを思い浮かんでも仕方がないよねぇ!?」

「お、おう……。そうっすか」



 顔を真っ赤にさせながら早口でそう言葉を紡ぐ高槻さんにやや圧倒されながら俺は頷く。


 高槻さんは学校中で『百年に一度の美少女』と言われる程のギャル美少女である。そんな彼女の脳裏にふと思い浮かんで貰えるのはきっと光栄なことなのだろう。確かに、俺は学生証をきっかけに話し掛けてくれた彼女に対して性的な視線で見たことはない。それこそ可愛いな、とか容姿が整っていてキラキラしてるな、という感想を抱いたことはあるが、


 苦々しい思い出もあったので極力フラットに会話するよう努めていた訳だが、どうやらその事実が彼女の琴線に触れたようだ。



「そしたらその友達が、ね……。『なら、まず嘘コクのていでその男子に告っちゃいなよー!』って提案してきて、それで…………」

「えぇ、女子のノリ怖い……」

「も、勿論私は否定したんだよ! 世の中にはいろんな恋愛の仕方があるっていっても、相手に嘘を付いて……いや嘘じゃないけど騙すような形で告白するのは全くロマンじゃないっていうか……」



 両手の人差し指をつんつんとさせながらそのように話す高槻さんに思わず笑みが溢れる。



「高槻さん、意外と乙女なんだな」

「むぅ。なにさ、正也くんも笑うの?」

「いいや、これまで薄々感じてことだけどやっぱりって感じ。ギャップがあっていいと思うぞ」

「そ、そっか……」



 これまでの交流で明るい陽キャな性格の高槻さんが意外にも乙女チックなのは薄々勘付いていたが、ようやく確信が持てた。思えばスイーツといえばパフェ、遊園地といえば観覧車、といった具合に話していた。やはり彼女の中では○○といえばこれという女の子寄りの考えがあるようだ。


 どこか恥ずかしそうに照れながら声を洩らす高槻さんだったが、俺はそのまま言葉を続けた。



「でも、それならどうして否定し続けなかったんだ?」

「今思えば嘘コクの体で告白するとか訳分かんないし、きっと私に気になる男子が出来た事を面白がっていたんだろうね……。瞳をキラキラさせながら何度も何度も告っちゃいなよって言われて押し切られちゃったんだ。………………私もそんな未来、やぶさかじゃなかったし」

「未来? なんだって?」

「な、なんでもない!」



 そう言いながら高槻さんはどこか焦ったように両手をわたわたとさせる。



「そ、それで結局ね? その友達と相談して『地味であんまり目立たない男子に告白して一ヶ月間付き合う設定の罰ゲーム』ってことにして正也くんに告白した訳なんです……」

「つまりあれか、告白が嘘コクだったっていうのも嘘……実は友達の悪ふざけで、俺はただ巻き込まれただけってことか?」

「そうなるのかな……」

「全部その友達の所為じゃねぇか」



 高槻さんは俺のことをただ単にクラスメイト、そして妹の命の恩人=気になる男子と思っていただけで、きっと俺に好意を抱くまで至っていなかったに違いない。一ヶ月もの間、放課後や休日を利用して彼女と出掛けたり買い物に行ったりしたわけだが、そもそも彼女から告白を受ける前はたった数回しか言葉を交わしていないのだ。


 自分で言うと悲しくなるが、どこにも俺を好きになる理由がない。好きでもないのにこんな俺に一ヶ月付き合って貰ったのかと考えると、逆に申し訳なくなった。


 俺は思わず溜息が洩れてしまうも、当の彼女はどこか渋い表情を浮かべていた。



「う、うーん……まぁ強く断らなかった私の方に原因もあるんだけどねー……」

「……ん、断らなかった? 断れなかったじゃなくて?」

「えっ、あっ……!?」



 高槻さんの言葉に引っ掛かった俺だが、断なかったと断なかったでは意味合いが変わってくる。———それではまるで、俺に告白してみれば? という陽キャ友達のノリに彼女が敢えて乗ったみたいではないか。


 それに、この恥ずかしげに頬を染めたこの反応……その様子はまるで、俺に好意を抱いているように思えてしまう。一体、高槻さんは心の中ではどんなことを考えているのだろうか。


 彼女が誤解と言った意味はなんとか理解出来たが、また新たな疑問が生まれたその瞬間。どこか覚悟を決めた表情を浮かべた高槻さんはアーモンドアイの瞳でこちらを真っ直ぐ見つめた。



「え、えと……ま、正也くん!」

「お、おう」

「そのことなんだけど、もう一度チャンスをくれないかな?」

「チャ、チャンス?」



 うん、と頷くと高槻さんは真剣な表情で、やや必死さも滲ませながら言葉を続ける。



「私は、友達からの提案とはいえ正也くんを傷付けたことには変わりない。でも、でもね、どうしても諦めきれないのっ」

「高槻さん……?」

「だから、こんなこと私から言うのは図々しいことだと思うけど———私と、友達になってくれないかなっ?」



 仮初とはいえ、一ヶ月も事実を隠しながら俺と付き合っていたのだ。きっと彼女なりに罪悪感も感じていたのだろう。そのように伝える彼女の瞳の奥には直向きな真摯さと、勇気を出したが故の怯えが見え隠れしていた。


 俺も、そんな健気な彼女の瞳を真っ直ぐ見返す。



「俺さ、仲が良いと思っていたのに突然拒絶されたらって考えると、相手と向き合うことが怖いんだ。だから、意地を張っていた」

「…………」

「でも、それじゃあ相手の本当の気持ちを推し量ることは出来ない。今日高槻さんから話を聞いて、歩み寄る大事さを学んだよ」



 だから、と俺は一旦言葉を止めると意を決して次の言葉を紡いだ。



「———高槻さん、こちらこそよろしくお願いします」

「うん……っ! よろしくね、正也くん!」



 そう元気よく返事をして顔を綻ばせた高槻さんの表情は、まるで向日葵のように満面の笑みで輝いていた。


















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更新遅れてごめんなさいm(_ _)m


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