第14話 ギャル美少女と言葉を交わすきっかけ
「それじゃあ次は高槻さんだ。友達との罰ゲームで嘘コクをしたっていう話はこの前聞いたけれど、そもそもどうして俺だったんだ? 経緯というか、嘘コクに至るまでの話を聞かせてほしい」
「……うん、わかった」
俺の言葉にそのように返事を返す高槻さんだったが、実のところ俺は嘘コクされる以前は彼女とほとんど会話をしたことがない。道端で無くした学生証をたまたま彼女が拾っていて、二年生に進学した春休み明け頃からそれを機に話し掛けられる機会が増えたが、一年生の時なんて俺たちの間に会話は全くなかった。
たった数回と言えど、話し掛けられるようになってからは「おはよう!」といった他愛のない挨拶から「勉強してきたー?」という日常系の話題など様々だ。突然前振りもなく声を掛けてくるようになった彼女を不思議に思うこそすれ、決して嫌な気持ちなんてなかった。
(ハッ、もしかして日々の俺の受け答え方がつまらなかったから嘘コクの相手に選ばれたのか……!?)
もしかして俺は彼女に試されていたのだろうか。俺が嫌な気持ちを抱かなかったとしても相手もそうだとは限らない。女性というのは華恋を見ていて分かる通り、心の移り変わりが激しい。実は不快感を抱いていたのならば、嘘コクの相手に選ばれるのも納得である。
「まずこれだけはきちんと言っておくけれど、正也くんのことが嫌いだから嘘コクをした訳じゃないよ」
「あ、そうなんだ」
「うん、そこはまず信じて欲しい」
「……あぁ、わかった」
高槻さんの真剣な視線が俺をじっと射抜く。どうやら本心のようだ。一度嘘コクという嘘を吐かれていた以上警戒心は引き上げるべきなのだろうが、智樹の言う通り歩み寄らなければ何も変わらない。すぐに見切りをつけて向き合うことを避けていた俺だったが、今この瞬間、彼女の瞳はそのように真摯に訴えかけていた。普段から感情の機微に疎い俺だが、きっとそんな気がした。
ひとまず高槻さんの言うことが正しければ、何気ない会話の中で俺の気が付かない内に彼女の地雷を踏んでいないようで一安心だ。
緊張しているのか、高槻さんは深く息を吐くと唇を開いた。
「きっかけはね、隣のクラスにいる友達の言葉だったんだ」
「罰ゲームである嘘コクを提案したっていう?」
「うん」
彼女の話を聞けば、どうやらある日の休日に高槻さん含めた女子ら三人と一緒にファミレスでお茶していた時の出来事らしい。
教室ではよくクラスメイトに囲まれている高槻さんだが、そんな彼女が特に親しくしている友人のようで、休日にもよく遊びに行く仲みたいだ。その日も沢山カラオケで遊んで満足した気分で談笑に興じていると、その友人の女子がふと次のように高槻さんに尋ねたらしい。
「『———蘭は最近誰か気になる男子とかいないの?』って聞かれたんだ」
「……え?」
「私、元々これまで誰とも付き合ったことがなくってさ。よく男子から告白されることもあったけれど、なーんかいまいちピンとこないっていうか……恋愛に興味が持てなかったんだ。ほら、私って結構胸大きいじゃん?」
「えーっと、まぁその………………はい」
制服越しからでも良くわかる大きな胸を両手でゆさゆさと持ち上げる高槻さん。突然そんな光景を隣から至近距離で見た俺は返事を返しながら思わず顔を真っ赤にしてしまうが、当の彼女は表情をにんまりとさせる。
「ふふ、正也くんってばかーわいい。別に正也くんなら触っても良いのになー?」
「……揶揄わないでくれ」
「それは残念。……まぁそんな訳で、明らかに鼻の下を伸ばした男の子には全く心惹かれなかった訳ですよ」
「……。それで、その気になる男子っていうのに俺はどう繋がるんだ?」
なんだか話の内容が少しだけ逸れてしまったような気がしてそのように尋ねると、彼女はパッと壁から離れて俺の方に身体を向ける。一拍だけ間をあけると、そのまま問い掛けるようにして言葉を紡いだ。
「ねぇ正也くん、どうして私がキミに話し掛けるようになったのか疑問に思わなかった?」
「まぁ確かに去年なんて全く話さなかったよな。……あぁ、話の流れ的にやっぱり嘘コクをする下準備だったのか?」
「ち、違うよ!? そこまで私は性悪じゃないよ!? っていうか友達とそんな話になったのは正也くんと言葉を交わすようになってからだよ!!」
「じゃあなんなんだ?」
「———私、妹がいるんだ」
「……妹?」
またまた話が逸れるのだろうかと首を傾げていると、そのまま続ける。
「うん。小学四年生で、とっても素直で律儀で元気いっぱいな可愛い私の自慢の妹。でも今年の春休み、友達と遊んだ日の帰り道に信号無視してきた車に轢かれそうになっちゃってさ。もうこのまま死んじゃうって思ってたら、ある男の子に助けられたんだって」
「…………ん?」
「その拍子に彼が学生証を落としたのを
「それ俺じゃんか……!」
大正解、と微笑む高槻さんだったが、まさか助けた女の子がクラスメイト、しかも『百年に一度の美少女』と呼ばれる美少女の妹だったなんて一体どんな偶然なのだろう。
(確かあの日って、俺が読んでるラブコメの新刊の発売日だったんだよな……。母さんの趣味のガーデニングの手伝いやらなんやらしてて結局買いに行くの夕方になったから走って本屋に向かってた筈)
そんな中、小学校くらいの女の子が信号無視してきたトラックに轢かれそうになっているのだ。昔の習慣で身体を鍛え続けていたおかげでなんとかその少女を抱きしめて回避。無事助けることが出来たが、どこにも怪我がないのを確認するや否や、俺はそのまま本屋に行ってしまったのだ。
いつも出歩く際は学生証を持ち歩くようにしているのだが、紛失していることに気付いたのは無事ラノベを購入して自宅に帰ってきた時。あちこち探しても見つからなかったので諦めていたのだが、春休み明けにまさか高槻さんが持っているとは、と思わず驚いた記憶がある。
当時のことを思い出す俺だったが、俺は罪悪感でいっぱいだった。何せ助けたことに安堵して心のケアを怠ったのだ。
「……ごめん。その日用事があったとはいえ置いてけぼりにせず最後まで家に送り届ければ良かったよな。ずっと後悔してたし、トラウマになってないか心配してたんだ。……妹さんは大丈夫か?」
「うん。全然大丈夫だよ。むしろアクロバティックに助けられたって嬉しそうにしてたくらい。その後たまたまその場に居合わせた仕事帰りのママと一緒に帰ってきてその日はずっと興奮してたよ?」
「そ、そうか……。よかった」
っていうかアクロバティックって何?とこてんと首を傾げる高槻さんだったが、ただトラックに轢かれそうな妹さんを直前に抱き抱えた後、ダッシュした慣性を利用して空中で一回転して庇うように膝立ちで着地しただけである。
さぁ?と彼女に誤魔化しながら妹さんの無事にホッと安心した俺だったが、そのまま話を進める。
「そ、それで高槻さんが俺に声を掛けるきっかけがその妹さんっていうのはわかったけど、どうして俺が高槻さんから嘘コクされなきゃならなかったんだ?」
「うん、それからがややこしいんだけどね……」
少しだけしゅんとしながら高槻さんは綺麗な唇を開いた。
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蘭ちゃんとの話はまだ続きます。
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