訪ねてきた者

神社から帰宅した私は、狭いワンルームでしゃがみこんだ。

人の死を願うのは大して疲れないが、何か失ってしまったようだ。


黄と茶のヘリンボーン柄のカーペットをただ眺めていた。

その柄が見えなくなるほど暗くなって、やっと私は立ち上がった。


ご飯を食べる気にはならない。

シャワーで軽く済ませてしまおう。


どれだけ人を呪っても、明日は働かなければいけない。


ざっと髪を乾かして、すぐに布団へ潜り込んだ。

長距離を移動した身体はゆっくりと沈みこんでいく。



ドアが開いた。

鍵を閉めたはずの玄関のドア。


ペタペタと裸足の足音が聞こえる。

小さな足がカーペットを踏みつけた。


この部屋は狭い。

すぐそこに何かがいる。


それはしゃがみこんで、私の顔を覗き込んでいた。

寝たふりをしようと決めたものの、呼吸は乱れていた。


それがそっと、私の頭頂部に触れた。

思わず首をすくめる。


次の瞬間だった。

それが後ろへ飛びのいた。


そして走り出した。

部屋の真ん中に置いたテーブルの周りを、わざと大きな音を立てながら走り回った。

勢いあまって壁にぶつかったこともあった。


変わらず私は寝たふりを決め込んだ。

それは止まると少し泣いて、ティッシュで鼻をかんだようだ。


呆然自失といったところか。

座り込んだまま、動かなくなってしまった。


長いときを、それの鼻をすする音を聞いて過ごした。


それはふと立ち上がると、もう一度私の顔を覗き込んだ。

不自然に息を止めているようだった。


目をつむっていても、その爛々とした黒い瞳が見える。


気配が消えたとき、朝のアラームが鳴り響いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る