#10.5 私はエゴイスト



 私は俗に言うエゴイスト自己中

 子供の頃から自覚があった。


 私の場合は、他人に対して関心が無く、他人に合わせたり他人の為に何かをするのが苦手。 だから、それをしなくても済む様に、他人との関わりを持つことを避けて、自分の世界を守って生きてきた。

 


 でも、いくら周りと距離を置いても構おうとしてくる人は居る。

 大抵の人は、無視し続ければ怒ったり不機嫌な顔をして諦めてくれた。

 そのことに一切罪悪感を感じることは無かったし、ようやく静かになったと安堵するだけだった。


 だけど、それでもしつこい人が居た。

 家が近所で保育園から一緒だった犬山ランコ。


 ランコはいつも元気いっぱいで周りに人が沢山集まる様な人気者で、私とは真逆の人間だった。

 だから私はいつもランコの事を避けていた。

 でもランコは、私が逃げれば逃げるほどムキになって追いかけてくるようなアグレッシブなタイプで、どんなに私が拒絶の言葉をぶつけても全然へこたれないポジティブさも兼ね備えた厄介な人間だった。


 保育園の頃は私が泣けば先生が飛んできて守ってくれたから何とかなっていたけど、小学校ではそうも行かなくなった。

 特に学校が終わってからが大変で、家に帰ると毎日の様に「あそぼ!」と押しかけてきて、私が「ヤダ」と拒否しても、ウチのママが「お友達とは仲良くしなくちゃダメでしょ」と言って家に上げてしまうから、毎回ランコのペースに振り回されてきた。


 そのあまりの横暴さとしつこさにストレスの限界が来た時、私はついに爆発した。


 あれは小学2年の時。

 今でもよく覚えている。


 ウチでTVを見ていた時だ。

 私が毎回楽しみにしていた韓流ドラマを見ていたら、いつもの様にランコが押しかけて来た。

 私はランコが来ても構わずに集中してドラマを見続けていた。

 この日は、主人公と主人公のライバルの男性との間で揺れていたヒロインが遂に決断する回で、ドチラの男性を選ぶのかドキドキしながら私は見ていた。

 しかし、クライマックスのシーンに入った途端、ランコが「ドラマつまんない。WBCのが面白いよ?野球見よう!」と言ってリモコンでチャンネルを変えてしまった。


 唖然としてランコを見ると、「おー!日本勝ってる!」と興奮気味に目をキラキラさせていた。

 その顔を見てブチ切れた。


 飛び掛かってぶん殴ってやったら、ランコも反撃してきて殴り合いの髪の引っ張り合いの大喧嘩となった。

 慌ててママが止めに入ったけど二人とも止まらず取っ組み合って殴ったり蹴ったりで、服は破れるし鼻血も出てた。

 結局、今度はママが大爆発して取っ組み合いは終わり、二人とも滅茶苦茶怒られて、私もランコも大泣きした。


 翌日、朝起きて鏡を見たらランコに殴られたところがアザになっていた。 でも、これだけの喧嘩をしたのなら、流石にランコも私に構うことは無くなるだろうと安心したのに、その日も「あそぼ!」と言って押しかけて来た。

 ランコは私と同じようにアザだらけの顔だったけど、喧嘩したことなんて忘れているかのような笑顔だった。


 その笑顔を見て、私は悟った。

 ランコからは逃れられない。

 この女は、地獄の底まで追いかけてくる。

 思ってた以上にずっと図太くて、怖いもの知らずで、そしてバカだ、と。


 そのことに気付くと、今度は親近感みたいな感情が生まれた。

 仲間意識かもしれない。

 私とは真逆の人間だと思ってたのに、ランコも私と同じエゴイスト自己中なんだと気付いたからだと思う。


 その日、初めて自分からランコに自分の事を話をした。

 他人に合わせるのが苦手で、他人に向けて笑顔が作れないこと。

 他人の都合を押し付けられたり自分のペースを乱されると物凄くストレスを感じること。

 だからずっと他人と関わらないようにしてきたこと。


 するとランコは「だったらこれからは私がそういうのからミヤちゃんを守る。 友達の私には作った笑顔必要ないから」と言って、アザだらけの顔でニヤリと笑った。

 「いや、その一番のストレスはアナタだよ」と言ってみたけど、相変わらずのポジティブさでやっぱり通じなくて、それ以上は言うのを諦めた。



 その日を境に、ランコは学校では私に構わなくなり、でも学校が終わるとやっぱり毎日押しかけて来た。

 相変わらず図々しかったし苛々して喧嘩することもあったけど、私が本心で嫌がることはしなくなっていた。



 そして小学3年になると、ランコが「ミヤちゃん、一緒に野球やろう!」と言い出した。

 野球に興味が無かった私は「またバカなこと言い出した」と最初は呆れたが、どうにか私に野球に興味を持たせようとしたランコが持ってきた野球漫画を読んで、まんまと興味を持ってしまった。


 その漫画は、ガールズの高校野球を描いた作品で、個性的なキャラクターたちの中に私と同じように小柄で体格に恵まれていないのにチームで唯一全国レベルのスラッガーが登場してて、主人公では無いけど物凄く恰好良くて憧れを抱いてしまった。


 そんな私を見て「ミヤちゃんなら絶対に好きになると思った!」と得意げな顔したランコにイラっとしたけど、素直に認めてランコと一緒に地元のガールズチームに入団した。



 実際に始めてみると、野球は意外と私の性に合っていた。

 素人からのスタートだったから、練習をすればするほど上手くなっていくことが楽しくて遣り甲斐を感じ、毎週末の練習は休まず参加していた。


 それにチーム競技だけど個人競技の側面もあって、周りには私やランコの様なエゴイストばかりで喧嘩は絶えなかったけど、みんな上手くなりたいという気持ちだけは同じで、少しづつお互いを認め合えるようになり、仲間意識も強くなった。


 高学年になっても学校では相変わらず周りと距離を取って一人で過ごしていたけど、野球チームではレギュラーになれてチームメイトと一定の距離を保ちつつも信頼関係は築けるようになっていた。

 友達とは違う戦友というかビジネスライクというか、でもその距離感が私には丁度良かった。


 だけど、小学校を卒業と同時に私たちはガールズを引退して野球も一時辞めてしまった。



 野球を辞めた私に残ったのは、周りと距離を置いて一人で過ごす学校生活だけ。

 でも、野球を始める前と少し違ったのは、他人に対して興味を持つことが出来る様になっていた。







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