#11.5 無関心から憧れへ




 中学生になっても、学校での私は相変わらず誰とも関わらないようにしていた。


 周りはみんな中学生になったことでマセたことばかり言う様になって、二言目には「ダレダレくんがカッコイイ」だの「ダレダレ君とダレダレさんが付き合ってる」だの、そんな話ばかりで、色恋沙汰は小学生の頃に韓流ドラマで卒業している私には、やっぱり合わない人たちばかりだった。


 そして厄介なことに、また私に構おうとする人が出てくるようになった。


「LINE交換しようぜ」

「好きな人いるの?」

「好きです。付き合って下さい」


 今まで気にしていなかったけど、ランコが言うには、どうやら私は異性が好む容姿をしているらしく、男子から頻繁に声を掛けられるようになっていた。

 だけども当然、他人と関わりを持ちたくない私が恋人を作る訳も無いし、好きだと言われても少しも嬉しくなかった。

 むしろ迷惑だった。


 最初のウチは自分で一人一人断っていたけど、頻繁に呼び出しだの告白だのが続いて、一応ランコも私を守ろうと色々動いてくれてはいたけど、クラスが違うからそれも限界があって、2年生に進級する頃にはストレスが爆発寸前になっていた。


 そんな時に同じクラスになったのが、安藤ミツオ。


 家が近所だし小学校でも同じクラスになったことがあったから顔と名前を知ってはいたけど、他人に興味が無かった私は話したことは無かった。


 2年でも最初はそうだった。

 全く興味を持ってなかった。


 いつも自分の席に座ってて、一人でニコニコしながら本を読んでいたり夢中でノートに何か書き物をしていたりしてて、「私と同じで一人が好きなんだな」と思う程度。


 そんな安藤ミツオとは、美化委員でも一緒になった。

 委員会がある時は、お互い一人ぼっち同士だから当然会話は無かった。

 警戒する必要も気を遣う必要もなくストレスも全く感じない、ある意味、私にとっては望ましいクラスメイト。

 そのことに気が付くと、安藤ミツオのことを好意的に見れるようになった。


 そして好意的に見れる様になると、あることに気が付いた。


 今まで自分と同類だと思ってたけど、私とは少し違う。

 私は一人になりたいのに周りは私の意に反して構おうとする。でも安藤ミツオは、本人の意思関係無く周りから距離を置かれている。

 それに気が付くと、安藤ミツオのことがちょっと羨ましくなった。


 ある時、学校帰りにそのことをランコに話したことがある。


「あー安藤ミツオねぇ。なんか分かるかも。 安藤って見た目太ってて背はちっさいし髪ボサボサでドン臭そうで男子からはバカにされてるし、女子とかも近づかない様にしてるけど、悪いヤツじゃあないんだよねぇ。 妙にジジ臭くて礼儀正しくていつもニコニコしててさ。 でも安藤のこと羨ましいって思うの、ミヤっちだけだろうね」


「本人は、周りと仲良くしたいのかな?」


「さぁ?どうだろうね。 別に一人でも楽しそうだからいいんじゃない? そだ、今度話しかけてみたら?」


「それはイヤ」


「まぁでも、委員会で一緒だったら、話す機会もあるんじゃない?」


「うむむ・・・」


「いきなりフレンドリーに話しかけたら喜ぶかもだよ? ミツオく~ん♪とか」


「絶対ムリ」


「あ!安藤ミツオを略して、『あんみつ』とかどう? あんみつく~ん♪とか超喜びそーじゃない?」


「あんみつは、少しアリかも」


 この時からランコと私の間では、安藤ミツオのことを『あんみつ』と呼ぶようになった。



 そんな中学2年の半ば。

 ほんの些細な、でも私にとってはとても印象深い出来事が起きた。


 中間試験で数学の試験の最中、私はお腹の調子が悪くなった。

 トイレに行きたいけどまだ試験問題は終わって無くて、それに試験官の先生に「お手洗いに行かせて下さい」なんて言えばクラス中の注目を浴びてしまうと思うと怖くて、どうして良いのか分からずピンチに陥っていた。


 そんな試験の最中に、あんみつが突然挙手して先生に「腹痛で臨界点突破寸前ですので、お手洗いへ行く許可を下さい」と普段とは違う真剣な表情で訴えていた。


「直ぐ行け!」と先生の方が慌てるくらいで、あんみつも教室を飛び出して走ってトイレに向かった。


 そのあんみつの姿を見たお蔭で冷静さを取り戻した私は、先ほどまで感じていた恐怖心が無くなり、私も挙手して「すみません。私もお腹が痛いです」と先生に申告することが出来た。


 そして、「お前もか!直ぐ行け!」と同じように許可してくれたので、私も廊下に飛び出し、あんみつの様に走ってトイレに向かい、事なきを得ることが出来た。


 この時のあんみつの振る舞いから、『孤独な学校生活の中でも何1つ恥じることなく堂々としている。それに比べて自分は、一人で居ることに固執して意地になってて、時には攻撃的になったりして、なんて矮小な人間なんだ』と気づくことが出来た。


 そして、この時からだと思う。

 私があんみつ、いや、あんみつくんに対して、『私なんかよりもずっと上の存在なんだ』、『私と同類・似た者同士なんて思うのは烏滸おこがましい』と思う様になったのは。


 今思えば、憧れだろう。


 あんみつくんに対して当時の私は、話してみたい、もっと知りたい、と思う様になっていた。


 でも、他人に対してこんな気持ちを抱いたのは初めてのことで、自分ではどうしたら良いのか分からなかったし、ランコにも知られたく無くて、その気持ちはひた隠しにした。





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