4話 少女の決断

「改めて、私の領域にようこそ」


 戦闘は終わったが、念のため警戒態勢を維持してレイムと最破達は城内へと戻り、玉座の間に移動した。


「はい、お初にお目にかかります。破壊神レイム・レギレス様、勇者ソージ・レスティアルです」


「同じく勇者、ソピア・レスティアルです」


「同じく勇者にして弓の名家の娘、サリア・レヴォルアントです」


 それぞれ三人は跪き、頭を下げる。

 何で、最破達が彼らを警戒しているのか、その理由は一言で表すなら、三千年前に勃発した世界大戦の敵対した領域出身だからだ。

 更に人間の中で唯一、世界に知れ渡っているであろう勇者が来訪者だ。


「手紙の内容はこちらに勇者達を送るから仲良くして、と……宛名は四代目光神ラエル・レギレスと炎神レイス・レギレスの名前がありました。理由を尋ねることはできないですし、少し私情を含めるなら、無理やり押し付けられて迷惑ですね」


 最破達は人間の勇者と評される三人組を物珍しそうに見ている。魔王が暴れ回った時に退けたことなど最破達は認知している。

 神同士の誤解はなくなったようだが、種族間に関しては今でも敵対している。

 人間の代表となる存在が、破壊の領域レイズレイドに訪れたことが知られれば、神を信仰している種族は黙っていないだろう。

 各領域の頂点は王家のレギレスの神々が管理しているが、種族が独断で動かすことも可能であり、最悪の場合は種族が独断で戦力を動かすだろう。


「お前達の神は何と言ったんだ?」


「ただ助けてやれ、ということです」


「意味が分からないな。こっちは戦力として足りている」


「まぁ、分からなくはないです。私達、機人種は種族の情報に関して完璧に近いものを有していますから、彼らの立場からして光神、ラエル・レギレスは選択をしたのでしょうね」


 そのワ―レストの言葉にソージは反応する。


「はい、その通りです。俺達は人間達に迫害されています。その理由はこの力、地位によって……」


「勇者を調べましたが、事実です。彼らは人間でありますが、同族としてズレている。勇者の家系は光属性にスバ抜けた適正を持ち、人間を逸脱した力を振るう。長話はレイム様に失礼ですので、有り体に言うなら、レイム様と境遇は似ていますね。それが理由かと思いますが、レイム様、どういたしますか?」


 結局はレイムの選択が必要だ。


「ん~……」


 レイムは右側の肘掛けに腕を置き、頬杖して考えているが、その目はソージに向けられる。

 子供の判断は自分と周囲が含まれているわけではなく、自分だけが判断の方針となるだろう。


「勇者って魔王を倒すの?」


「え、はい。そうです」


「それ私もやりたい。ソージの手助けをしたい。この力を良いことに使えば、私の立場もマシになると思うの」


 レイムの言葉に全員が震える。


「レイム様、理由を聞かせてくれますか?」


 ジュウロウの言葉にすぐに答える。


「私の毎日は暇で、この力は身を護るために力をつけている。でも、ここのみんな以外はこの力を怖がっている。そんなのいい気分にはならない」


 その思いにワーレストが答える。


「暇な生活はレイム様にとって大事なことです。三千年前の大戦で破壊神の印象は地の底へと落ち、はっきりと申し上げるとこの生活の場はレイム様を守るためのものです!!」


「……」


「外に出て、破壊神の存在が他の領域で確認されれば、神は踏みとどまるでしょうが、種族は違います。連合軍を組織して乗り込み、またしても戦いになる可能性だってあります!!」


「……」


 少女は俯いていたが、口を開く。


「そんなの……分かってるよ」


 それは怒りではなく、既に認めている悲しい感情が流れる。


「私が嫌われていることなんて……外に出たいって言ってもダメだし、何より歴史を知って、分かっているよ。でもこのままじゃダメなことなんて、みんなだってわかっているでしょ!!」


 レイムは玉座の上に立って、最破達を見る。


「私の事を心配してくれているのは分かっているけど、このままここで時間が過ぎていくことなんて私は耐えらない。このままなんて嫌だ……このままじゃ、自分が裏切の神だって認めているみたいじゃん。私にはわかるよ……二代目は生きているんでしょ」


「レイム様……」


 彼女の主張は何も分かっていない。

 それに二代目の生死に関してレイムには伝えていないのに言い立ててしまったことに普通は驚くだろうが、そんなことは吹っ飛んでいた。


 なんせレイムが本気で落ち込んでいるのだから、今まで溜まっていたことを吐き出している姿は、本当に可哀そうなのだ。


「しかし……」


 でも、決断し兼ねる。

 また世界大戦でも、種族からか、それとも二代目からか……危険はゼロではない。種族の連合軍は対処できるが、また不可解な出来事が起きて世界大戦の荷の前になる。


「それを怖がっていたら、何もできないよ――」


 その言葉は鋭く、悩んでいる心を貫く。

 レイムは子供であったが、その考えはどこまでも真っ直ぐであった。行動的であるが、悪く言うなら、後先のことを考えていないようにも見えるが、レイムはしっかりとした理由を持っている。


「賛成はしてくれないの?」


 最破の全員がお互いの顔を見合わせる。

 当然、葛藤しているが……。


「了解しました。最破一同、世界の果てまでレイム様について行きます!!」


 葛藤を覆すほどのレイムの主張で彼、彼女らの心は決まった。


「勇者達には第十、十一、十二の席を仮で与えます。その後の評価は魔王退治で認めるか否かを決めます。俺を失望させるなよ……」


「ちょっと、もっと優しくして!!」


「レイム様の訓練と同じです。区別なんてしていません」


 ひとまずレイムの目的である『自分の力を良いことに使い』ことは魔王退治に決まった。


 だが、次の瞬間、誰も予想しないことが起きた。


「――それについて、少し提案があります」


 その透き通る女性の声に誰もが驚いた。

 玉座の間の大きな扉の前、既にこの場に侵入している存在から異様な感じが伝わってくる。

 白い長髪、女性としては完璧な体型、美貌のある女。

 最古の魔王の中で天才と評される第三位の人物。


「最古の魔王、第三位“知識の魔王”レジナイン・オーディン――」

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