★★★教えて、ミリスお嬢様!★★★

福山典雅

第1話 「教えて、マリアさん!」ビスタグス家メイド、ルビーの日記

 ※推奨 ★★★ミリスお嬢様には逆らえない★★★ 第4話までお読み頂けると幸いです。




「皆さん、しっかり道順を覚えて下さい」


 お嬢様付という我がビスタグス家でも最高峰の地位にいらっしゃるメイド長のマリアさんが、今日は美容コスメのお店を案内してくれてます。


 お屋敷には様々な専門業者が出入りしているけど、私達メイドが個人で使う品は個別購入です。ただし、名家ビスタグス家に相応しいメイドとして美しさに妥協は許されず、マリアさんお勧めのコスメ店を今日は新人メイドに紹介してくれる。


 私は田舎の男爵家、そこの三女ルビー。現在、新人メイドとして名家ビスタグス家で奮闘中だ。そして、マリアさんはそんな私の憧れ、はぁ〜、美しくて、素敵で、仕事も完璧、まさにメイドの鏡だ、一生ついてきます。


 そんなマリアさんの麗しい後ろ姿に見とれつつ、王都の街並みを進み、お勧めである美容コスメ店についた。


 そこはシックな外観でこじんまりとしているけど、落ち着いた家庭的な雰囲気を持ち、美容関係の品揃えはとても豊富だった。


 しかも安い! 品質は高そうなのに安い! これは新人メイドとしてはとても有難い。決してお給料は低くいわけじゃないけど、節約は大事だ。貧乏性な私は節約と貯金が大好きだ。穴場ですよ、ここは!


 でも流石はマリアさん、王都に美容コスメの店は数あれど、こんな良心的なお店を知っているなんて改めて尊敬します。やっぱり私の中でヨメにしたいNO1です。はあ~、す・て・き。


「いらっしゃいま、あら?」


 早速私達が品々を吟味しょうと手に取り始めた時、店員さんから声がかかった。ただし…。


「誰かと思えば、ど平民のマリアさんじゃありませんこと。この店に何しにいらしたのかしら?」


 嫌味ったらしく接客(?)して来るのは、以前ビスタグス家に勤めていて、私と同じく下級メイドで子爵家二女、超意地の悪いポーラだった。以前、マリアさんから指導を受けて逃げ出す様に辞めた子だ。


「うちの店は小さいですけれど、わたくしと同じく貴族も買い物に来る優良店ですの。そこにマリアさんみたいなど平民の方がいらっしゃると、わたくし困りますわ、もうこれは営業妨害ですわ。早くお帰りなってもらえないかしら?」


 あちゃあ~、嫌味たっぷりてんこ盛りだわ。ポーラは選民意識が強くて気位が高い上に性格も悪い、そんな三重苦の超意地悪だ。でも、以前で懲りてると思うのに、何故こんなに強気なんだろう? 馬鹿なの?


 するとポーラは大袈裟に店の奥に視線を向けた。


「今日は衛兵の皆様が奥様へのプレゼントを買いにいらっしゃってますの。いつぞやみたいに、わたくしに手を、いえ、足をお出しになりません事よ。ここはビスタグス家ではないのですから、ど平民さん、ほほほほほ」


 あからさまに勝ち誇って笑うポーラ。


 確かに店内には強面で屈強そうな王国衛兵さんの皆様が5人いて、他の店員さんの接客を受けてる。流石にマリアさんもこんな状況で手を、いえ足を出してしまったらすぐに捕縛されちゃう。そんな事になったら名誉あるビスタグス家の家名に泥を塗る事になってしまうわ。ここは我慢しかないですよ、マリアさん!


「さあ、わかったらど平民のメイド風情は、さっさと出て行って下さいな。他のお客様の迷惑になりますわ! 同じ空気をこれ以上吸わせないで下さいまし!」


 気位の高いポーラが、得意げな顔で嫌味たっぷりにマリアさんを罵倒する。なんて性格が悪くて超意地悪なの。でも、ポーラはもう部下でもなんでもないし、一般人だし、手を、いえ足を出したら暴行の現行犯になるし、ううっ、私はどうしたらいいの!


 すると、マリアさんはにっこり笑ってポーラに近づいた。


 ドン!


 その瞬間、空気が破裂する様な凄まじい爆発音が店内に轟いた。


 そしてポーラの顔の真正面にマリアさんの美しい足が伸びている。驚いたポーラは真っ青な顔でへなへなと腰が抜けて、そのまま座り込んでしまった。そしてマリアさんは笑顔のまま声をかけた。


「いま、何か言いましたか?」


 怯えるポーラはそれでも引きつりつつ、声を絞り出した。


「わ、わ、わたくしは……」


 ドン!


 再び爆発する様な蹴りが、空気を乱暴に切り裂いた。


 ドン! ドン! ドン!


 ポーラは既に何も言ってないけど、いえ、むしろ死にそうな顔で涙と鼻水を流して、泡を吹きかけているけど。


 ドン! ドン! ドン!


 容赦ない蹴りが、ポーラの顔のすぐ手前をひたすらかすめ続けた。


 ドン! ドン! ドン!


 なんだか以前に一度見たけど、ポーラの顔がぐしゃぐしゃを通り越して、死すら予感出来る、というか死んでるかも! 


 ドン! ドン! ドン!


 はっ、そうだわ! 駄目です、マリアさん! ポーラはもう一般の方です! このままだと、衛兵さん達に捕縛されしまいます! 


 ドン! ドン! ドン!


 私は急いで奥にいる衛兵さん達を見た。すると何故か全員こちらに背を向け、少し震えながら全力で知らないフリをしている! えっ? なんでぇぇぇぇぇ!


 ドン! ドン! ドン!


 驚いた私がさらに店内を見渡すと、お店の全従業員の皆さんも、こちらに背を向けてそそくさとお掃除なんかしている! うそぉぉぉぉぉぉ!


 ドン! ドン! ドン!


 駄目だ、もう止まらない。最早、私達新人メイド全員は、以前と同じく凄まじい爆風にただ髪を揺らし続けるだけの存在と化した。


 そして50発程蹴りが放たれた後、マリアさんが言った。


「違う店員の方を呼んで下さい」


 数日後その店に行くと、超意地の悪いポーラはいなくなっていた。


 もう、マリアさんパネェ! 一生ついて行きますです、はい!




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