第12話 ギャル美少女との待ち合わせ




「………………」



 そして放課後、俺は誰も使っていない空き教室で待ち合わせをしていた。窓からは茜色の日差しが差し込んでおり、外で部活に励む生徒の声が微かに聞こえる。


 かれこれ空き教室に到着してから約三十分が経過している。本来は俺は帰宅部なのでホームルームが終わり次第すぐさま教室を出て帰宅しているのだが、わざわざこの場にいるのはとある少女に用事があったからだ。


 とはいえ彼女と話すのは昨日ぶりである。体育の授業中の智樹との会話で向き合う決心をした俺は、授業後に彼女へメールで連絡を入れた。冷たい態度で突き放してしまった手前、文面を考えるのに手間取ってしまったが程なくして了承した旨が記載された返信が返ってきてほっと一安心。


 そうして無事放課後に会う約束を取り付けたのだった。



(にしても、体育の後教室で話し掛けられなくて良かった。ただでさえ華恋と幼馴染っつーことがバレて結構な視線を感じるのに、彼女との関わりも周囲に知られたらいつか刺されるんじゃないだろうか……?)



 そのように考えていると、空き教室の扉がゆっくりと開かれた。



「ま、正也くん。お待たせっ」

「…………あぁ」



 姿を見せたのは『百年に一度の美少女』と呼ばれているギャル少女、高槻蘭だった。今日も今日とて人気でクラスメイトに囲まれていたのだが、どうやら無事にここまで来れたようだ。


 元々怪しまれない為に彼女には時間をずらしてここに来るように伝えていた。放課後ということもあり、現在では校内に残っている生徒も少ないのできっと目立つ心配もないだろう。


 俺の方へ視線を向ける高槻さんの表情には小さな笑みが浮かんでいる。おそらく俺が体育の授業の時に彼女へ手を振り返したのがきっかけなのだろうが、やはり昨日のことが尾を引いているようだ。あのときは高槻さんと会話した瞬間思わず怒りを感じて冷たくあしらってしまったが、今思えばあからさますぎた。


 おずおずとしている彼女の様子にやや罪悪感と気まずさを感じつつ、俺は口を開いた。



「その、いきなり呼び出してごめん。高槻さん」

「う、ううんっ! 正也くんから連絡貰えて嬉しかったよ。その、今まで連絡しても、返事は返ってこなかったから……」

「……そうだな。悪い」

「ま、正也くんが謝る必要なんてないっ! そ、そりゃあ昨日は敬語で冷たく突き放されたのは悲しかったけれど……。そもそも、私が間違ってたんだし……」



 俺の方を真っ直ぐ見つめていた高槻さんだったが、次第に声を萎ませると顔を下に俯かせた。そんな彼女の落ち込んだ様子を見るに、彼女は彼女でどうやら嘘コクの件に思うところがあるようだった。


 そして案の定、昨日の冷たい態度が彼女の心に突き刺さったらしい。ひどく悲しむ表情を浮かべる彼女に俺は慌てて言葉を紡いだ。



「いや、俺も高槻さんに言いすぎた。昨日は誤解だって高槻さんが必死に弁明しようとしていたのに、俺が意地を張っていた所為でその機会をやや強引に奪ってしまった。だから、その……ごめんなさい」

「こっ、こっちこそ、嘘コクなんて最低なことしてごめんなさい! 罰ゲームとはいえ、正也くんなら正直に話せば最後には許してくれるかもしれないって、私の中で甘く考えてたんだ……。だから、悪いのは全部私なの! 本当にごめんなさい!!」

「いいや、俺の方こそ」

「ううん、私の方が!」



 そう言って互いに何度も謝罪を重ねるが、なんだか必死になっている高槻さんを見ていると笑いが込み上げてきて。そして、どうやらそれは彼女も一緒らしい。


 俺たちは表情を綻ばせながらひとしきり笑った後、彼女は口を開いた。



「あははっ、なんだかおかしい。正也くん必死すぎじゃん」

「それはこっちの台詞だ」

「じゃあ、互いに非があったってことで、ここはどうかな? ほら、喧嘩両成敗ってヤツ?」

「あぁ、わかった。……でも最後のは違うと思うぞ」



 冷静にツッコミを入れると、高槻さんはそうだったかー、と言っておどけるようにして瞳を細めた。その表情は先程までより随分柔らかい。彼女らしいキラキラした笑みを見ることが出来て俺はホッと安堵した。



(よかった……)



 おそらくだが、下手に時間が空いてしまっていたら余計に高槻さんとの関係が気まずくなっていたと思う。智樹からの助言があっても、もし意地を張っていたら過程は異なるとはいえ、そのまま昔の華恋との間柄みたいに幼馴染から無関係の他人のようになっていたかもしれないのだ。


 昨日の今日とはいえ、ずるずると怖気ずいているよりかはだいぶマシである。俺の方から冷たく突き放しておいて呼び出して謝罪するなんて随分と自分勝手で都合の良い話だが、許して貰えて本当に良かった。



「それとありがとう、正也くん」

「ん、何がだ?」

「今日の体育の時、私が手を振ったら振り返してくれたでしょ? すっごく、嬉しかった」

「礼なら智樹に言ってくれ。目を背けていた俺がこうして高槻さんとの話の場を作ろうと思えたのは、あいつが助言してくれたからだ」

「そっか。なら明日学校に来たらすぐ挨拶しなきゃ」



 高槻さんが腕を後ろに組むと身体のライン、特に大きな胸が強調されるが、こちらに視線を向けた彼女はそのままふわりと笑う。


 そんな可愛らしい表情を浮かべた高槻さんを見た俺は思わず口元が緩む。彼女の懐の深さというか、器量の大きさには絶対に敵わないような気がした。



(ありがとう、って言うのは俺の方だよ。高槻さん)



 なんだか気恥ずかしくなって心の中でそっと呟くと、俺は言葉を紡いだ。勿論智樹への感謝も込めて。さて、ここまで来た以上彼女には俺のことを伝えない訳にはいかない。



「それでさ、高槻さん」

「どうしたの?」

「その、高槻さんが嘘コクをした理由とか色々聞きたいことはあるんだが……その前に、俺の話を聞いてくれないか?」

「うん、良いけど話って……?」

「俺が嘘を大嫌いになった理由。……一応、幼馴染の華恋にも関係することだ」

「!」



 高槻さんはやや驚いた表情を浮かべながら一瞬だけぴくりと眉を動かすが、すぐに真剣な眼差しで俺をじっと見つめる。そのままこくん、と頷くとその綺麗な唇を動かして声を上げた。



「正也くん、聞かせて。今までは何か事情があるのかもしれないって思って深くは聞いてこなかったけれど……あの子も関わっているなら話は別。聞かない訳にはいかない」

「……わかった」



 高槻さん的には昨日の放課後教室で華恋と言葉を交わしたので、きっと無視出来ないのだろう。


 やがて、俺は華恋との昔の出来事を話し始めた。




















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