5話 魔王の交渉

「最古の魔王!!!」


 最破全員が身構え、ジュウロウが一蹴りで全員の前に出て鞘に手をかける。

 序列三位とされているが、世界大戦時にジュウロウがレジナインをワーレストがレミナスを相手に交戦した経験があるため、彼女の危険度は知っている。

 三千年前のジュウロウ剣技を用いて互角に渡り合う立ち回りから純粋な火力にはジュウロウに劣るが、頭が本当に切れる奴だ。


「まあまあ、私には敵意がないというのに焦るな。少し、頭の良い君らなら私が来訪した理由は分かるだろ?」


「……分からないな。遊び半分でここに姿を現したのなら、間違いだな――」


 一瞬で間合いを詰め、抜刀する。音速の域に届くであろう速さで刀をその細い首、目掛けて振るう。

 ジュウロウの狙いは必中だ。


 ガンッ!!!

 半透明の顕現とともに衝撃音が空間に響く。

 自動防御システムなのか、予備動作なく障壁が顕現した。ジュウロウの魔力感知はワーレストより低いが感覚だけで魔力の有無を察知している。

 急な魔力反応からして事前に展開されていたわけではないことからレジナインの技術力を再確認する。

 ジュウロウが持つ固有の力である【無】の魔力で構築された障壁などすぐにでも無に帰すことが出来るだろうが、消えない。


「チッ――」


 その障壁は何十、何百の数が重ねてあった。

 それをすぐさま理解し、舌打ちして一旦、後方に下がる。


「まあ、聞いてくれ。二代目破壊神レオン・レギレスについてだ」


 その言葉に全員が反応する。世界大戦時の終盤、破壊神軍は神々を退けて魔王軍と全面対決となった。

 その結果は引き分けのようなものだった。

 その後、三代目破壊神レシア・レギレスと二代目破壊神レオン・レギレスの最終決戦となったが、レシアの敗北で大戦は終結した。


 最破達と魔王等は一部始終を見ていた。

 レシアが死ぬ光景を……その死因を……。


 それは異界から空間を裂き、それは現れた。

 少女の形をした白い何か、その一撃によって二人の戦いは崩壊し、同時にレシアが死亡する原因となった。

 あの時、最破と魔王側の誰もが啞然とした。嘘だと思ったが、それは本当だった。

 あの時、それを見た者が外の世界を自覚した。

 自分だけじゃないと思ったとしても、その技術を手にするには世界の文明レベルが高くなければ、空想となるだけだ。


「分かっているだろう?」


 この空間に存在する全員に語り掛けている。最破でも緊張が走る存在、最古の魔王の一人、世界最強の一角に数えられている。

 その外見は一度、目にすれば、忘れることのないものだろう。


「私の研究でも世界の壁、次元を観測できたが、穴を空けることは出来ていない……改めて説明するが、あの時、私も目にした。破壊神同士の戦い、戦力差はレシア・レギレスに傾いていたが、次元から現れた存在の横槍によって死亡した――」


「現在、我々の軍勢に似せた軍が世界各地に出現している。明らかに世界大戦より戦力は上がっている。レオンに協力者が存在し、世界大戦より戦力は上がっていることは確定の域だ。次元を渡れる力を持っているなら、言い訳じゃないが世界の壁に穴を空けられない理由も協力者の原因かもしれない。私の目的は興味本位、だが……悪寒がしてな。私の意見としては目的が破壊神でも見逃すことはできない」


「なるほどな。だが、最古の魔王が協力なんてできるのか?」


「その意見は分かる。事実、身内でも意見合わせも時間がかかるからな。原因としてエマ、レミナス、リビルの三人だが……それは置いといて、この話、最初は私の独断だったが、エマに話したら、三千年間の停滞していたあの子が久しぶりに笑顔で言っていたんだ――」


 レジナインは自分も嬉しそうに笑う。

 純粋な感情が漏れ出して、逆にジュウロウは気味悪がっている。


「面白いって……だから協力関係を結ぶ前にお互い納得する必要がある。その方法として私を除く四人の魔王を打倒する。お互い協力関係に値する強さに納得すれば、協力関係として成立するだろう。勇者という予想外はあったが、理由付けとしてもレイム・レギレスの目的も叶う。そしてこれから自分の身に降りかかることに戦うこともできる。さぁ、決断してくれ」


 協力関係の理由からして全うではないが、天才と言われているレジナインが持ち出した意見に不安要素はない。

 ジュウロウは刃を納めてレイムに問い掛けようとしたが、先にレイムが話し出した。


「ふぅん……面白そうだから受ける」


 そうレイムは軽っと述べた。


「では、詳しく説明をしよう。打倒の順番は序列の下からだ。その方が不自然じゃないし、やりやすいだろう」


 レイムは納得し、レジナインが説明をし始めるが、最破は納得できていない。レイムが承諾した協力関係の提案を否定しているわけではなく、協力関係を築く過程、最中が不安要素なのだ。


 だが提案している人物が天才であり、無駄なことは絶対にしない性格なため、この提案が嘘だという可能性は低いが、同時に何かを策略なら油断できないのだ。

 玉座の間の空気は不安な暗いものとなっていることに気付き、話しを続ける。


「不安要素を無くすために、相手となるあの子達にも計画の事は話している。だからこその納得の方法だ。お互い本気でやるように……では早速、第五位と第四位の二人を相手にしてほしい。日程は明日、何か異論は?」


 最破達はまた顔を見合わせる。


「二人なら戦力は二分が適切ね」


「あぁ、それに目的を考慮してレイム様、そして勇者を前に出して二人のどちらかに向かわせる」


「“滅空の魔王”は飛行が可能だからレイム様にして、“繁栄の魔王”はあの子達に任せれば? 私達は様子を見て加勢するって」


 レインが作戦を整える。


「ビー、レイム様についてくれ。ワーレストは指揮官でいつもの通りに……」


 話しは決まった。


「じゃあ明日、日が昇った時間に――」


 そう言うと転移魔法が発動した。

彼女が行使する力は機人種のワーレストのような機械を介した使い方をしている。二つの違いとしては術者の魔力反応がないのがレジナインであり、道具を介して自身の魔力を使わず、魔法を発動しているように見える。


 流石、魔王のレベルであり、その技術力は機人種に匹敵する脅威だ。

 足下に白色の魔法陣が展開され、瞬く間にレジナインの姿は消えた。


 その時、最破の半分がため息をついた。


「急な提案だったな……魔王から接触してくるなんて」


 脱力したレイムが言葉を溢す。

 レジナインが現れた緊張感は若干でも感じていたらしく、身体を解している。


「色々ありましたね。で、どうしましょうか?」


「一応、新しい仲間が出来たことだし、何かやろうよ!」


「何か、親睦会ですか?」


 ワーレストがレイムの言いたい方向にある言葉を挙げる。


「そう、お腹空いたし、ってかもうお昼……」


「す、過ぎていますね……戦いの後ですから」


「すぐにご用意いたします!!」


 使用人筆頭であるリツリ・リファーストがお議事をして出入り口へと走る。


「パーティにしたいな!!」


「は、直ちに!!」


「なら、久しぶりに私も料理しようかな?」


「じゃあ、私も!!」


「なら、私もしましょう。パーティなら量が多い方がいいです」


 急な申し出であろうと瞬時に対応してリツリ、レイン、ベルーナ、ワーレストが次々と玉座を後にした。


「じゃあ、俺とビーは机を準備しよう」


「あー、了解だ!」


「じゃあ私達は~」


 吸血鬼三姉妹の長女、シール・レペレストは何も役割がないと思い、声を上げるが


「お前達もだ、来い!!」


 投げやりにジュウロウはそう指示した。女性陣は張り切り、男二人はどこか逃げ出すように三姉妹は引っ張られて玉座から退出した。


 人が少なくなった。

 そのことを自覚すると空間が開く感じ、近くにいる存在に敏感になる。

 なぜ、だろう……なぜ、だろう。


「ソージ・レスティアル。改めてよ、よろしく!!」


 軽く玉座から立ち上がり、五段の階段を一歩一歩下がる。

 

 今更だが、緊張が走る。

 それはレイムにとって普通の事ではなく、でも原因がわからないが、気になってしまうのだ。話したいという気持ちを胸にレイムは手を伸ばす。


「はい、レイム・レギレス様……貴方様の配下として恥のないような働きを約束します」


 その手を握り、ソージは跪いた。

 それはおとぎ話に出てくるお姫様と王子様のようだった。


 そしてこの瞬間、二人は運命を感じた。

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