第4話 慟哭のロミナイール③

「うそぉぉ! こんなデタラメな威力なの? これじゃ王都に被害が出ちゃう。ローラどうしよう········」


「ライフルの威力を調節するから待ってちょうだい」


 空を真っ二つに割る桁違いの一撃、それを放った一機の機動兵器の登場に戦場が凍り付いた。


 驚愕の光景を見て驚いたのは帝国軍の将校も同様だった。

 空中戦艦にてキャピュレット王都制圧を指揮するアルツバウマー将軍もまた、スクリーンに映し出された謎の機体を見ていた。


「何だアレは? あの銀色の機体は何だ?」


「unknown機体照合········ありません。王国軍の新鋭機だと思われます」


「まさか、あれが精霊機だとでもいうのか。ダーヴィルめ、失敗しおったな。目標をunknown機へ変更! こちらも装甲騎士を出せ!」


「はっ! 装甲騎士、ファランクス発進準備開始します」


 アルツバウマー将軍に与えられた任務は、キャピュレット王都及び王城の制圧、そして王国に眠るとされる伝説の精霊機の奪取だった。

 武力による惑星の統一を狙う帝国は軍備拡張のために精霊機の量産を狙っていた。  

 だが、ロストテクノロジーである精霊機の数は少なく謎に包まれており、計画は難航していた。

 そこで目を付けたのがキャピュレット王都に眠るとされる伝説の精霊機だったのである。サンプルは多い方が良い。それが精霊王機なら尚更である。

 策謀を張り巡らせ、王族の婚約と偽り、王都へ奇襲を仕掛けた帝国軍の作戦は成功したかに思えた。―が、真の目的である精霊機の奪取には失敗。

 いや、まだ失敗したわけではない。鹵獲すればいいだけのこと。―と、アルツバウマー将軍はこの時までそう思っていた。



 その頃、フレイヤは帝国軍の機動兵器に囲まれていた。

 王都上空で高威力のフォトンライフルを使う訳にもいかず、高機動を活かした格闘戦を繰り広げていた。

 空を縦横無尽に飛び回り、前脚で空中戦車を叩き落としていた。

 

 戦艦や敵機からの砲撃を掻いくぐり、鋼鉄の猫パンチを敵空中戦車にお見舞いしていくフレイヤ。

 だが、いかんせん物量差が全然ちがう。そこにさらに敵軍の装甲騎士、人型機動兵器が迫っていた。


「何か、ごついの出てきたんだけど········ローラ、味方の撤退状況はどう?」


「もうちょっと時間がかかりそう」


 槍を構えた騎士がフレイヤに襲い掛かる。

 騎士といっても人の10倍はあろうかと思われる鋼鉄の巨人だった。

 ロストテクノロジーである精霊機を参考に現代の技術で作り上げた人型機動兵器、それが装甲騎士であり多彩な武器を使いこなす汎用性、強力な装甲で従来の兵器を凌駕する性能を誇っている。


 槍の一突きを躱し猫パンチを放つが厚い装甲に阻まれ撃破には至らなかった。

 ならばと、追撃しようとするフレイヤに銃弾が浴びせられる。

 即座に回避行動を取るフレイヤに装甲騎士が 3体迫りくる。


 フレイヤは装甲騎士を蹴り飛ばし、次の獲物を狙うように空中を跳ね回る。

 そして、高エネルギーを収束させた爪が装甲騎士の重装甲を貫く。


「ロミナ、友軍機の離脱が完了したわ。私たちも離脱しましょう」


「囮になった甲斐があったね」


 ロミナイールの駆るフレイヤが戦場で暴れていたのには訳があった。

 王城は陥落、防衛施設は根こそぎ壊滅しており重要拠点もほぼ制圧された状況下、王都の危機に駆けつけた友軍機もことごとく敗北している。

 帝国軍は空中戦艦 3隻を使って王都の真上に鎮座しており、フレイヤの火力をもってすれば戦艦ぐらい簡単に撃沈できるのだが、それを実行できない訳があった。

 巨大な戦艦の撃沈=鋼鉄の塊が王都に墜落するということになる。王都には何万もの民間人を含む王国民が住んでおり、帝国軍を撃退するとはいえ犠牲にする訳にはいかなかった。


 フレイヤで王城より脱出できたとはいえ、戦いは初めてであり、機動兵器に乗ったこともないお姫様にできることは限られている。

 父である国王や家臣たちの安否も気になるが、いたずらに戦火を広げても良いことは何もない。それよりも生き残った残存軍をまとめ反撃のときを待つべきである。

 

 本心では王城に戻りたい、今すぐにでも父の元に駆けつけたい。だが、ロミナイールは一国の王女であった。一時の感情に身を任せるほど子供でもなかった。

 それらを理解したうえでロザラインは友軍と連絡を取った。


 王都は陥落したとはいえ、キャピュレット王国にはまだ戦力が残されている。

 国と国民を守るため、王都を奪還するため戦力が必要である。

 王都防衛軍は壊滅、頼みの綱は地方の基地戦力となる。残存軍の撤退を助け、近隣の友軍と合流するために派手に暴れていたのだ。


 友軍の撤退が始まった今、残るは殿となったフレイヤのみ。


「ローラ、ライフル使うよ!」


「リミッター解除、ロミナくれぐれも戦艦に当てないでね」


「それぐらい、わかってるわよ!」


 飛行するフレイヤは獣型から人型へと変形、反転してライフルを構えた。

 ライフルの銃口が再び火を噴いた。

 紫電の閃光は射線上の敵機を巻き込み、空中戦艦のすぐ脇をそれていく。

 光芒一閃まさに戦場を一変させる一撃だった。


 圧倒的火力を前に帝国軍の兵士は怯え怖気づいてしまった。

 もはや勝敗が決した戦場、帝国軍の兵士も自分の命が惜しくなってしまうのも無理はない。それがたとえ一瞬でもそう思わせることがロミナイールの狙いだった。


 追撃の手が一瞬止んだその隙にフレイヤは再び獣型へと戻り、戦場より離脱した。

 

「この先はフレゼリアシティよね。そこに行くの?」


「フレゼリアシティ、その先に我が国のユヴァンス基地があるわ。そこに残存軍が終結しているわ。私たちもそこに向かいましょう」


「わかったわ········お父様、ごめんなさい········いつか必ず········」


 思いを胸に飛ぶフレイヤ。

 緑あふれる山々を越えると海辺にある基地が見えてくる。


 ユヴァンス基地、キャピュレット王国の東側に位置する空軍、海軍の一大拠点とされる軍事基地である。


 航空管制官の指示に従い格納庫の一角に着陸する。

 コックピットハッチが開きロミナイール王女がその姿を現すと、人々は歓喜した。

 王都上空で共に戦った兵士はもちろん、ユヴァンス基地の将校、整備班までもが伝説の精霊機とそれを操るふたりの乙女を一目見ようと詰め掛けた。


 軍事基地には似つかわしくないドレス姿で大地に降り立つロミナイール。

 人々の異様な歓迎を受け戸惑うふたり。

 だが、そこは一国の王女と公爵令嬢である。気持ちを切り替えるように基地司令に声をかける。


「戦況はどうなっていますか」


 強い意思のこもった王女の言葉にユヴァンス基地の司令官であるルーシャス大佐は驚嘆した。美しい容姿とは裏腹に国を守ろうとする確固たる意思を持つロミナイール王女の姿がそこにあったのだ。

 彼の持つ王女のイメージは心優しい清廉潔白であった。しかし、目の前の王女は気高い雰囲気はそのままに強い覇気を感じさせる存在であった。


「王都に侵攻した帝国軍は王都を制圧、同時に国境防衛線を破り侵攻しております。すでに国境沿いの都市は陥落、いずれはここ、ユヴァンス基地にまで迫ってくる勢いです。れっきとした侵略行為に周辺国家も黙ってはいないでしょうし、他の基地とも連携して無体な侵略者を追い返す算段をつける所存であります」


「事態は思わしくないようね」


「はっ、しかし大儀は我らにあります。戦いは我らにお任せください」


「大儀など戦況が変わるものではありません。おそらくは念入りに計画された侵攻作戦、裏切者もいたようですし、この基地は大丈夫ですか?」


「それは········」


 言葉を濁した基地司令を見て、あまり楽観はできないと悟ったロミナイール。

 ならば安否不明の国王に代わり、皆の象徴たる御旗になり、祖国を救おうと決意を新たにするロミナイールであった。

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