第21話 迷惑系との遭遇・下


「ねえ、どいてよ!こんなことして恥ずかしくないの?」


 マリーチカが言うが。

 

「いやー急いでいるところだとしたら、誠に申し訳ない」

「困ってしまうなぁ」

「本当にジャマするような形になってしまって心苦しい。本当に心苦しい」

「でも、ほら。ダンジョンアタックは長い方がウケがいいでしょう。急がずゆっくり一休みもいいもんですよ」

「そうそう、道のりはまだまだ長い」

 

 使い魔ファミリアの方を見る。当たり前だがチクタクと時間は過ぎていく。

 ……ここでグダグダするのは時間の無駄だな。どうせ言って聞くわけでもない。


「放っておこう。少し回り道になるが別ルートを行く」


 こういうのは相手にしないのが最善の対応だ。

 こっちがパニックになったり困ったり起こったりするのを見るのが目的だ。


 力づくで通ろうとしたら思うつぼだろう。

 ここぞとばかりに大袈裟に騒ぎたてるつもりだろうな。ニヤニヤした薄笑いを見ていると察しがついた。

 日本にもそういうのはいたが、人間の考えることはどこでも同じか。


「遅れを取り戻す。行こう」

「うん!」

「了解です」

「頼むぜ。アニキ」


 隊列を組みなおしてアストンたちが元来た道を走り始める。

 第二プランはあまり考えてなかったから、頭の中でこのフロアのマップを思い浮かべた。


「おい……ちょっと待て、おい!」

「此処通れなくていいのかよ」 


 後ろからマルズたちの声が聞こえるが、まあどうでもいいな。



「お疲れ様」

「お疲れ様でーす」

「今日もうまくいったね」


 あの後、別ルートを行ってあいつらの邪魔した場所を迂回して下の階に進んだ。

 こう言っちゃなんだが、下への階段の部屋の前に居座られなくて良かった。


 そうなったら別の階段に行くしなかったが、そうなれば大幅タイムロスだった。

 邪魔をするにしても詰めが甘い


「他のルートを知ってたんですか?」

「まあ一応な」


 最短ルートは覚えているが、一応それ以外の道もある程度は知っている……とはいえ最短ルートじゃないし、完璧でもない。

 たまたま今回はうろ覚えがうまくいったから運が良かったな。

 ただ、あの連中の妨害のせいで目標時間を15秒オーバーしたのは腹立たしい。


「15秒もオーバーさせやがって」

「15秒くらいいいだろ、アニキ」


 アストンが丸いパンをかじりながら気楽そうに言うが、さすがにそれは聞き逃せない。


「RTAだと1秒でも遅れたら負けだぞ。そこは間違うなよ」


 タイムを競う競技はコンマ1秒でも遅れたら負けだ。天と地くらいの差がある。

 世界大会では1秒差を見たことがあるし。俺自身も5秒差で記録を更新できなかったことがある。

 あの時の脱力感は忘れられない。

 

「でもよ……負けって言っても敵なんていないじゃねぇか」

「まあそうかもしれんが、なら目標タイムが敵だと思え。1秒でも遅れたら負けは負けだ」

「ああ……分かったぜ、アニキ」


 アストンが若干引き気味に答える……ちょっと言い過ぎたか

 とはいえ、慣れてきて手際が良くなっているのはいいことなんだが、緊張感がなくなるのも困る。


「でもなんなの、あいつら」


 マリーチカが怒ったように言って空気が和らいだ。

 オードリーもだが思いっきり無遠慮な目で見られたから腹が立つのもまあ分かる。


 しかし迷惑系に付きまとわれるようになったということは少しは俺たちも出世したってことではあるんだが。

 それはそれで迷惑なのでもう二度と会いたくはないな。


「おお、アトリ!今日も楽しませてもらったぜ」


 扉を開けて星空の天幕亭に入ってきたのはマーカス達だった。


「災難だったな」

「でも、あいつらの間抜け面って言ったらなかったぜ」

「おい……行っちまったぞ、とか言ってたからな」


 ギャラリーが口々に言ってくれる。

 まあ見てくれてる奴らが楽しんでくれたから結果オーライということにしておこう


「確かにあいつらのアタックは一部では受けるんだがな、見ててイライラするんだよ」

「まああいつらを返り討ちにしてくれて良かったぜ」

「ほれ、アトリに乾杯だ」



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