第13話 ギャル美少女と嘘が大嫌いな理由




「———っていうことがあったんだ」

「そっか……。藤宮さんがきっかけで、正也くんは嘘を吐くことも吐かれることも大嫌いになったんだね」



 やがて幼馴染である華恋との出来事を話し終えると、俺は軽く息を吐く。時間はそこまで経っていない筈だが、なんだかどっと全身に疲労感が襲った。



(……そう、それを機に俺は嘘を吐く人間に嫌悪感を抱くようになってしまった)



 華恋は小学校までは素直で甘えたがりだったのに、中学の頃を境にツンツンした態度で俺に接するようになった。始めは思春期というか、そういうものかと特に気にせずに話し掛けたり一緒に登下校、遊んだりしていた。だがある日の放課後、先生からの頼まれごとを終えて廊下を歩いていた俺が荷物を取りに戻ろうと教室の扉に手を掛けた瞬間、華恋が他の女子らに俺の悪口を言っている声が聞こえたのだ。


 咄嗟に身を潜めて一部始終その会話を聞いていた訳だが、勿論最初は信じられず耳を疑った。嘘であってほしいと思った。そのあと女子らが帰って教室に残っていた華恋と二人きりになったタイミングでその事実を問い質したのだが、華恋は否定しなかった。……悲しかった。


 それからというもの、華恋と中学校で顔を合わせば突っ掛かってくることはあっても一緒に登下校したり遊んだりすることは無くなった。高校入学の際に「い、言っとくけど、高校では私に話し掛けないでよねっ。……ま、まぁ? どうしても話したかったら話を聞いてあげても良いけどっ?」と生意気な表情で華恋がそのように言っていたが、それ以降幼馴染と高校や街中で顔を合わせても俺から声を掛けることはなかった。



「ありがとう正也くん、話してくれて」

「こちらこそ、聞いてくれてありがとう。でもごめん、きっと高槻さんからしてみればしょうもないよな」

「ううん、私がこう言うのはちょっぴり複雑だけど……大切だったからなんだよね? 大切な幼馴染だったからこそ、尚更。いつも自分の近くに居た人からそんな風に言われたらキツいよね……」

「……そうだな」



 静かに返事を返したその言葉は泡沫となって教室に溶けた。ちらりと壁に寄り掛かった高槻さんを見ると、彼女は晴れない表情を浮かべており、艶やかな唇をぎゅっと結んでいる。


 輪郭の整った横顔、そしてやや下の方を向いたその瞳に憂いの感情が込められているのは、きっと俺の気の所為じゃない。普段の明るい彼女がしゅんとしている姿に若干申し訳ないと思う俺だったが、ちょうど視線を前に戻した瞬間、ふと高槻さんは言葉を洩らした。



「でもさ、だとしたら色々と辻褄が合わなくない?」

「昨日の華恋の行動のことか?」

「うん。昨日の教室での一連の出来事って、正也くんのことが嫌いだったらわざわざしようと思わないと思うんだ。私への挑発とか、これ見よがしに腕を組んだりさー?」

「あれって挑発だったのか……」

「気付いてなかったんだ……」

「そういう感情の機微には疎いもんでな」



 あぁ……、と妙に納得したように頷いていることから高槻さんから見てもやはり俺はそのように見えていたのだろう。こちらを見つめるその生温かい目にやや居心地が悪くなるが、そんな空気を払拭するようにして俺は言葉を続ける。



「でも、多分だが華恋は俺のことを心配してくれたんだと思う」

「心配ってなんの……あ、まさか正也くん、私とのこと……?」

「あぁ。その、高槻さんにフラれた帰り道、たまたま華恋と会ってな……。嘘コクされたのも、つい、話したんだ……」

「あちゃー、だからかぁ……。って、私正也くんのことフってないよ!?」

「あの時の俺にはそう聞こえたんだよ」

「うっ、あんな切り出し方した手前何も言えない……」



 「うー、そっかぁ……」「でもでも藤宮さんが話し掛けるきっかけを私が作ったようなものだしぃ……」「あの時強引にでも呼び止めておけばワンチャンあった……?」と色々小さく呟きながら頭を抱えて悶えている高槻さん。どうやら俺たちの出来事を勝手に華恋に話した俺を責めるに責めきれないようで葛藤しているようだった。



「いずれにせよ、正也くんが鈍感である意味助かったかも……」

「急に言葉のナイフ突き付けてくるのやめないか?」

「私にとっては褒め言葉だよ?」

「なんだそれ」

「ふふ、教えてあげませーんっ」



 華恋からはニブチンと罵倒され、高槻さんからは褒め言葉だと言われる。謎々か、もしくは揶揄っているのだろうか。


 ———さて、ともかくこれで俺が嘘に対して嫌悪感を抱くようになった理由は高槻さんに理解して貰えたと思う。次は彼女の番だ。


 やがて俺は再び口を開いた。



















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