第39話 予期せぬ出会い

 王都ヴァルメイロでの滞在は三日間だ。その二日目。

 少し遅めの9時ごろに起きてホテルのレストランにアストンと降りる。


「ようこそ。もうお仲間は起きておられます。ご案内いたします」


 黒の制服に身を固めたウェイターが礼儀正しく言ってくれる。

 天窓から明るい太陽に光が入ってくる広々としたホールには朝食を食べている客で半分くらいが埋まっていた。


 ホールの中央の広めのテーブルにはすでにマリーとオードリーが座っている。 

 ガラスのグラスに入ったジュースを飲みながら何か話していたが、こっちを見て手を振ってくれた。


「おはよう、アトリ!」

「おはようございます、アトリさん。アストン、少し寝すぎじゃないの?」

 

「よく寝れたか?」

「ベッドが柔らかすぎてなんかよく寝れなかった」


 マリーがちょっと眠そうな顔で言う。

 それはそうかもしれない。普段寝てる宿のベッドと比べるとかなりふかふかの柔らかいベッドで逆に落ち着かなかった。

 ベッドは適度な硬さというか反発力がある方がいいな。



 席に座ってすぐにウェイターが料理を運んできてくれた。

 こんがりと焼かれたパンに、燻製の魚やソーセージとチーズ。それとオムレツ。麦のような粒粒の野菜にアボガドのような緑のソースをかけたサラダ。


「美味しいね、アトリ!」

「ああ、本当に」

 

 パンとオムレツとソーセージと言う組み合わせは、なんとなく日本のホテルとかで出てくる朝ご飯を思わせる。

 個人的にはサラダが旨い。

 粒粒のこれは何なんだか分らんが、上に散らされたフライドオニオンがサクサクしていていい味を出している。 


「やあ、おはよう」


 食事をしていたらカイエンが声をかけてきた。

 後ろのはもう一人、背の高い女の姿が見える。少なくとも真理に迫る松明のメンバーじゃないな。初めて見る顔だ。


「おはようございます!」


 アストンたちが立ち上がって礼をする。


「おはよう、諸君。今日も色々と忙しいぞ。

今日は王都のギルドに挨拶に行ってもらいたい。君達に会いたいと思っているアタッカーが山ほどいるからね」

「そうなんですか?」


 アストンが聞き返すが


「当然だろう。昨日も言ったが君達は今や新進気鋭のトップアタッカーの一角なんだぞ」

「はい!ありがとうございます!」

「わかりました!」


 カイエンが答えてアストンたちが嬉しそうに返事をした。

 まあなんだかんだでトップクラスと言われるのは悪い気分はしない。


「ところで、その後ろの人は?」


 後ろの奴が俺に向かってアピールするようにチラチラと視線を向けてくるのは分かった。

 何か話したくて仕方ないって感じの雰囲気が伝わってくる。放っておくのもなんか悪い気がする。

 

「ああ、そうだ。紹介が遅れたね」

「まったく……あなたは優秀ですが話が長すぎますよ、カイエン」


「君は相変わらずだな」


 カイエンが言うのを待ちかねていたって感じでそいつが前に進み出てきた。やれやれって感じで肩をすくめてカイエンが場所を譲る。

 トップアタッカーであるはずのカイエン相手にこんなこと言うとは、いったい何者だ?


「やあ、アトリ」


 親し気な口調でその女が俺に向かって声をかけてきた。


「彼女は最近、王都に現れたアタッカーだよ。君と同じ、RTAスタイルのアタッカーだ」


 カイエンが答えてくれる。

 肩より少し伸ばした長めの銀色の髪。ちょっと眠そうな印象の二重瞼の青の目と、整った細面の顔立ちでおっとりした印象だ。

 左の目元には黒の蜥蜴のようなタトゥーというか文様が入っているが、顔立ちにイマイチマッチしていないな。


「誰だ?」

「分からないのですか?」

「初対面だと思うんだが」


 背が高くてほっそりした体つきはひょろりとした雰囲気を漂わせている

 ただ、腰にはレイピアを吊るしていて革の簡素な胸当てをつけているから、軽戦士フェンサーなのは分かった。


「私です……AROD13ですよ」

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