第38話 高みを目指すためには
パーティが終わって用意してもらった宿に移動した。
その宿もまた豪華だ。入口にはドアマンがいて恭しく一礼してドアを開けてくれる。
中にはスタッフがいてフロントまで付き従ってくれた。
正面ホールは高い天井で天井には華やかな
壁にはワインレッドの壁紙が貼られていて、立派な絵が掛かっていた。写真で見たヨーロッパの白の用だ。
「凄いね……」
「さすが王都だぜ」
「これ、王様のお城?」
感心した、というより呆れたって感じで3人が言う。
普段の部屋割りは何となくオードリーとアストン、俺とマリーになっているが、流石に今回の部屋割りは俺とアストン、オードリーとマリーになった。
結婚前は男女は分ける、と言う価値観なんだろう。
◆
「なあ、アトリのアニキ」
そろそろ寝るかって感じの時間にアストンが声をかけてきた。
そう言えば久々のアストンとの相部屋な気がするな。
「なんだ?」
「なあ……どうやったらアニキみたく強くなれるかな」
アストンが聞いてくる。
「だってよ……いずれアニキはいなくなっちまうかもしれねぇ」
「なぜ?」
そういうとアストンが口ごもった。
暫く間が開いてアストンが重い口調で口を開く。
「アニキくらいの腕のアタッカーなら……他のパーティからもアプローチあると思うんだよ」
「今のところその気配はないし、そのつもりもない」
と思うが……今から思えばカイエンがアルフェリズで言おうとしていたのは、真理に迫る松明に入れってことかもしれない。
ソロでやるRTAは別として、高難度ダンジョンやレイドボス攻略を目指す時はチーム戦だ。上手いプレイヤーがパーティを移籍するなんてことは結構ある。
ただ、俺を助けてくれたのはこいつらだ。
どういう経緯でここに来たのかさっぱり分からないが、こいつらがいなければ野垂れ死にしてたかもしれないし、貴重な練習時間と金を無駄にしてまで救ってくれた。
RTAでもそうだが、狭いコミュニティで目先の利益につられて不義理をする奴は短期的には得をするが、長期的には信頼を失う。
誠実さというか義理堅さというのは数値には現れないが、結構重要なパラメータなのだ。
「俺はさ……オードリーを守ってやらないといけないんだよ。俺はあいつが大事なんだ。単なる
「ああ……それは分かる」
本家と言うかゲームのミッドガルドではクラスは初期クラスから選択してレベルを上げていくんだが。
どうもこの世界ではクラスは生得的なものらしく、レベルを上げてクラスチェンジ、ということはできないらしい、ということが最近分かった。
カイエンの
同じアタッカーでもクラスの差で明確な序列があるんだろう。
RTAでも持ちタイムが上の奴と下の奴じゃ序列はあった。
装備品とかレベルとか色んなもので優越感を感じたり劣等感を感じたこともある。
今回王都で会った奴らは殆どが上位クラスだった。当たり前だが上位クラスの方が単純に強い。
だからアストンが今感じている気持ちも分かる気がするな。
「一つ言えることがあるなら……考えること、工夫することかね」
ミッドガルドのRTAのトップ、AROD13は完全な天才肌だ。
配信動画を何度も見たが、恐ろしく鋭い感覚とパッド入力、ミスしたときのリカバリーの異様なまでの速さ。
マネできる気がしない。
インタビューを読んだこともあるが、言ってることの次元が違い過ぎた。
嫌な奴じゃない……少しだけメッセージのやりとりをしたことがある。向こうは忘れてるだろうが。
話した感じではむしろいい奴だ。
きっと今頃9分台を出すのに練習してるだろうな。だが才能の差には打ちのめされた。
「才能の差はある。俺も凡人だからな。だけど工夫した」
徹底的にコースを調べ、タイムを削るあらゆる工夫をした。
そして幸運も味方して世界記録が出た
「才能が無かったからこそ、凡人だからこそ俺はあの壁を越えられた」
出せる技、持っているスキルには差はあって、それは越えられないかもしれない。
だが、思考すること、工夫することにクラスは関係ない。
9分台は勿論嬉しかったが、その壁を破れた過程が俺の誇りだ。
「アニキにも苦労した時代があったんだな」
アストンが言うが。
どっちかというと私生活も含めて苦労してきた時期の方が殆どだぞ。
RTAは研究の反復練習が大事だからな。
「正直言って、アニキはMAPの把握も戦闘もあまりに完璧すぎるからさ……初めからそうだと思ってたよ」
「そんなわけないだろ」
失敗だらけで記録が伸びずしんどい時期もあった……というかそういう時期の方が長かった気もするが。
それでもあの時にめげなかったから、今こうしてやれているのかもしれない。
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