第2話 王城客分、後の大画伯、若きロべールのスケッチブック

 ※推奨 ★★★ミリスお嬢様には逆らえない★★★ 第2話までお読み頂けると幸いです。





 僕は放浪の絵描き、ロベールだ。


 小さい頃から絵を描くのが大好きで、村の教会で描いては神父様に見せていたら、いつの間にか有名になっちゃって、遂にはトリスティアナ王国の王家に招かれ、こうして王城内を自由に歩き回り、様々な風景や人々を描く許可を頂いている。


 王城は田舎の平民出身な僕なんかでは見る事のない、とんでもなく贅を凝らした場所だった。最初はあれもこれも物珍しくて片っ端からスケッチしまくっていたんだけど、最近はどうもスランプなんだ。


 僕はただ美しいものを美しく描くだけに飽きてしまった。


 僕は僕の情熱を掻き立てる何かを見つけ、その内面に宿る美しさを描きたいんだ。それで最近はなんとなくだけど、何も描けなくなっている。


 でも、そんな僕の前に、唐突にそのその人は現れた。


 その瞬間、僕は直感した。これは、この人は、僕が待ち望んだ人だ。


 そう、その人は……。




 変態だった。






 王城内という格式の高い場所で、何故か腰だけを隠す甲冑のみ着け、ほぼ全裸でその筋肉を見せつけ、背中に大剣を背負い、一切躊躇なく堂々と歩を進めている。いや、それは絶対に駄目だろ、なんで誰も注意しないの! これが王都では普通なの? 許されちゃうの?


 だがそんな疑問を浮かべつつも、僕の情熱は一気に昂った!


 僕はこの変態さんを描きたい!!! これだよ、僕が待ち望んでいた物は!!!


 久しぶりに燃え上がった僕の創作への意欲は、吸い寄せられるように、その変態さんに惹きつけられ、思わずこそこそとその後を追う。


 最初に変態さんは、この国でも名を馳せた多くの魔術師が集結した最強の集団、恐ろしき近衛魔術師団の訓練所に入った。一体何をする気なんだ? 変態さんが魔術師だなんて僕にはとても思えない。


 すると、誰がどう見たって他を圧する驚異的な魔力を迸らせる団長さんを見つけると、何か凄く偉そうに怒鳴っている。な、何を始める気なんだ! 


 すると相手も強烈に言い返し始めた。これは大変だ、変態さんと魔術師団の団長さんが、いきなり喧嘩になっちゃった!


 だが、変態さんはいきなり団長さんをぶっとばしてKOした。


 うそぉぉぉぉぉおおおお! なんて事すんのぉぉぉおお! 


 それを見た途端、訓練所の全近衛魔術師団の団員さん達が一気に殺気立ち、その勢いのまま怒り狂いまくり迸る魔力を一斉に爆発させ、不敵な態度の変態さんを襲う。


 うわぁぁぁああああ、僕の描きたい変態さんが死んじゃうぅぅぅうう!


 だが、変態さんは剣すら抜かず、その暴虐無人な拳の圧のみで、なんと迫り来る恐ろし気な全ての魔術を叩き返し、速攻でみんなをKOした。そして団長さんを初め全魔術師を正座させると、「ぐわははは、わかったか!」と何かを納得させていた。


 こ、これは一体どういう事なんだろう? でも、流石は僕が見込んだ変態さんだ。僕の興味は爆上がりしてゆく。


 続いて変態さんは堂々たる歩みで王城を出た。街中でもそのスタイルなんだ。流石は変態さんだ。誰も目を合わせやしない。これはもうある意味圧勝だ。流石だ。


 すると変態さんは、王都でも屈指の巨大な建物で、その威風堂々たる歴史を表す冒険者ギルド本部に入った。


 すると、突然ギルド長を呼べと大声で怒鳴った。ヤバイよ、これはヤバイ! ここは屈強な男達が集う冒険者ギルド、その本部なんだよ!


 その無礼な物言いを聞き、ホールにいた一目でS・A級だと判る強そうな数十人の冒険者達が、変態さんの尊大な態度を咎め、いきなり喧嘩になった。


 だけど、変態さんはここでも圧倒的な強さを発揮し、速攻で全員をワンパンチKOした。つ、強すぎるよ、変態さん! 獰猛だよ、変態さん!


 その騒ぎに慌てて奥から出て来た震えるギルド長が、ギルドの最高戦力がボコられて失神している姿に思わず立ち尽くし茫然としていた。すると変態さんは笑顔を浮かべ彼に何事かを語り、「ぐわははは、頼んだぞ」と又何かを納得させていた。


 謎だ、これはミステリーとしか言えない。僕の勘は正しかった。彼の中に潜む獣のような野生を、その美しき圧倒的な暴力を何が何でも描かねば、僕は絵描きではなくなってしまう。これは天啓だ。そう僕は強く確信した!


 さらに変態さんは怪しげな貧民街に乗り込んだ。もう僕には彼が何を考えているのかまるで予想がつかない。ただひとつ言える事は、こんな物騒な場所で普通に終わるわけがないと言う事だ。


 すると、今度は「バッカス傭兵派遣」というもうヤバさが駄々洩れで、どうみたって堅気の人間がいるわけのない恐ろしい建物に入って行った。


 もう僕は怖くて近寄れない。無理だ、命が幾つあっても足りない。そうして道端で見守るしか僕に出来る事はなかった。


 暫くすると、なんと建物から派手な爆発音が幾つも響き始めて、唐突に窓枠が割れると、何人もの屈強そうな男の人達が次々に路地にほおり出され、ゴミ屑みたいに転がってゆく。


 ノォォォォォォォォオオオオ、何やってんですかぁぁぁぁぁああああ!


 気が付けば数十人と言わない筋肉ムキムキな軍人っぽい人達が道端で山となり、そんな凄惨な暴力が落ち着いた後、ヤクザな顔つきのおじさんが建物出口まで変態さんを見送り、「ぐわははは、宜しくな」という掛け声にペコペコ頭を下げていた。


 この人は生きた暴力だ、生まれながらのバイオレンスだ、なんて凄いんだ! 


 やはり僕の描きたいものはこれだ! 気が付けば、僕の芸術家魂が炸裂していて、今日一日だけで数十枚ものスケッチを描きまくっていた。


 その後、僕はこの変態さんが王国騎士団団長・紅蓮のリグネット様で、旧エレメント帝国をこっそり攻め落とす為に人を集めていたのを知った。偉い人だったんだ、エライ変態だけど……。でも流石、僕の見込んだ変態だ!


 そして、後に変態団長さんの大活躍を描いたスケッチブックを、僕のアトリエで英傑と最近評判の高い第二王子様がたまたま発見した。彼は目の色を変え、珍しく焦りまくり、「絶対に世の中に出しちゃ駄目! こんな暴力描写、我が国の恥になるから!」ときつく注意されてしまった。


 僕は思った。


 芸術は理解されない。だが、権力に屈しては芸術家の表現の自由が守られない。だから、僕は大作かつ連作である「紅蓮のリグネット」を、王国に黙ってこっそり描き始めたのは内緒の話だ。


 変態は芸術だぁぁぁあああ!!!!!












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