第22話 王都からのオファー

「やあ、君達がアストン、アトリ、オードリー、マリーチカのパーティだね」


 7回目のアタックを2日後に控えたその日。

 新しい宿である風の行方亭のホールで作戦会議をしていたら、二人の男が訪ねてきた。


 一人はいかにも仕立てがいいって感じの白と青のスーツを思わせる服を着た若い男。

 25歳くらいだろうか。洒落た口ひげが似合っている。こっちを探るような視線には隙が無い。

 いかにもインテリな金持ちって感じだ。


 もう一人は同じような衣装の60歳くらいの男。

 銀色の白髪にメガネ姿の痩せ型で、何となく執事を思わせる。


「あなたは?」

「初めまして。私はエドワード。王都ヴァルメイロで探索者の書庫亭の店主をしている」


 そう言うとアストンたちが固まった。


「どうした?」

「王都で一番のアタッカー配信酒場だよ……ボクでも名前くらい知ってるもん」


 マリーチカが小声で答えてくれる。

 

「君達のアタックを見せてもらったよ。実に素晴らしい。ついては、だ。我々と独占配信契約を結んでもらいたい。ホーム契約もオファーする」

「独占配信?」


「ヴァルメイロとその周辺での配信を我々の店にだけするというものさ。代わりに配信ごとにこちらから契約分の報酬を支払う。

国中という契約にしてもらえれば、勿論こちらからの報酬はさらに上げるが、どうだい?」


 エドワードが言う。

 今は俺達のアタックはこの街であるアルフェリズ界隈にだけ配信されているらしい。

 で、星空の天幕亭がホーム契約と先行配信契約を結んでいる。


 独占配信っていうことは、王都での配信はこの店のみになるってことなんだろうか。

 しかし、超有名店からのオファーがこんな早く来るとは思わなかったな。

 王都の方で配信されればもっと稼ぎも良くなるだろうか。


「どうする……アニキ?」

「俺はアタックの方は先導するが、このパーティのリーダーはお前だろ。アストン。お前の決断に従うよ」


 マリーチカが俺に同意するように頷く。

 アストンとオードリーが視線を交わした。


「……大変光栄なオファーなんですけど、独占ではなくて先行配信でお願いしたいです。それとホームはもう既に決めているんです」


 アストンが申し訳なさそうに言う。

 エドワードが少し顔をしかめた。断られるとは思ってなかったんだろうな。


「移動させる気は無いかな?勿論今の契約より好条件をオファーする。

それに、こう言っては何だが、アルフェリズの店よりも我々の店がホームというのは君達にとってもメリットがあると思うが」


「今のホームは、最初の配信の時から俺達を贔屓にしてくれてたので……今から変えるのは申し訳ないんです」

「……なるほど、中々義理堅いのだな」


 暫くの間をおいてエドワードが言った。


「……だが、そこも気に入ったよ。

あっさり金で転ぶ奴は本質的には信用できないからね。だが、それなら王都ヴァルメイロでの先行配信は我々が一番オファーだ。我々からは変えないで貰いたいが、いいかな?」

「ええ、それはもちろん」


 アストンが言うと、エドワードが後ろの執事っぽい爺さんに合図をした。

 爺さんが書類鞄から一枚の書類を取り出して机の上に置く。


「ではこの契約にサインを頼む。ギルドとの手続きは此方でするがいいかい?」

「はい、お願いします」



「すまない、アニキ」


 宿に帰って二人になったところでアストンが謝ってきた。

 だが。


「いや、俺に謝る必要はないだろ。リーダーはお前なんだし。

それにホームを変えないのはいいことだと個人的には思うぜ」

「そうかい?」

「ああ。狭いコミュニティで目先の利益につられると不義理な感じになるからな。長い目で見ると損になる」


 そう言うとアストンが安心したようにため息をついた。


「ただ、なんで断ったんだ?」


 さっきの話を聞く感じ、断る理由は良く分からなかった。

 あっちの方が明らかに稼ぎにはなったと思うんだが、何か理由はあるんだろうか。


「……できればさ、俺の出身の村にも配信されてほしかったんだよ」

「そうなのか?」


「俺の生まれた村……ヴァルメイロの近くのラポルテ村って言うんだけど、小さいけどアタッカーの配信酒場があるんだ」


 アストンが静かな口調で言う。


「俺さ……オードリーと駆け落ちしてきたんだよ」

「……駆け落ち」


 アストンとオードリーが同郷で、恋人同士なのは分かるんだが、そんな経緯があったとは。

 ていうか、駆け落ちなんていう単語を聞く日が来るとは思わなかったな。


「俺達はもともと付き合ってたんだけどさ。村の地主の息子がオードリーに目を付けてきやがってさ……で二人で逃げて来たんだ」


 アストンが言うが……顔に似合わず中々に思い切ったことををしているな。

 

「だから、俺とオードリーはやったぞ……一端のアタッカーになったぞって言うのを見てもらいたいんだ。俺やオードリーの親父やお袋に」

「なるほどな」


 そう言うことなら分かる。

 独占配信は実入りは相当に大きかっただろうが、独占配信にするとその村の酒場への配信は無くなるだろう。


 それに、ゲーム配信にせよなんにせよ、知られている、何処でも見れるっていうのはかなり重要だ。

 それに、独占配信をしていて其処と揉めたとしたら、知名度をまた挙げ直さないといけない。

 長い目で見れば独占契約はリスクが高かったかもしれないな。

 

「そう言うことなんだ」

「ああ、よく分かったよ。いい決断だと思うぜ、リーダー」


「ありがとよ、アニキ」 

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