6話 神と勇者と零れたもの

「ラエル様以外の神様を初めて見ました!!」


「ありがとう」


 妹のソピア・レスティアルは活発な性格のようだ。


「でも、私は破壊神だよ? 自分でもわかっているけど、嫌われている存在なのに……どうして、ラエルさんに言われたから?」


 仮に人間が神の命令で破壊神の元へ行けと言われたら、どうなるのか。

 二代目破壊神レオン・レギレスの裏切りによって同罪とされた実の娘である三代目破壊神レシア・レギレスに現在はその認識が刻まれてしまっている。


 文句の一つはあるだろう、とレイムはソージ、ソピア、サリアに問い掛けた。


「そうですね。あの話を聞く前までは俺達は一般的な裏切り者の神、という認識でしたが、俺達が剣術、レスティアル流剣技を習得する前に両親、正確には親父からある話を聞かされました」


 ソージとソピアの父でありグアエード・レスティアルとサリアの父であるトム・レヴォルアントから聞いた話は自分達の英雄譚であった。

 二人の現在は勇者の肩書を継承して剣聖と弓聖の肩書をもらって光神の近衛騎士団に所属している。


 彼らの二人、そして黒き神と悪魔の二人を合わせた四人で大魔王と対峙して退けた話だ。

 勇者――それは希望の光にして人間から生まれた存在であり、役目である。レスティアルの家系に生まれた者は皆、高い光属性の適正を持ち、光の速さを主流とするレスティアル剣技をまずは習得する。

 難関であることは言わなくても知れ渡っており、ジュウロウでも知っている。

 明確な型は書物に書かれているため、それに習うだけだが、十番まである型の内、一番から順番に習得していき、六番目が精々な所であり、全てを習得しなくても六番目まで習得した者は天才と呼ばれるほどにレベルが高いのだ。


「話を戻します。親父たちはいつもの特訓をした後、突然、夕暮れの時に天から青年が落ちてきた話をし始めました」


 その者は人間の姿をしていたが、人間ではなかった。

 彼らは辺境の家に招き入れた。

 黒髪、黒目の青年は四代目破壊神アレン・レギレスと名乗った。


「四代目……」


 初耳だったがレイムはあまり驚いていない。

 代々、勇者の家系として名家であったと同時に古くから人間を凌駕した力、才能に恐れる者も少なくはなく、豪華な屋敷はあるが、迫害の精神的苦痛をさせないために辺境に領地を設けて、子供たちを住まわせていた。


 自分の片割れ、その罪を背負い、償っていく。そう、アレン・レギレスは自分の気持ちを告げた。

 この力を悪事にではなく、善意に、とその動機はレイムと一致していた。

 英雄譚の醍醐味である英雄的話の序章、詳しく話すと長くなると考えてソージは詳細を省略する。

 一年も経って、三人は仲良くなり、勇者としての役目である魔王討伐の旅に出た。最終的に勇者の進行を耳にした大魔王と対峙して打倒した。


「アレン様の説明で破壊神の印象が変わり、親父たちは仲間として魔王退治もした。恐らくそれを知ったラエル様や親父たちは同じ経験をさせようして、俺達にそう命令した」


 別に何も心当たりがないわけではなく、ただ理由を述べることなくそう命令されてしまった。

 多くは語らないのがラエルや両親の教育方針なのか分からないが意外にも共通点はあった。


「そう、四代目か……」


 レイムは少し考えていた。

 神から破壊神が生まれたのは世界大戦以降、レイムが初めてだと認識していたが、四代目破壊神という人物が存在しているのは曖昧であるが、微かに認知はしている。

 同じ属性を魔力で感知しているようだが、それが深層意識に浸かっている状況で分かりづらいことこの上ないが、生きている。


 悪い奴じゃないだろうが、何か知っているはずだ。


「レイム様?」


「意外にも一緒なところが多いね」


「そうですね。喜んでいいのか微妙ですが」


「あはは、そうだよね。同族から嫌われていることなんて自慢にならないよね。ママとパパと離れ離れって普通、じゃないよね……」


 本音が零れる。


「俺達も似たようなものです。親父、接している時間なんてこの十六年でも半分以下なのは確か、ですし……」


「ん……おやじって、パパは話しているけど、ママはいないの?」


「あ……気づきましたか。自分達の母親はソピアを産んだ時に死んでしまいました。二年くらいは接したはずですが、記憶なんてありません。親父からは静かな人、周囲の情報では勇者に相応しい絶世の美女だったと聞いています」


「死んじゃったんだ……」


「ですが、俺達の親は親父しか認識にはありませんからあまりって言ったら、母に失礼ですね」


「そう、ね……どうして、どうしてなんだろ……」


 自分で双方の環境は『似ている』から励まし合おうとしたが、でも悲しくなる。『悲しみ』なんぞに意思などないが、無慈悲に溢れてくる。

 気にならないと言ったら嘘になるが、本当にどうしてと時々思う。

 その恨みの矛先は二代目に向けられ、レイムは三代目の悲願であろうレオンの殺害を自分がやろうとしている。


「私……やっぱり、寂しかった」


 ソージを見て、また本音が零れ落ちた。


「レイム、様……」


「ううん。ソージ……今だけは様はやめて」


「え……」


「一緒がいい。同じ立場じゃないとダメなの……」


 裾を掴み、レイムは俯く。

 ソージは自然と寄り添い、手を回し、抱き寄せる。


「大丈夫、レイム。大丈夫、俺がいるから」


 抱き寄せられたレイムも手を回す。

 意外にも抱きしめられる力は強かった。


 両親から離れて暮らしている共通点、だがレイムとソージ、両者の全てが同じというわけではないのだ。

 ソージには妹、幼馴染のソピアとサリアがいたが、レイムには最破という両親代行、仲間がいたが、本当の同じ歳の存在はいなかった。年齢というもの、生きている年月、何より主と配下の関係性。


『最破』という存在は確かに支えになったが、それは彼女に『打ち明ける』という手段を思い浮かばせずにいた。

 ジュウロウ達は自分を大切にしてくれた、だからこそ弱音なんて吐けなかった。

辛かったが、彼らがいたから救われたのは事実だが、寂しさは完全には無くならない。


 今、隙間を埋めたのは同年代か近い存在、そして恋をした特別な感情。


 それを自覚したからこそ、穴のようなものが痛みのように実感する。

 彼女に必要なのは、存在としての同等ではなく、生命活動年数が近くて信頼している存在、もっと言うなら、心の底から安心できる存在が……。


「辛かった、悲しかった……」


 紛らせたが、嘘であることには変わりはない。


 泣き叫んだって何も変わらない。


 だが『意味』がないことはない。


「うぅ、うわあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ――――」


 レイムは泣き叫んだ。

 迫害された気持ち、孤独を完全に埋めることはできなかった気持ち、それらに耐え、蓋をして、装ったことを解放した大きな反動に包まれる。


 泣きじゃくる。


 それは子供にとって当たり前のことだが、レイムはそれを出来なかった。

 それは我慢であり、最破達を悲しませないためでもあった。


 でも、誰にも限界は存在する。


「俺で良ければ、いつでも胸を貸すよ……」


「レイム様、大丈夫、私もいるから」


「あぁ、思う存分吐き出した方がいいです。よくここまで頑張りました」


 ソピアとサリアは二人に手を回し、寄り添い、抱きあう。


 主であるレイムの声が玉座に響き渡る。

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